49 / 73
48. 国王様と隣国
しおりを挟む
馬車がガタゴトと音を立てる。体を倒し、レオナルドに向き合ったまま、リュカは自分の境遇を語った。
「あたし、もともとこの国の人間じゃないんだ。」
リュカはもともとゴアル国出身で、彼女の父親は商人だったらしい。数か月単位で、ゴアル国とスウェルド国の国境に近い村を行ったり来たりしながら生活していたという。
「けど、急にゴアルに戻れなくなった。」
しかし、突如としてスウェルド国が鎖国政策を取るようになり、リュカの家族はゴアル国への帰還ができなくなった。この出来事は、彼らの収入源を断ち、日々の食糧を手に入れることすら困難になる。
「食べるものがなくて、いつも腹ペコだった。このままじゃダメだって、父さんは兵士に見つからないように橋を渡ろうとしたんだ。」
「橋?」
「そうだよ。ゴアル国に行くためには、唯一の橋を渡んなきゃいけない。禁止されているけれども、どんなに頼んでもゴアルにいくことは許可されなかったから、父さんは無茶をするしかなかったんだ。」
家族を助けるため、リュカの父親は兵士の目をかいくぐって国境を越えようとしたが、その試みは失敗し、彼は帰ってこなくなった。
「それからあたしは母さんとの二人暮らしになった。村の農業を手伝って、食べ物を分けてもらって暮らしていたよ。みんな食べ物がなくて大変だったけど、助けあって暮らしてたんだ。」
「……。」
リュカの言葉にレオナルドの頭はズキンと痛んだ。
『王だからこそ……国民の為にできることがあるでしょう!!今は贅沢をする時じゃないわ!!』
かつてアリスに言われた言葉がよみがえる。
ーーーーだからなんだ!僕は王だ!平民がどうなろうと知ったことではない!
レオナルドは頭の痛みに顔をしかめながら、リュカを睨んだ。
「僕を責めているのか……?」
「ううん。だって、レオナルドは正妃様を捜しに行くんでしょう?正妃様の名前が”アリス”だって、教えてもらったの。」
リュカは恐れることなく、国王レオナルドに言う。
「実際には見たことはないけれど、スウェルド城の正妃様の噂はあたしが住んでいた村にも届いてた。心優しき正妃様。いつかこの国を助けてくれる希望だってみんな信じてたよ。」
「…………。」
レオナルドは言葉を失った。
「レオナルドもそう思うから、正妃様を捜しに行くんでしょう?」
リュカのまっすぐな目がレオナルドを見つめる。
ーーーー違う!僕は国を救いたいのではなく、アリスに元に戻ってほしいだけだ!!この間抜けが!!
心の中で、レオナルドはリュカに罵声を浴びせる。だが、実際にレオナルドは、リュカの誤解を解こうとはしなかった。
「……そうかもな。」
ーーーー勝手に勘違いさせておけばいい。
城の玉座やベットよりも、ずっと固く居心地の悪いはずの馬車の中は、リュカがいると悪くないと思えた。狭い空間に、リュカと二人でいると、これまで胸を覆っていた孤独と虚しさが薄れるのだ。
「じゃあ、次はレオナルドについて教えてよ!時間はいっぱいあるんだし!」
ーーーー僕について?
レオナルドは戸惑いの表情を浮かべた。愛人たちは皆、レオナルドの言葉に応えるだけで、自分から何かを聞いてくることはほとんどなかった。皆、レオナルドについて知っていた。特にレオナルド自身について、自ら語ったことがあっただろうか?
いざ、話しだそうとしても、レオナルドは何も思いつかなかった。自分自身について何を話せばいいのか。
生まれたときから特別な存在として扱われ、城の中で暮らし、王となった。それ以外に、レオナルドには何もない。
「何が知りたい……?」
「そうだなぁ、正妃様との馴れ初めとか!」
「馴れ初め?」
「大好きだったんでしょ?仲直りの方法、一緒に考えてあげるからさ!」
いたずらっぽくリュカが笑う。どうやらリュカはアリスとレオナルドの間で何が起こったのか、まったく知らないらしい。今、アリスが生きているかどうかもわからないことも。ただ、喧嘩をして、出て行ったとでも思ってるのかもしれない。
ーーーーどうせ暇なのだ……。
黙っていても、常に頭を巡るのはアリスのことだ。頭の中で考えるか、平民の女に話すかの違いだけ。
「僕とアリスは……生まれながらの婚約者だった。」
そうして、長い道中、レオナルドはアリスとの間に何があったのかゆっくりと話し始めたのだった。
「あたし、もともとこの国の人間じゃないんだ。」
リュカはもともとゴアル国出身で、彼女の父親は商人だったらしい。数か月単位で、ゴアル国とスウェルド国の国境に近い村を行ったり来たりしながら生活していたという。
「けど、急にゴアルに戻れなくなった。」
しかし、突如としてスウェルド国が鎖国政策を取るようになり、リュカの家族はゴアル国への帰還ができなくなった。この出来事は、彼らの収入源を断ち、日々の食糧を手に入れることすら困難になる。
「食べるものがなくて、いつも腹ペコだった。このままじゃダメだって、父さんは兵士に見つからないように橋を渡ろうとしたんだ。」
「橋?」
「そうだよ。ゴアル国に行くためには、唯一の橋を渡んなきゃいけない。禁止されているけれども、どんなに頼んでもゴアルにいくことは許可されなかったから、父さんは無茶をするしかなかったんだ。」
家族を助けるため、リュカの父親は兵士の目をかいくぐって国境を越えようとしたが、その試みは失敗し、彼は帰ってこなくなった。
「それからあたしは母さんとの二人暮らしになった。村の農業を手伝って、食べ物を分けてもらって暮らしていたよ。みんな食べ物がなくて大変だったけど、助けあって暮らしてたんだ。」
「……。」
リュカの言葉にレオナルドの頭はズキンと痛んだ。
『王だからこそ……国民の為にできることがあるでしょう!!今は贅沢をする時じゃないわ!!』
かつてアリスに言われた言葉がよみがえる。
ーーーーだからなんだ!僕は王だ!平民がどうなろうと知ったことではない!
レオナルドは頭の痛みに顔をしかめながら、リュカを睨んだ。
「僕を責めているのか……?」
「ううん。だって、レオナルドは正妃様を捜しに行くんでしょう?正妃様の名前が”アリス”だって、教えてもらったの。」
リュカは恐れることなく、国王レオナルドに言う。
「実際には見たことはないけれど、スウェルド城の正妃様の噂はあたしが住んでいた村にも届いてた。心優しき正妃様。いつかこの国を助けてくれる希望だってみんな信じてたよ。」
「…………。」
レオナルドは言葉を失った。
「レオナルドもそう思うから、正妃様を捜しに行くんでしょう?」
リュカのまっすぐな目がレオナルドを見つめる。
ーーーー違う!僕は国を救いたいのではなく、アリスに元に戻ってほしいだけだ!!この間抜けが!!
心の中で、レオナルドはリュカに罵声を浴びせる。だが、実際にレオナルドは、リュカの誤解を解こうとはしなかった。
「……そうかもな。」
ーーーー勝手に勘違いさせておけばいい。
城の玉座やベットよりも、ずっと固く居心地の悪いはずの馬車の中は、リュカがいると悪くないと思えた。狭い空間に、リュカと二人でいると、これまで胸を覆っていた孤独と虚しさが薄れるのだ。
「じゃあ、次はレオナルドについて教えてよ!時間はいっぱいあるんだし!」
ーーーー僕について?
レオナルドは戸惑いの表情を浮かべた。愛人たちは皆、レオナルドの言葉に応えるだけで、自分から何かを聞いてくることはほとんどなかった。皆、レオナルドについて知っていた。特にレオナルド自身について、自ら語ったことがあっただろうか?
いざ、話しだそうとしても、レオナルドは何も思いつかなかった。自分自身について何を話せばいいのか。
生まれたときから特別な存在として扱われ、城の中で暮らし、王となった。それ以外に、レオナルドには何もない。
「何が知りたい……?」
「そうだなぁ、正妃様との馴れ初めとか!」
「馴れ初め?」
「大好きだったんでしょ?仲直りの方法、一緒に考えてあげるからさ!」
いたずらっぽくリュカが笑う。どうやらリュカはアリスとレオナルドの間で何が起こったのか、まったく知らないらしい。今、アリスが生きているかどうかもわからないことも。ただ、喧嘩をして、出て行ったとでも思ってるのかもしれない。
ーーーーどうせ暇なのだ……。
黙っていても、常に頭を巡るのはアリスのことだ。頭の中で考えるか、平民の女に話すかの違いだけ。
「僕とアリスは……生まれながらの婚約者だった。」
そうして、長い道中、レオナルドはアリスとの間に何があったのかゆっくりと話し始めたのだった。
3
お気に入りに追加
3,306
あなたにおすすめの小説
愛してほしかった
こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。
心はすり減り、期待を持つことを止めた。
──なのに、今更どういうおつもりですか?
※設定ふんわり
※何でも大丈夫な方向け
※合わない方は即ブラウザバックしてください
※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる