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1 愛されない婚約はどうですか?

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アトラス国東宮殿のバルコニー。第二王子アレックスの婚約者として宮殿に入ったちょうどその日に、アレックス王子は私に言った。

「メル。俺は君を愛するつもりはないし、婚約者として扱うつもりもありません。」

ほう。アレックス王子の青い目に見惚れている間に、なんだかとんでもないことを言われた。私の名前はメル・サイモン。この国の有力貴族サイモン家の次女である。

「はあ。」

なんと答えていいかわからず、私は間抜けな声を出した。

「もしも、それが嫌ならすぐにでも婚約破棄して、この宮殿を出ていってくれて構いません。もしも必要ならば、メルさんの新しい婚約者探しをお手伝いします。」

優しいんだか、酷いんだかよくわからない人だな。愛さない、というくせに、婚約破棄した後の私が困らないように気を使ってくれている。きっと何か事情があるのだろう。

「うーん。」

私としても、本当は婚約など誰ともしたくなかったが、親に頼まれて仕方なく王子と婚約することを決めたのだ。

私には前世の記憶がある。前世で私は結婚によって酷い目にあったのだ。実際、私を最後に殺したのは私の夫だしね。

"愛されず、婚約者として扱われない"

私にとってそれは、むしろ好条件だった。だが、すぐに飛びつくわけにはいかない。しっかりと生活が保証されることを確認しなくては。

「朝昼晩、ご飯はちゃんと食べれますか?一日一回シャワーを浴びられますか?」
 
「え、ええ。それは勿論、、、。」

予想外の質問だったのか、アレックスは戸惑いながら答えてくれた。よしよし。愛はないが、食事はあるのだね。最高じゃないか。

「それならば素晴らしい取り決めですね。出ていくなんてとんでもない。ここで王子の婚約者としてのんびりさせてもらいますよ。」

私は笑顔でそう答えた。

「え、、、っと、、、。俺はメルさんを愛しませんし、婚約者として扱わないのですが、それでもいいんですか、、、?」

アレックスはさっき言ったことをもう一度繰り返した。

「愛がない方が良いんですよ。」

結婚なんてもうまっぴらごめんだし、愛されるとか、愛するとか、そんな感情ともう関わりたくないんでね。

「そう、、ですか。もしも、婚約者としてここに残るのなら、身の回りに十分に注意してくださいね。」

「はあ、、。」

その時は深く考えなかったアレックス王子の言葉だが、もっとちゃんと気にしておくべきだった。気をつけるべきは、アレックス王子の愛人だったのだ。


  ◇◇◇



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