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10 過去を話したいんだ
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「話したいことがあるの。」
シリルの家から帰ってきた次の日、メルは真剣な顔で俺に言った。少し青ざめたメルの手はカタカタと震えていた。
俺は大きく息を吸ってメルを見つめた。どんな話だとしても、俺は受け止めたいと思う。でも願わくば、メルが俺から離れたいという話じゃありませんように。
「なんでも聞くよ。」
「今から話すのは、なぜ私が"愛されたくない'と望むのか、その原因になった出来事。信じられないかもしれないんですが、どうしてもアレックス様に聞いてほしいの。」
メルはゆっくりと話し始めた。彼女が一人で抱え込むにはあまりにも苦しい前世の話を。
◇◇◇
「私は前世で、城川ひろみという名前だった。前世の私は愛していた夫に殺されたの。
『お前のせいだ!!ひろみ!!お前のせいで俺はアルコール依存症になったんだ!!』
夫であるトモヒロという男は、いつも私に言ったわ。
トモヒロは、お酒を飲むと手がつけられないひと。今から思うとさっさと逃げ出していれば良かったの。
『ごめんなさい!』
それが当時の私の口癖。
だけど、当時はもう洗脳されていて、なぜだが自分が悪いと思いこんでいたの。そして、私は暴れるトモヒロを止めようとしてそのまま殺されてしまったわ。」
俺はメルの震える手をそっと握った。
「なぜ、逃げなかったんだ?」
メルは大きく息を吸った。
「私には負い目があったの。トモヒロが一番辛いときに側にいれなかったという負い目よ。彼の母が事故で突如亡くなってしまったのは、大学受験の一ヶ月前のこと。」
「大学受験?」
「前世の世界ではとても重要な試験なの。人生もそれによって変わってしまうような試験よ。母親が亡くなって勉強になにも手がつかなくなってしまったトモヒロに、私は構ってられず、ひたすら勉強をしたわ。
その当時、もうトモヒロと付き合っていたのに私は自分の受験を優先したの。結局トモヒロは立ち直ることができず、大学受験に失敗しました。そこから、トモヒロの人生はおかしくなり始め、お酒に逃げるようになったの。
『お前のせいだ!!』
呪いのようにそう言われ続けたわ。」
「メルのせいでは無いのに、、、!」
「ええ。今ではそう思う。でもそのときは気づけなかった。私を酒の瓶で殴り倒したトモヒロは、死にかける私を抱きしめて叫んだわ。
『こんなつもりじゃなかった、、、!死なないでくれ!!ひろみ!!俺はお前を愛してるんだ!!』
その時、思ったの。
愛してるってなんなの?
愛してるなら、何をしてもいいの?それなら私は、二度と愛されたくないし、誰のことも愛したくないって。」
そう話すメルの目には大粒の涙が浮かんでいた。たまらず俺はメルを抱きしめて言った。
「メルは何も悪くない。」
かつて、メルが俺に言ってくれたように繰り返した。
「メルは悪くないよ。」
◇◇◇
アレックスは私のことを強く抱きしめてくれた。
「どうしたら、俺はメルを助けられる?なんとかしてメルの元の世界に言って、トモヒロ、とかいう男をぶちのめしたい。」
私は、アレックスの肩に顔を埋めて泣いた。泣けば泣くほど、辛かった記憶が消えていくような不思議な感覚を覚えた。
「いいんだよ。アレックスはもう私を救ってくれた。」
「俺は何もしていない。」
「いいえ。アレックスは私を助けてくれたわ。」
ねぇ。アレックス。貴方の愛してるは、ずっと伝わってたんだよ。言葉になんてしなくても、貴方の愛が私を少しずつ癒した。
「助けてくれて、ありがとう。ねぇ。アレックス。これまでずっと、側にいて居場所を守ってくれてありがとう。」
私は、子供みたいに声を上げて泣いた。
「これからもずっと、俺はメルを守るよ。絶対に、メルを悲しませはしない。ずっと側にいるから。」
私が泣き止むまでずっと、アレックスは背中を撫でてくれた。
「ねぇ、メル。メルが何か望むことはないかい?なんでも、叶えてあげたいんだ。」
「一つ、あるよ。」
「なんでも教えて?」
「晩御飯も、一緒に食べたい。」
アレックスはにっこりと笑った。
「もちろんだよ。それは俺にとってのご褒美だね。」
シリルの家から帰ってきた次の日、メルは真剣な顔で俺に言った。少し青ざめたメルの手はカタカタと震えていた。
俺は大きく息を吸ってメルを見つめた。どんな話だとしても、俺は受け止めたいと思う。でも願わくば、メルが俺から離れたいという話じゃありませんように。
「なんでも聞くよ。」
「今から話すのは、なぜ私が"愛されたくない'と望むのか、その原因になった出来事。信じられないかもしれないんですが、どうしてもアレックス様に聞いてほしいの。」
メルはゆっくりと話し始めた。彼女が一人で抱え込むにはあまりにも苦しい前世の話を。
◇◇◇
「私は前世で、城川ひろみという名前だった。前世の私は愛していた夫に殺されたの。
『お前のせいだ!!ひろみ!!お前のせいで俺はアルコール依存症になったんだ!!』
夫であるトモヒロという男は、いつも私に言ったわ。
トモヒロは、お酒を飲むと手がつけられないひと。今から思うとさっさと逃げ出していれば良かったの。
『ごめんなさい!』
それが当時の私の口癖。
だけど、当時はもう洗脳されていて、なぜだが自分が悪いと思いこんでいたの。そして、私は暴れるトモヒロを止めようとしてそのまま殺されてしまったわ。」
俺はメルの震える手をそっと握った。
「なぜ、逃げなかったんだ?」
メルは大きく息を吸った。
「私には負い目があったの。トモヒロが一番辛いときに側にいれなかったという負い目よ。彼の母が事故で突如亡くなってしまったのは、大学受験の一ヶ月前のこと。」
「大学受験?」
「前世の世界ではとても重要な試験なの。人生もそれによって変わってしまうような試験よ。母親が亡くなって勉強になにも手がつかなくなってしまったトモヒロに、私は構ってられず、ひたすら勉強をしたわ。
その当時、もうトモヒロと付き合っていたのに私は自分の受験を優先したの。結局トモヒロは立ち直ることができず、大学受験に失敗しました。そこから、トモヒロの人生はおかしくなり始め、お酒に逃げるようになったの。
『お前のせいだ!!』
呪いのようにそう言われ続けたわ。」
「メルのせいでは無いのに、、、!」
「ええ。今ではそう思う。でもそのときは気づけなかった。私を酒の瓶で殴り倒したトモヒロは、死にかける私を抱きしめて叫んだわ。
『こんなつもりじゃなかった、、、!死なないでくれ!!ひろみ!!俺はお前を愛してるんだ!!』
その時、思ったの。
愛してるってなんなの?
愛してるなら、何をしてもいいの?それなら私は、二度と愛されたくないし、誰のことも愛したくないって。」
そう話すメルの目には大粒の涙が浮かんでいた。たまらず俺はメルを抱きしめて言った。
「メルは何も悪くない。」
かつて、メルが俺に言ってくれたように繰り返した。
「メルは悪くないよ。」
◇◇◇
アレックスは私のことを強く抱きしめてくれた。
「どうしたら、俺はメルを助けられる?なんとかしてメルの元の世界に言って、トモヒロ、とかいう男をぶちのめしたい。」
私は、アレックスの肩に顔を埋めて泣いた。泣けば泣くほど、辛かった記憶が消えていくような不思議な感覚を覚えた。
「いいんだよ。アレックスはもう私を救ってくれた。」
「俺は何もしていない。」
「いいえ。アレックスは私を助けてくれたわ。」
ねぇ。アレックス。貴方の愛してるは、ずっと伝わってたんだよ。言葉になんてしなくても、貴方の愛が私を少しずつ癒した。
「助けてくれて、ありがとう。ねぇ。アレックス。これまでずっと、側にいて居場所を守ってくれてありがとう。」
私は、子供みたいに声を上げて泣いた。
「これからもずっと、俺はメルを守るよ。絶対に、メルを悲しませはしない。ずっと側にいるから。」
私が泣き止むまでずっと、アレックスは背中を撫でてくれた。
「ねぇ、メル。メルが何か望むことはないかい?なんでも、叶えてあげたいんだ。」
「一つ、あるよ。」
「なんでも教えて?」
「晩御飯も、一緒に食べたい。」
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