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71.正妃様の幻
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その日の夜。ソラト村の小さな家の中。
レオナルドはただ黙ってアリスの姿を見つめていた。ベットの上に横たわるアリスは熱にうなされている。意識はいまだに戻っていない。
「アリス……。」
ルーカスという男が、アリスの手をギュッと握っている。金色の髪に黒い瞳。その特徴はレオナルドが長い間探している男の見た目によく似ていた。
同行していた医師が必死にアリスの治療を行っている。だが、半日以上が経っても、アリスは目を覚さない。
「どうか……戻ってきてくれ……アリス。」
ルーカスの言葉は皆の願いだった。
『国王レオナルドは皆の希望よ!』
意識を失う前に、アリスはそう言って倒れた。だがアリスこそが皆の希望なのだ。
-----なぜアリスは僕を……?
レオナルドがこんなところまで来たせいで、アリスは刺されたに違いないのに。
部屋の中には、緊張感が漂っている。医師たちもアリスが意識を取り戻すのか、わからないらしい。アリスは生死の境をさまよっている。
「全部、僕のせいだ。」
レオナルドはそう呟いて、部屋を出た。
◇◇◇
ーーーーなぜ僕が生きているんだ?
小さな家を出ると、兵士たちが家の周りを守っていた。皆、心の底からアリスを慕う者ばかりだ。死んだと思っていた主人が生きているとわかったとたんに彼女が死に面しているのだ。兵士たちは皆,うつろな目をしている。
「アリス様は……目を覚まされましたか?」
「いいや。」
短く答えて、レオナルドはその場を離れた。
「どこにいかれるのですか!レオナルド様!」
「しばらく……1人にしてくれ。」
夜空は雲がかかっていて、星が一つも見えなかった。
川のそばにたち、レオナルドはもう一度呟いた。
「僕のせいだ。」
心の中には、混乱と後悔が渦巻いている。
全ての始まりは、レオナルドからだった。
アリスの言葉を信じて、彼女をお城から追い出さなければ。
もっと早く、アリスの言葉に耳を傾けていれば。
敵の存在にもっと早く気がついていれば。
レオナルドは胸を押さえてうずくまった。
何度も頭の中に、アリスの優しい笑顔が浮かぶ。心が痛くて仕方がなかった。なぜアリスはレオナルドを恨んでいなかったのだろう。
ーーーーー僕がこんなところに来なければ、アリスが刺されることはなかった。
「アリス……」
あまりの無力さに唇を噛んだ。村はしんとしずまりかえっている。雲の隙間から、月が少しだけ顔をだす。
“レオナルド“
どこからかアリスの声が聞こえた。その場に霧がかかっていて、前がよく見えない。
-----何が起こっている?
レオナルドが目を擦るとそこにアリスが立っていた。彼女はお城の舞踏会で着ていたような、真っ白いドレスを身に纏っている。
「アリス…‥目を覚ましたのか!」
大股でアリスに近づこうとしたが、いくら前に歩いてもアリスは近づかない。アリスは優しい笑顔を浮かべた。
“大丈夫。貴方ならできるわ“
アリスの声はレオナルドの耳元で響く。
「僕にはできないっ!!僕は何もできないっ!!!」
レオナルドはわめいたが、アリスは微笑みを浮かべるだけだった。
“頼んだわよ“
そういうと、アリスの姿が次第に薄れていく。
「待って!待ってくれ!!」
レオナルドは声を張り上げたが、もはやアリスの姿は見えなくなっていた。残されたのは、真っ暗闇と、心に残るアリスの微笑みだけだった。
ーーーーー前に進まなくては・・・・僕はこの国の王だ。
今見たのは、アリスの幻だったのだろうか。そうだったとしても、その幻は確かにレオナルドに勇気を残していった。
ーーーーー僕は愚かな王だ。だが、アリスの思いを引き継ぐことはできる。
レオナルドは手を強く握った。それから、彼は村に戻り、兵士や人々に命じた。
「明日、橋を渡りゴアル国に行く!!アリスの夢を俺が叶える!」
誰もがお腹いっぱいご飯を食べられる国。それがアリスが望んだもの。ゴアル国に行った後、何をしなくてはいけないか、レオナルドにはすでにわかっている。
◇◇◇
レオナルドはただ黙ってアリスの姿を見つめていた。ベットの上に横たわるアリスは熱にうなされている。意識はいまだに戻っていない。
「アリス……。」
ルーカスという男が、アリスの手をギュッと握っている。金色の髪に黒い瞳。その特徴はレオナルドが長い間探している男の見た目によく似ていた。
同行していた医師が必死にアリスの治療を行っている。だが、半日以上が経っても、アリスは目を覚さない。
「どうか……戻ってきてくれ……アリス。」
ルーカスの言葉は皆の願いだった。
『国王レオナルドは皆の希望よ!』
意識を失う前に、アリスはそう言って倒れた。だがアリスこそが皆の希望なのだ。
-----なぜアリスは僕を……?
レオナルドがこんなところまで来たせいで、アリスは刺されたに違いないのに。
部屋の中には、緊張感が漂っている。医師たちもアリスが意識を取り戻すのか、わからないらしい。アリスは生死の境をさまよっている。
「全部、僕のせいだ。」
レオナルドはそう呟いて、部屋を出た。
◇◇◇
ーーーーなぜ僕が生きているんだ?
小さな家を出ると、兵士たちが家の周りを守っていた。皆、心の底からアリスを慕う者ばかりだ。死んだと思っていた主人が生きているとわかったとたんに彼女が死に面しているのだ。兵士たちは皆,うつろな目をしている。
「アリス様は……目を覚まされましたか?」
「いいや。」
短く答えて、レオナルドはその場を離れた。
「どこにいかれるのですか!レオナルド様!」
「しばらく……1人にしてくれ。」
夜空は雲がかかっていて、星が一つも見えなかった。
川のそばにたち、レオナルドはもう一度呟いた。
「僕のせいだ。」
心の中には、混乱と後悔が渦巻いている。
全ての始まりは、レオナルドからだった。
アリスの言葉を信じて、彼女をお城から追い出さなければ。
もっと早く、アリスの言葉に耳を傾けていれば。
敵の存在にもっと早く気がついていれば。
レオナルドは胸を押さえてうずくまった。
何度も頭の中に、アリスの優しい笑顔が浮かぶ。心が痛くて仕方がなかった。なぜアリスはレオナルドを恨んでいなかったのだろう。
ーーーーー僕がこんなところに来なければ、アリスが刺されることはなかった。
「アリス……」
あまりの無力さに唇を噛んだ。村はしんとしずまりかえっている。雲の隙間から、月が少しだけ顔をだす。
“レオナルド“
どこからかアリスの声が聞こえた。その場に霧がかかっていて、前がよく見えない。
-----何が起こっている?
レオナルドが目を擦るとそこにアリスが立っていた。彼女はお城の舞踏会で着ていたような、真っ白いドレスを身に纏っている。
「アリス…‥目を覚ましたのか!」
大股でアリスに近づこうとしたが、いくら前に歩いてもアリスは近づかない。アリスは優しい笑顔を浮かべた。
“大丈夫。貴方ならできるわ“
アリスの声はレオナルドの耳元で響く。
「僕にはできないっ!!僕は何もできないっ!!!」
レオナルドはわめいたが、アリスは微笑みを浮かべるだけだった。
“頼んだわよ“
そういうと、アリスの姿が次第に薄れていく。
「待って!待ってくれ!!」
レオナルドは声を張り上げたが、もはやアリスの姿は見えなくなっていた。残されたのは、真っ暗闇と、心に残るアリスの微笑みだけだった。
ーーーーー前に進まなくては・・・・僕はこの国の王だ。
今見たのは、アリスの幻だったのだろうか。そうだったとしても、その幻は確かにレオナルドに勇気を残していった。
ーーーーー僕は愚かな王だ。だが、アリスの思いを引き継ぐことはできる。
レオナルドは手を強く握った。それから、彼は村に戻り、兵士や人々に命じた。
「明日、橋を渡りゴアル国に行く!!アリスの夢を俺が叶える!」
誰もがお腹いっぱいご飯を食べられる国。それがアリスが望んだもの。ゴアル国に行った後、何をしなくてはいけないか、レオナルドにはすでにわかっている。
◇◇◇
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