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48. 国王様と隣国

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 馬車がガタゴトと音を立てる。体を倒し、レオナルドに向き合ったまま、リュカは自分の境遇を語った。

「あたし、もともとこの国の人間じゃないんだ。」

 リュカはもともとゴアル国出身で、彼女の父親は商人だったらしい。数か月単位で、ゴアル国とスウェルド国の国境に近い村を行ったり来たりしながら生活していたという。

「けど、急にゴアルに戻れなくなった。」

 しかし、突如としてスウェルド国が鎖国政策を取るようになり、リュカの家族はゴアル国への帰還ができなくなった。この出来事は、彼らの収入源を断ち、日々の食糧を手に入れることすら困難になる。

 「食べるものがなくて、いつも腹ペコだった。このままじゃダメだって、父さんは兵士に見つからないように橋を渡ろうとしたんだ。」

「橋?」

「そうだよ。ゴアル国に行くためには、唯一の橋を渡んなきゃいけない。禁止されているけれども、どんなに頼んでもゴアルにいくことは許可されなかったから、父さんは無茶をするしかなかったんだ。」

 家族を助けるため、リュカの父親は兵士の目をかいくぐって国境を越えようとしたが、その試みは失敗し、彼は帰ってこなくなった。

「それからあたしは母さんとの二人暮らしになった。村の農業を手伝って、食べ物を分けてもらって暮らしていたよ。みんな食べ物がなくて大変だったけど、助けあって暮らしてたんだ。」

「……。」

 リュカの言葉にレオナルドの頭はズキンと痛んだ。

 『王だからこそ……国民の為にできることがあるでしょう!!今は贅沢をする時じゃないわ!!』

 かつてアリスに言われた言葉がよみがえる。

 ーーーーだからなんだ!僕は王だ!平民がどうなろうと知ったことではない!

 レオナルドは頭の痛みに顔をしかめながら、リュカを睨んだ。

「僕を責めているのか……?」

「ううん。だって、レオナルドは正妃様を捜しに行くんでしょう?正妃様の名前が”アリス”だって、教えてもらったの。」

 リュカは恐れることなく、国王レオナルドに言う。

「実際には見たことはないけれど、スウェルド城の正妃様の噂はあたしが住んでいた村にも届いてた。心優しき正妃様。いつかこの国を助けてくれる希望だってみんな信じてたよ。」

「…………。」

 レオナルドは言葉を失った。

「レオナルドもそう思うから、正妃様を捜しに行くんでしょう?」

 リュカのまっすぐな目がレオナルドを見つめる。

 ーーーー違う!僕は国を救いたいのではなく、アリスに元に戻ってほしいだけだ!!この間抜けが!!

 心の中で、レオナルドはリュカに罵声を浴びせる。だが、実際にレオナルドは、リュカの誤解を解こうとはしなかった。

「……そうかもな。」

 ーーーー勝手に勘違いさせておけばいい。

 城の玉座やベットよりも、ずっと固く居心地の悪いはずの馬車の中は、リュカがいると悪くないと思えた。狭い空間に、リュカと二人でいると、これまで胸を覆っていた孤独と虚しさが薄れるのだ。

 「じゃあ、次はレオナルドについて教えてよ!時間はいっぱいあるんだし!」

 ーーーー僕について?
 
 レオナルドは戸惑いの表情を浮かべた。愛人たちは皆、レオナルドの言葉に応えるだけで、自分から何かを聞いてくることはほとんどなかった。皆、レオナルドについて知っていた。特にレオナルド自身について、自ら語ったことがあっただろうか?

 いざ、話しだそうとしても、レオナルドは何も思いつかなかった。自分自身について何を話せばいいのか。

 生まれたときから特別な存在として扱われ、城の中で暮らし、王となった。それ以外に、レオナルドには何もない。

「何が知りたい……?」

「そうだなぁ、正妃様との馴れ初めとか!」

「馴れ初め?」

「大好きだったんでしょ?仲直りの方法、一緒に考えてあげるからさ!」

 いたずらっぽくリュカが笑う。どうやらリュカはアリスとレオナルドの間で何が起こったのか、まったく知らないらしい。今、アリスが生きているかどうかもわからないことも。ただ、喧嘩をして、出て行ったとでも思ってるのかもしれない。

 ーーーーどうせ暇なのだ……。

 黙っていても、常に頭を巡るのはアリスのことだ。頭の中で考えるか、平民の女に話すかの違いだけ。

「僕とアリスは……生まれながらの婚約者だった。」

 そうして、長い道中、レオナルドはアリスとの間に何があったのかゆっくりと話し始めたのだった。
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