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28. 国王様の世話

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 その頃のスウェルド城。

「この娘に贅沢をさせろ……!この世の中の素晴らしさとはなんなのか、わからせてやれ!」

 国王レオナルドは、兵士にリュカという少女のお世話をするように命じた。彼女は農村の娘であり、正妃アリスとは似ても似つかない。ただの汚らしい少女のように思えるが、彼女はアリスと同じ銀髪と緑の瞳を持っている。

 ーーーーこの女にわからせることで、アリスの愚行を全て否定してやる!

 8年前のあの日以来、アリスは日々、愚行を繰り返していた。

 正妃にもかかわらず贅沢をするのをやめ、自分の装飾品を売って、国民に食事を配った。城の園庭を一部切り倒して、畑を耕し、自ら調理場にたって料理を作る。

 ーーーーアリスは僕の…正妃だろう?

 その正妃らしくない振る舞いの全てが、レオナルドは我慢できなかった。

 ーーーーアリスは自分の使命を放棄したのだ……。僕を置いて……。

 アリスが調理場に立って料理をしているのを見るたびに、レオナルドは彼女が正妃であることを拒否しているように感じていた。彼女を引き留めるために、レオナルドは怒り続る。

 そのうちに、アリスは姿を消した。

「あたしに何をするの?!」

「黙って従え!!」

 メイドたちにあれこれ世話を焼かれ、困惑した表情を浮かべるリュカを、レオナルドは怒鳴りつけた。

「ふんっ。少しは変わるじゃないか……。」

「こんなにお水をたくさん使って…。」

 まず、少女リュカの体を綺麗に洗い、豪華なドレスを着せた。

「美しいだろう!お前のような平民が一生着ることができない最高級のドレスだ!!」

「動きづらい…。やめてよ…こんなもの着たくない!」

 リュカはドレスの裾を乱雑に持ち、早足で歩いた。

「さあ!何でも選べ!本来ならば、触れることの許されない宝石類を触れる権利を与えよう!」

「いらないよ……!食べれないんでしょ?!」

レオナルドはピンク色の髪飾りを選び、無理矢理リュカに付けた。

「ほら好きなだけ食え!食べ物のことしか考えられない平民が!!」

「こんなにたくさん食べきれないし…お母さんにも食べてほしいから取り分けて置いてもいい?」

「く、くそっ。なんでも文句を付けやがって!」

そして最後にレオナルドは、国の音楽隊に命じて、リュカのためだけに演奏させた。

「おいっ、寝るな!!今までに聞いたことのない美しい音だろう!」

「…昨晩寝ずに城に連れてこられたんだから…しょうがないでしょ!!!」

 リュカはあろうことか目を閉じて眠ってしまった。 

「何をしているのですか!!レオナルド様!」

 奇怪な行動をとるレオナルドを見て、フィリップス公爵は怖い表情で非難した。銀髪に緑の瞳。リュカはアリスを思い出させる。
 
「なぜその様な平民の女と関わっているのですか!ロゼッタを愛するべきです!」

「うるさい!黙っていろ!」

 フィリップス公爵はロゼッタの後見をしている。ロゼッタがレオナルドの寵愛を失うことは、許してはならないと彼は思った。

「貴方は神聖な存在なのです!陛下!国王として、ふさわしい行動を取るべきです!」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」

 レオナルドはフィリップス公爵の言葉に聞く耳を持たなかった。もはや、国王としての地位など二の次。今はただ、心から離れない大きな悲しみと苦しさを、何かで埋めたいのだ。

 周りの貴族や従者たちは国王レオナルドがおかしくなったと噂する。国王は正妃アリスを愛していたのだと驚くものもいた。

「あたしを元の場所に返して!国王レオナルド!!貴方に屈しないと言ったでしょう!」

「お前……!!」

 レオナルドがあれこれ手を尽くしても、リュカは彼の思い通りになってくれなかった。

 ーーーーなんでだよ?!

 リュカは決して、レオナルドに微笑みを向けない。大人しくならないし、レオナルドに屈服しない。最高級のものを与えても、贅沢を好まなかった。

 ーーーーなぜこの女は僕を愛するようにならない?!

 レオナルドは、リュカを変わってしまう前のアリスに仕立て上げたかった。ただ優しくほほえんで、側にいてくれた頃のアリス。それは8年間、レオナルドが求め続けていたものだった。

「なんでだよ!変われ……!変われよ!僕はお前のほしいものを全て与えたはずだろう!?」

 レオナルドはリュカの胸ぐらを揺さぶり、叫んだ。彼の目は充血し、手は小さく震えている。

「あたしは……!」

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