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5 放っといてください!
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メイド姿の婚約者は、俺に向かって言い放った。
「いいですか?確かにメイドは誰もいませんし、私は毎日料理、洗濯、掃除全て自分でこなしています。」
特徴的な水色の綺麗な髪に、緑の目。どこからどう見てもメルは美少女である。誰からも可愛がられてきたであろうこの令嬢が、自分で家事をこなしているだと?
「そんな、、、。本当に申し訳ない。大変だっただろうに、、、。」
メルは俺を睨みつけて言った。
「同情しないでください。初日に言ったでしょう?私は放っておいてもらえるのが一番幸せなんですよ!」
なぜメルは、これほどに他人から離れようとするのだろうか。実家に帰りづらい事情でも有るのか?
「実家に帰りづらいのか?もしも、言いづらいなら、俺からメルさんの両親に上手く言っておこうか?」
メルと婚約したが、俺はメルと結婚するつもりはない。メルだから、結婚しないと誓っているわけではなくて、俺は誰とも結婚するつもりは無かった。
両親がどうしてもと望むので、仕方なく婚約しているが、できるだけ早く追い返すようにしている。メルさんのような美しい女性を俺の婚約者として置いておくのは、あまりにも申し訳ない。
「このあほ!!わからず屋!!」
メルはその見た目に似合わない言葉を使った。だがこれだけかわいい子から出た暴言は、不思議と腹が立たないものだな。
「結婚しろ、と言われるのが鬱陶しいだけで、 親子関係に問題は無いの。
いい?
私はここで自由にしているのが楽しいのよ。別に誰かに世話をしてほしいなんて、これっぽっちも思ってないの!
だから私を放っておいて頂戴!」
急なタメ口に、少し心が踊った。この令嬢は、普通の貴族の女性とは異なるようだ。
「素晴らしい。」
俺はメルを見つめた。なんと自立心があり強い女性だろうか。正直なところ、女性は弱く守るべき存在だと思っていたが、メルはそうではないようだ。
「え?」
メルがきょとんとした顔をする。ああ。だめだな。多分メルの挙動が俺のツボなんだな。
「メルの気持ちはよくわかった。ならばメルの望む通り、これまで通りの生活を保証しよう。」
きっと、俺にはわからないなにか考えがあるのだろう。ならばそれを取り上げはしない。
「ありがとう。」
メルが嬉しそうに笑う顔を見ていると、俺まで嬉しくなった。こんな気持ちは、いつ以来だろうか。愛されたくない、とメルは言ったが、俺も誰かを愛することを諦めている。
そんな俺ならば、もしかしたらメルの婚約者にふさわしいのかもしれない。
「せっかくだから、私が作ったクッキー食べていく?味に自信は無いけどね。」
メルが抱えたクッキーはとても可愛らしく、見るからに美味しそうだ。
「是非、いただくよ。楽しみだ。」
その日食べたメルのクッキーがあまりにも美味しく、俺は連日メルの元に通うことになったのだった。
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