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60.正妃様と独占欲

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ルーカスは二人が暮らす借りの家に入り、そっとアリスをベットの上に降ろした。

「ありがとう。」

 そう言ってルーカスを見上げるアリス。ルーカスはそんなアリスの手を握り続けた。

(離しがたいな……。)

 「ん?」

 アリスは可愛らしく首をかしげた。

 アリスが自分のことをどう思っているのか聞きたい。そんな気持ちばかりが頭を巡る。”支えてほしい”だなんて曖昧な言葉ではなく、もっと確かな約束が欲しいのだ。

 いつの間にか、アリスを独占したいという思いがルーカスの中で強くなっていた。そして、時折、アリスの元夫であるレオナルドのことを考え、恨めしく思う。だが、そんなことをアリスに言えるはずもない。

「何でもない。」

 今、そんな浮かれたことを考えている場合ではない。それでも隣国に渡った後も、アリスと一緒にいられるという確証が欲しかった。

「いよいよ、動くんだな。」

「ええ。ついに、橋を渡る時が来たわ。」

 アリスは不安そうな顔を浮かべ、大きく息を大きく吸った。さっきまで人々に見せていたものとは、まったく異なる弱弱しい表情だ。ルーカスはアリスの隣に腰掛けて、彼女の手を強く握った。

 アリスとルーカスが住むのは、二人のためにソラト村の人々が用意してくれた家だ。ここで、ルーカスはアリスと共に寝泊まりしていた。

 簡素なベットにキッチンが備えられている。ルーカスにとってキッチンだけは絶対に必要なものだった。アリスとルーカスは、ふたりで料理をする時間を大切に楽しんでいる。ソラト村に来てから、およそ4日が経過していた。

「不安だよな。」

「ええ。」

 アリスは素直に頷く。

「不安があれば何でも聞くぞ?」

 アリスの顔を覗き込んで、ルーカスはアリスに尋ねた。

「ついに、スウェルド王国と……戦う時が来てしまったのだと思うと……怖くなるの。」

 アリスは呟いた。彼女はどこか遠くを見つめている。彼女の頭に浮かんでいるのは、きっとスウェルド王国の国王の顔なんだろう。

「レオナルドと……戦いたくないのか?」

 ”レオナルド”と呼び捨てて、思わずルーカスは言ってしまった。アリスは目を見開いて、ルーカスを見つめた。二度、瞬きをした後、アリスは小さく頷く。

「え、ええ……。」

「まだ、信じているのか?」

ルーカスはさらに言葉を重ねた。その言葉が嫉妬心から生まれたことにルーカスは気が付いている。それでも、アリスと元夫レオナルドの間に未だに残る絆が気に食わない。そのくだらない嫉妬をする資格はないと理解しているのに、気持ちが収まらない。

 アリスは首を振った。

「もう、レオナルドを信じることを辞めなくちゃ。」

「え?だけど……。」

「レオナルドを信じていたって、状況は変わらないもの。これから、あの人が国王を務める国と戦うのだから。」


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