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17.旅人の行方

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 それから一週間、100名以上の兵士によって元正妃アリスの捜索が行われたが、ついに彼女が見つかることはなかった。アリス失踪から7日後、スウェルド王家は正式に、アリスの死と罪を発表した。

 ”お世継ぎの暗殺未遂罪で逃亡した元正妃アリスは、命を落とした”

 その知らせは正妃をスウェルド国の希望と考える多くの平民たちに、大きな悲しみと怒りをもたらしたという。
 

   ◇◇◇


 そこから少し時間はさかのぼる。


  コトリ村からさらに西に離れた国境付近の村はずれ。

 大きな川の前、一人の男が釣り竿を片手に、椅子に腰かけている。

「ふんふんふ~ん♪」

 釣りを終えた男は上機嫌にバケツを持って立ち上がった。にわか雨は止み、空には虹がかかっている。

 ーーーー今日はこれで何を作ろうかな。

 金髪に黒い瞳。その男は料理人だった。その場を立ち去ろうとした男は立ち止まり、目を細める。上流から何かが流れてくるのが見えたのだ。

 ーーーーあれは………人か?!

 よく見ると、銀髪の女性が、流木にしがみついている。

 ーーーー銀髪……?

「待ってろ!今、助ける!!」

 ある予感と共に、料理人の男は素早く川に飛び込んだ。何としても、彼女を助けなくてはいけない。

「 おいっ、大丈夫か……!」

 料理人の男は素早く川に飛び込み、銀髪の女性を抱きあげた。

 ーーーー流木につかまって、ここまで流れ着いたのか!

 流木を掴む女性の爪は、血で濡れていた。彼女の体は冷たく、意識はあるものの弱々しい。

「まだ……わたしは……。」

 朦朧とした意識の中で、銀髪の女性は呟く。料理人の男は女性を抱え、必死で彼女を川から引きあげた。

「助けてやるから、絶対に生きろ!」

 料理人の男は銀髪の女性を背中を叩き、彼女の口から水を吐き出させる。それから自分の服を脱ぎ、冷えた女性に着せた。

「貴方は……。」

 女性の緑の瞳が見開かれ、男の姿を捕らえた。唇を震わせ、男の頬に手を伸ばす。

「たびびと……さん……わたし……あなたを……。」

 最後まで言葉を言い切ることなく、女性は意識を失った。

「 大丈夫だ、なぁあんたは……強いんだろ!」

 料理人の男は、女性を強く抱きしめた。彼女は彼が見てきたどの女性よりも美しい。彼女の表情には強さと生きる意志が宿っていた。

「俺も……父さんみたいに……。」

 料理人の男は銀髪の女性を抱きしめ、小さく呟いた。

 空にかかる虹はいまだ消えることなく、青空にかかっている。


 
   ◇◇◇

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