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2節.ここには居場所なんてなかったのね
しおりを挟む次の日の夕方。
部屋を出た私は、
血の気が引いていくのを感じた。
恐ろしい噂が城中に伝わっていたのだ。
「ねえ、聞いた・・・?
ルミナ様がリーテック国を
裏切った罪で
城を追い出されるらしいわよ・・・?」
「しかもルミナ様、
隣国の男の子供を
妊娠したんでしょ??」
「フォスター様が可哀そうだわ、、
ルミナ様を
大切になされていたのに・・・」
使用人の女どもが
ひそひそとつぶやいた。
城の人間が皆、
冷たい目で私をみている。
昨日までは、
国を救う英雄として
接してくれていたのに。
城中の人間が、
王妃ルミナがリーテック国を
裏切り他国に逃亡すると
噂していた。
その雰囲気に耐えきれず、
私は自分の部屋に戻った。
部屋のドアをぱたんと閉じて呟く。
「最低な男ね、、、。」
ドアに背を付け、
ずりずりと座り込んだ。
こんなうわさを流したのは、
フォスターとエイナルに違いない。
あんなくだらない噂を
信じてしまうのね。
本当は裏切ったのはフォスターで、
妊娠したのはエイナルなのに。
「ここに私の居場所は無いんだわ。」
自分に言い聞かせるように呟いた。
英雄だと囃し立てられて、
いつの間にか思い上がっていたのね。
居場所なんて幻想だったのに。
私は元々戦争孤児で、
この国に血が繋がった家族は
一人もいない。
私を拾い居場所を与えてくれたのは
フォスターの父親である前国王リズルだった。
リズル様は本当の家族のように
可愛がってくれた。
フォスターと仲良くなったのも、
リズル様のおかげだった。
だがリズル様は2年前に
突然亡くなってしまった。
その喪に服す理由で、
私たちの結婚が延期になっていたのだ。
結局この国に、
家族はいないんだわ。
どうしようもないくらい、
一人ぼっちだ。
膝に顔を埋める。
涙がぽろぽろとあふれてきた。
結婚しよう、
私にそう言ったフォスターの優しい顔が
今でもはっきりと思い出せる。
今ではもう、
あの優しい顔を私に向けることはない。
「大好きだったのよ、フォスター。」
誰にいうわけでもなくつぶやいた。
朝から晩まで
必死で魔法の修行ができたのは
フォスターがほめてくれたから。
そんな単純な私を貴方は裏切ったの。
もう、この城を出よう。
城外へと続く裏口のドアに手をかけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リーテック城裏門。
裏門は普段、固く閉じられている。
懐から鍵を取り出し
ガチャリと開けた。
さようなら。フォスター。
もう二度と、会うことは無いわ。
心の中で恨み言を言いながら
門を開いた。
するとその時。
「ルミナ!」
ちょうどあと一歩で
城から出られるところだったのに。
「タイミングが良いじゃない。
アレックス。」
呼び止めたのは、
リーテック国騎士団長の
アレックス・ランサード。
「ルミナが出ていくなら
裏門からだと思って
1日中ここで待ってたから。」
アレックスは立ち上がり、
真剣な眼差しで言った。
「行かないでよ。ルミナ。
ルミナがいなくなったら、
この国は終わりだよ。」
「騎士団長のあなたが言うのね。」
アレックスは首を振った。
「俺だからわかるんだ。
ずっとルミナと一緒に
戦ってきたんだから。」
アレックスは
私をまっすぐに見て言った。
悪魔との戦いの最前線に立つのは、
大抵、魔法使いのトップである私と、
騎士団長であるアレックスだった。
「そうね。
本当に沢山、一緒に戦ったわね。」
何度戦っても、悪魔は恐ろしい。
だけど、
アレックスなら背中を守ってくれると
いつも信じていた。
つま先立ちになって、
アレックスと目線を合わせようとした。
だけど、それだけじゃ全く届かない。
諦めて、アレックスを見上げる。
「昔は泣いてばかりだった
アレックスが
こんなに大きくなって。」
初めて出会ったのは、
私が10歳、アレックスが7歳の時。
アレックスは私と同じ、孤児だった。
血の繋がりはないけれど、
アレックスを弟のように可愛がってきた。
「止めたって無駄よ。
アレックス。
私はもう、戦えない。
戦うためのパワーを
無くしてしまったの。」
貴方を置いていくのは、
本当に悪いと思ってる。
「どうしても、
行ってしまうのか?」
「ええ。」
アレックスは少し黙った後、
ぎこちなく笑顔を作った。
「ルミナが決めたことだよ。
俺にこれ以上
反対なんてできないな。」
私は、ポンポンとアレックスの頭を撫でた。
たまに危なっかしい部分もあるけれど、
立派に成長したわね。
愚かな姉を許して頂戴。
「元気でね。アレックス。
体に気を付けて。」
「ああ。
また、会おうな。」
「ええ。」
アレックスに見送られ、
私は城を後にした。
そうか、
私にはまだ家族がいたのね。
部屋を出るときよりも、
ずっと体が軽く感じた。
その後、
リーテック城の兵によって
ルミナの行方捜索が行われた。
だが、いくら探しても
ルミナの居場所を見つけることは
出来なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2か月後。
「あー、幸せ!」
リーテック城から、
遠く離れた東のステリ村。
朝食のトーストを食べながら、
私はそう呟いた。
「ルミナ先生~
リンドンばあちゃんが腹を壊したから
見てほしいって~。」
村の少年が、窓から私を呼ぶ。
「了解、
もう少ししたら行くね~。」
治癒術を使える私は
ステリ村で医師としての職を得ていた。
小さくて安全なこの村には
私に戦えという狂った奴はいない。
お年寄りの体の具合を見たり、
村人の怪我を治療したりして、
日々を過ごしていた。
「ルミナ先生。」
違う村人が私に声をかけてきた。
「は~い。どうしました??」
「ルミナ先生を訪ねて
青年が村にきたよ。」
「え?」
嫌な予感がする。
「リーテック城から
ここまで旅して来たらしいな。」
誰だろう。
せっかくこの村で楽しい生活を
送っていたのに。
「はぁぁぁ。」
大きくため息をついた。
私の幸せを妨害するのはだれ?
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「ひさしぶり!ルミナ!」
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