【完結】婚約破棄を望む王子様にお飾りの正妃にして欲しいと頼んだはずですが、なぜか溺愛されています!

五月ふう

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17.信じてくれてありがとう

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「レオ様?」  

目を覚ますと、レオが私に布団をかけ直してくれていた。

「起きたのか。」

優しい顔をしていたレオが途端に険しい顔に変わった。

(レオ様の笑った顔が見てみたいな。)

レオは乱暴にベットに腰掛けると、私の顔を見ずに言った。

「オリビア・ジェームズ。残念だが、おまえは死んだ。」 

レオが早口で言うので上手く聞き取れない。

「えっと?」

「オリビアは死んだのだ。」

私は首をかしげる。

(私は幽霊?)

私はそっとレオの腕に手を伸ばす。

「何をする?!」

やはり、私は幽霊ではないらしい。レオの腕に触れられるし、確かにその温かみを感じる。

「私は生きているではありませんか。」

レオは私を睨み、腕を振り払った。

「城の中でお前は俺に殺されて、死んだことになっている。これからの人生、二度とオリビア・ジェームズとして生きることはできない。」

私に言い聞かせるように、レオはゆっくりと言った。

(オリビア・ジェームズとしてもう二度と生きる必要はないのね。)

私は嬉しくて、小さく笑った。あの恐ろしい父親の駒として、利用されることはもうないのだ。

「ありがとう、ございます。」

レオは大きく目を見開いた。

「なぜ、礼を言う?」

「ジェームズ家の娘オリビアとしての人生は、決して幸せなものではありませんでしたから。」

私を見つめるレオの褐色の瞳はゆらゆらと揺れている。手を伸ばせば触れられる距離にレオの顔があった。

(なぜ抱きしめたくなってしまうんだろう。) 

怒っている顔を作るレオが、泣いてしまいそうに見えて胸が締め付けられた。

「なぜ俺がこんなことをしたのか、理由を聞かないのか?」

俯いたレオは呟く。

「詳しい理由は全くわかりません。ですが恐らく、レオ様は私を守ってくださったのでしょう。」

殺されたはずの私は、誰にも傷つけられることなく、ふかふかのベットの上にいる。私を傷つけようとする者からレオに守られたのだろう。

レオは大きく息を吐き、顔をあげた。

「なぜ、オリビアは俺を恐れない?」

私は真っ直ぐにレオの顔を見た。レオナと同じ優しい目をした男。最初からレオを信じずにはいられなかった。

「レオ様は優しい人です。誰がなんと言おうと、私はレオ様を信じます。」

レオは小さく顔を歪めた。

「俺を信じるなんて馬鹿のすることだ。」

「私が馬鹿なのはその通りですが、レオ様を信じることは馬鹿じゃありません。アダムズさんも、ジョシュアも、エレリアも、レオ様を信じているではありませんか。」

きっと、彼らだけじゃない。レオを信じる人は他にもきっといる。

「やめてくれ。」

レオは私の右手首を掴み、強く握った。

「最初から、馬小屋になど送らず追い返してしまえばよかった。そうすれば、お前が愚かな勘違いをすることなどなかったろう。」

私は左手でレオの頬にそっと触れた。

(ねぇ、私を突き放そうとしないで。)

「嫌です。私は貴方に会ったときから、ここに留まると決めていました。」

レオの瞳の中に、私が映り込んでいるのが見えた。そのことがとても嬉しくて、ずっとその目に写っていたいと願う。

「俺を、信じることはやめてくれ。オリビア。」

レオは私の手をそっと離した。

「頼むから、俺を恐れてくれ。」

レオの言葉に笑いそうになる。

「それは無理です。レオ様。貴方は最初から、私に優しかった。あんな素敵な馬小屋に私を送ってしまったのですから、言い逃れはできません。」

レオは黙り込んで頭を押さえた。

「何を言っても、聞きやしないな。」

「信じると決めてしまいましたから。」

レオは小さく息を吐くと、すこしだけ笑った。その顔に、心臓がドクンと音を立てた。

「オリビア。」

レオが私の名前を呼ぶ。

「はい。」

「俺の言葉を信じるなら、今から言うことも信じてくれ。」

レオの口調と表情が少し柔らかなものに変わった。

「はい。」

私は深く頷く。

「俺の継母であるフローレンスは、オリビア、君を殺そうとしている。このまま俺の婚約者として城に留まればオリビアは殺されてしまうだろう。」

驚く気持ちはあるが、どこか納得感もある。フローレンスは何かが恐ろしかった。

「だからこそ、オリビアは少しここで隠れた後、この城から遠くに逃げなきゃならないんだ。分かるな?」

「分かりたく、ありません。」

レオは私の両肩を掴み、私に言い聞かせた。

「頼むから、分かってくれ。三日後、俺はオリビアをこの城から逃がす。生き延びるための資金は持たせるし、ジョシュアも護衛につける。」

私は黙ってレオを見つめる。レオは言葉を続けた。

「そしてこの城から出たら、二度とここには帰ってくるな。この城であったことを全部忘れて、幸せに暮らすんだよ。」

レオの声は、少し震えていた。

(なぜ、こんなに優しい人が一人苦しまなくちゃならないんだろう。)

「レオ様をここに残して、幸せになんかなれません。だって、私は貴方の婚約者です。」

レオは掴んでいた肩を引き寄せると、私を抱きしめた。

「それなら、婚約者として君を守りたい俺を認めてくれ。親愛なるオリビア。俺を信じてくれて、ありがとう。」

それから私がどんなに言葉を重ねても、レオは私を城から逃がす意志を変えようとはしなかった。

このままでは3日後、私はレオの側を離れなくてはいけない。

(そんなの、、嫌だ、、、。)




   ◇◇◇





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