上 下
1 / 1

私はあの人ほど馬鹿じゃないの

しおりを挟む



「今更になって、


 婚約破棄するの、、、。」



私、レイシャは

頭をゴツンと

机の上にぶつけた。



私、もう27歳なんですが、、。



つぅーっと

涙が頬を伝うのが分かった。



目の前には、

崩れそうなほど大量の書類の山が

積まれている。



私は、

10年間、正妃候補

だった。



「ごめんな。」

カリファは

私にそう言った。



その口ぶりは

どこまでも軽い。





目の前の椅子に腰掛けるのは、

私の婚約者であり

この国の皇太子であるカルファ。



ごめんですんだら、

この世の中は平和よ、、。




「しょうがない、


 けどさ、、。」


私は、

右手で書類の山を払った。




ドサドザドササササッ

 

呆気なく崩れていく

書類をぼんやり眺めた。



まるで私の人生みたいだ。



私はタイラス国の

有力貴族の長女だ。


大事に大事に育てられ、

17歳には

カルファの婚約者として

城にやってきた。




「10年かぁ、、。」



この国には、

残酷な決まりがある。



子供ができなければ、

正式な王子の妻にはなれない。



その要件を、

私は満たすことができなかった。



「マリーナに、

 子供ね、、。


 おめでたいことだわ。」



ほんとうは、

これっぽっちも

祝福できないけど。



マリーナはカルファの

側室候補である。



カルファには

これまで、


子供が一人もできなかった。


そんな中 

ついに待望の子供ができたのだ。



「あぁ、


 嬉しいよ。」



カルファから、

ひしひしと喜びが伝わってくる。



皇太子として、

なんとしても子供を作らねばと

日々苦しんでいたことを


私は知っている。



その半分を

私が請け負っていたのだから。



「マリーナを

 正妃にしようと思う。」



残酷だが、

仕方ないとは思う。




10年、

私には子供ができなかった。



きっとこれからだって

私に子供はできない。




「明日にでも、


 荷物をまとめて出ていくわ。」 



まだ、

正妃のしごとは残っているけれど、

それくらい許してもらってもいいだろう。


だってそもそも、

私は正妃(仮)で、



この仕事をする義務なんて 


ないんだから。



「ここを出て、


 どうするんだ?」



カルファは、

俯いて私に尋ねた。



17歳で

ここに来たとき、

私達は

幸せな夫婦になるんだって

信じて疑わなかったよね。

 


「そうねぇ、


 ゆっくり、考えようかな。」




ねぇ、カルファ。

私達に子供がいたらさ、


今頃どうなってたんだろうね。




実のところ私は、

マリーナがズルをしたのを

知っている。



マリーナは

他の男と性行為をしていた。



カルファには、

私とマリーナ以外にも

3人の婚約者がいる。



その誰にも

今まで子供ができなかったのだ。



カルファだってうすうす、


マリーナの裏切りを

分かっているのかもしれない。



「レイシャ。」



なんでしょう、

婚約者様。



「分かってくれて、


 ありがとう。」



そんな爽やかに、

私を城から追い出すのね。


私こそ、

私の気持ちを少しも

気遣ってくれなくて

どうもありがとう。




少しくらい引き止めてくれても、

良いと思うんだけど、、?




「あら、


 レイシャ様。」


部屋に入ってきたのは

マリーナだ。


マリーナは

カルファの腕に

もたれかかる。




「今までおつとめ


 ご苦労さまでした。」

マリーナは

いやらしく笑った。


これでもか

というほど、


胸を強調させている。



あぁ、

殴りたい。


そんで、

こいつの悪事を暴いてやりたい。




けど、

嬉しそうなカルファの顔を見たら、


そんなことできなかった。




私は黙って

城を出た。





------------------------------------


城をでた私は

城下町に一軒の居酒屋を開いた。




お店の看板には

こんな文章。



王家の愚痴

なんでも、聞きます。





この言葉に引き寄せられて、

今日もお店のお客は沢山やってくる。



------------------------------------



「カルファ様、

  

 最近ずっと寝たきり


 らしいぞ?」



私が城から出て

半年ほどたったある日。


常連の一人が

私に教えてくれた。



寝たきり?

病気なんて、

ほとんどしたことが無かったのに、、。



「動けないカルファ様の代わりに



 マリーナ様の家が


 権力を握っているらしい。」



ねぇ、カルファ。


私が城を出たの、


やっぱり失敗だったかな。


もう早々に、

力を失っているじゃない。




私は慎ましくしていたけど、

本来王妃は

権力を拡大するものなのよ。



食事はきちんと、

毒見してもらってる?


私がこっそり、

貴方の食事を毒見させてたこと

しらないでしょ。







そこに、

ひとりの男が入って来た。



「あら、久しぶり。」


そこにいたのは、

寝たきりのはずの

王子様、カルファだ。



「元気だった、カルファ?」


まぁ、酷くやつれていること。

もっと精悍な顔つきだったのにな。



カルファの

目には大きなクマができ、

生気が感じられない。



「まぁ、な。


 実は、レイシャに、


 手伝ってほしいことがある。」



私は黙ってカルファを見つめた。


手伝ってほしいこと、ですって?




「マリーナを


 追い出すのを


 手伝ってほしい。」


マリーナを追い出すのを、かぁ。




「嫌よ」





「え?」



え?じゃないのよ。

このポンコツが。






「マリーナが


 裏切ってるの、


 薄々気づいていたくせに、



 貴方は私を


 追い出したの。




 そのくせ、


 手伝ってほしいなんて、



 絶対にいやだから。」



どんだけ私を

軽く見ているの?



結局貴方は

子供ができない原因を

私に押し付けたのよ。




「自分の後始末くらい、



 自分でして。





 あと、言わなかったけど。」



言うつもりも無かったけど。




「マリーナの子供


 貴方の子供じゃないわよ。」



ばかね。


どうせ私を追い出すなら、


貴方も最後まで

騙されているしか無かったのに。



マリーナの家が力をつけて


自分の立場が危うくなったから


貴方は私を頼るの?



「わかってる、、だけどっ、、



 あのときは信じたかったんだ。



 それがバレる前に、

 マリーナは俺を


 殺そうとしてる、、。」


つべこべうるさい。

自分の身くらい自分で守れ。






「ここは、



 王家の愚痴を言う居酒屋なの、



 わかる?


 そうじゃないなら、



 さっさと出て言って。 」



自分を捨てた男に優しくするほど、

私は優しくない。



それに、

今の私は


妊娠できるってこと、

もうわかってるのよ。






------------------------------------



一ヶ月後、

王子カルファは謎の死を遂げた。



そして、

マリーナの子供は皇太子となり、


その後見にはマリーナの父親が

任命された。



だがその頃から、

城下町には

奇妙な写真が流れるようになった。




王妃マリーナが、

よく分からぬ男を

部屋に招き入れている写真。




それから、

マリーナが

その男とキスをして、そしてーー。




その淫らな写真は

城下町中に出回り



新しく生まれた王子が

タイラス王家の血を引いていないことを


誰もが知ることになった。




王家は民からの信用を無くし、

ついには王家の存在は


誰も気にしないほど



小さいものになったのだった。




「私が貴方を許すはずないじゃないの、



 馬鹿ね、マリーナ。



 私はカルファほど


 簡単じゃないの。」



-------------------------------------










































しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

不倫相手に捨てられた夫が家にやって来た。

ほったげな
恋愛
夫の不倫が原因で離婚した。その後、夫が私の家を訪ねてきた。なんと、不倫相手は新しい男を作って、夫を捨てたという……。

(完)婚約破棄と白い子犬

青空一夏
恋愛
私は筆頭公爵の嫡男で、まだ婚約者はいなかった。 学園の裏庭で子犬に優しく話しかけるマリーアン候爵令嬢が好きになって婚約した。ところが・・・・・・ もふもふ子犬と麗しい公爵子息と氷のような美貌の候爵令嬢の恋物語。

夫の愛人と同居することになった

ほったげな
恋愛
夫の愛人の家が火事になった。それで、私たち夫婦と同居することに。しかし、愛人居候の分際で好き勝手している。

婚約破棄の後には

湯屋 月詠
恋愛
「イースタリム・シルビア嬢私の前へ来てほしい。」 卒業パーティーでユクイエラ国の王太子デミアス・デュ・ユクイエラは声をあげた

【完結】大嫌いなあいつと結ばれるまでループし続けるなんてどんな地獄ですか?

恋愛
公爵令嬢ノエルには大嫌いな男がいる。ジュリオス王太子だ。彼の意地悪で傲慢なところがノエルは大嫌いだった。 ある夜、ジュリオス主催の舞踏会で鉢合わせる。 「踊ってやってもいいぞ?」 「は?誰が貴方と踊るものですか」 ノエルはさっさと家に帰って寝ると、また舞踏会当日の朝に戻っていた。 そしてまた舞踏会で言われる。 「踊ってやってもいいぞ?」 「だから貴方と踊らないって!!」 舞踏会から逃げようが隠れようが、必ず舞踏会の朝に戻ってしまう。 もしかして、ジュリオスと踊ったら舞踏会は終わるの? それだけは絶対に嫌!! ※ざまあなしです ※ハッピーエンドです ☆☆ 全5話で無事完結することができました! ありがとうございます!

無粋な訪問者は良縁を運ぶ

ひづき
恋愛
婚約破棄ですか? ───ふふ、嬉しい。 公爵令嬢リアーナは、大好きなストロベリーティーを飲みながら、侍従との会話を楽しむ。

悪役令嬢は、婚約破棄の原因のヒロインをざまぁしたい!

公爵 麗子
恋愛
濡れ衣を着せられて婚約破棄なんて、許せませんわ! ヒロインの嘘で何もかも全て奪われた罪、償ってもらいますわ。 絶対に誰よりもしあわせになってみせますわ。

性悪な友人に嘘を吹き込まれ、イケメン婚約者と婚約破棄することになりました。

ほったげな
恋愛
私は伯爵令息のマクシムと婚約した。しかし、性悪な友人のユリアが婚約者に私にいじめられたという嘘を言い、婚約破棄に……。

処理中です...