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11 感情の無い人形のはずだ
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次の日の朝。
「おはよう。」
遊郭にやってきたスバルは
元気よく手を挙げた。
「体調はだいじょうぶ?」
リンは右手に持った風呂敷を
後ろに隠して言った。
「ああ。
一晩寝たらすっかり良くなった。」
「そう。よかった。」
やっぱり、
余命一ヶ月なんて
嘘なんだ。
スバル自身も
昔より体調が良いことが増えたと
言っていたし。
「行こうか。」
スバルはにっこりと笑って
リンに右手を差し出した。
「なーに?」
リンは首をかしげた。
「手を繋いでも良いかい?」
優しい口調で
スバルが言った。
リンは差し出された右手を
じっと見つめる。
手を繋ぐなんて
危険なことだ。
かつて、私と手を繋いだ人は
不幸な目にあってしまった。
「だめだよ。」
リンは首を振った。
スバルはにっこりと笑って
リンの手を繋いだ。
リンははっとして顔をあげる。
「なんで、、?」
「嫌じゃ無いけど、だめなんだろ?」
スバルはリンの手を
優しく握った。
「いやも、だめも、
おんなじ意味よ。 」
スバルは楽しそうに
繋いだ手を軽く揺らした。
スバルの手のひらの温かみが
リンに伝わる。
「俺はだいじょうぶ。
誰にもやられないさ。」
「え?」
「俺は病気という強敵に
打ち勝った男だぞ?
きっと俺は
誰にも負けない。」
リンはただ困った顔をした。
スバルがコウリュウに
見つかりませんように。
リンは心の底から
そう願った。
スバルの手のひらを
ぎゅっと握りしめてリンは言った。
「絶対に負けちゃだめだよ、
スバル。」
◇◇◇
遊郭の一室。
「あいつはやはり不幸の元に
生まれた女だ。
スバルと一緒に
桜を見に行くなんてな。」
クックっと笑って
コウリュウはアユに言った。
アユは乱れた髪を
軽く束ねると
コウリュウにぴったりと寄り添った。
「スバル、という男に
何かあるんですかぁ?」
アユは舌っ足らずな口調で
コウリュウに尋ねた。
アユにとって
コウリュウは遊郭での
最初のお客様だ。
昔からコウリュウはアユに
リンの動向を見張るよう頼んでいた。
今日もまた、
スバルという男について
報告しているところだった。
「スバルは
桜国に存在しないはずの
可哀そうな王子なのさ。」
コウリュウは頬の傷に
触れながら言った。
「存在しないはずの?」
アユが首をかしげる。
「スバルの母親は
奴を産んだ時に
死んでしまってな。
それを悲しんだ現国王である父親が
スバルがまだ生きてるうちに
死んだことにしてしまったんだ。
どうせ死ぬんだから、
一緒だろってな。」
「まあ、ひどい。」
アユは髪をくるくる指で
回しながら言った。
「滑稽なのはここからだ。
本当は赤ん坊で
死ぬはずだったスバルが
いつまでたっても生きやがる。
王は慌てたが
健康な弟がいるから
スバルを放っておいたんだ。
そしたらスバルは死にかけながらも
24まで生きてしまったのさ。」
「ふふふ。」
アユは口を押えて笑う。
「面白いのはこっからだ。
いざスバルが大きくなると、
スバルの存在を知ってるやつらは
騒ぎ出す。
本当はスバルが王になるべきでは
ってな。
そこで王族は目障りなスバルを
消すことにしたのさ。
25歳になる前に
病気と見せかけて
殺しちまおう。
弟のヨシトが反対してるから
スバルはまだ生きているが
それも時間の問題だろうな。」
コウリュウは
お椀に入った酒を飲み干す。
「ずいぶん、お詳しいのね。」
「ふん。
宮廷内の情報で知らぬことは
俺にはない。」
アユはコウリュウの背中に
顔をすり寄せた。
「コウリュウ様は
本当に優秀ね。
コウリュウ様が
アユを身請けしてくれる日が
楽しみで仕方ありません。」
「ああ、楽しみに待っていろ。」
まぁ、リンの身請けが終わったら
この女には用は無いが。
コウリュウは心の中でそう呟く。
「リンも馬鹿だわ。
そんな男のために
お弁当なんか作っちゃって。」
コウリュウはアユをぎろりとにらんだ。
「弁当?」
「ええ。
桜を見に行くって
昨日の夜から
楽しそうに作ってましたよ。」
コウリュウがお椀を
ぐっと強く握った。
「楽しそうに、だと?
あいつは感情の無い人形だ。
そんな姿を見せるはずない。」
アユはコウリュウの顔が
怒りで歪んでいくのに気づかず
言葉をつづけた。
「リンはねぇ、
最近浮かれているんですよ。
人形っていわれていたのが
嘘みたい。
さっきの話を聞いていると
本当に滑稽ですけど。」
ガシャーーーン!!
コウリュウがお椀を
思い切り壁に投げつけた。
お椀が粉々になって
あたりに散らばった。
「コウリュウ様?!」
コウリュウは顔を真っ赤にして
小刻みに震えている。
「許さない、、、」
「コウリュウ様?
何を、何を許さないのですか・・・?!」
コウリュウは腹の中の怒りを
押さえきれなかった。
「俺が誰のためにいつも・・・
”正しい事”をしてやっていると
思っているんだ・・・?」
自分のものにならないくらいなら
いっそこの世から葬り去ってくれようか?
「なぜ俺を見ない・・・?
リン・・・。」
「おはよう。」
遊郭にやってきたスバルは
元気よく手を挙げた。
「体調はだいじょうぶ?」
リンは右手に持った風呂敷を
後ろに隠して言った。
「ああ。
一晩寝たらすっかり良くなった。」
「そう。よかった。」
やっぱり、
余命一ヶ月なんて
嘘なんだ。
スバル自身も
昔より体調が良いことが増えたと
言っていたし。
「行こうか。」
スバルはにっこりと笑って
リンに右手を差し出した。
「なーに?」
リンは首をかしげた。
「手を繋いでも良いかい?」
優しい口調で
スバルが言った。
リンは差し出された右手を
じっと見つめる。
手を繋ぐなんて
危険なことだ。
かつて、私と手を繋いだ人は
不幸な目にあってしまった。
「だめだよ。」
リンは首を振った。
スバルはにっこりと笑って
リンの手を繋いだ。
リンははっとして顔をあげる。
「なんで、、?」
「嫌じゃ無いけど、だめなんだろ?」
スバルはリンの手を
優しく握った。
「いやも、だめも、
おんなじ意味よ。 」
スバルは楽しそうに
繋いだ手を軽く揺らした。
スバルの手のひらの温かみが
リンに伝わる。
「俺はだいじょうぶ。
誰にもやられないさ。」
「え?」
「俺は病気という強敵に
打ち勝った男だぞ?
きっと俺は
誰にも負けない。」
リンはただ困った顔をした。
スバルがコウリュウに
見つかりませんように。
リンは心の底から
そう願った。
スバルの手のひらを
ぎゅっと握りしめてリンは言った。
「絶対に負けちゃだめだよ、
スバル。」
◇◇◇
遊郭の一室。
「あいつはやはり不幸の元に
生まれた女だ。
スバルと一緒に
桜を見に行くなんてな。」
クックっと笑って
コウリュウはアユに言った。
アユは乱れた髪を
軽く束ねると
コウリュウにぴったりと寄り添った。
「スバル、という男に
何かあるんですかぁ?」
アユは舌っ足らずな口調で
コウリュウに尋ねた。
アユにとって
コウリュウは遊郭での
最初のお客様だ。
昔からコウリュウはアユに
リンの動向を見張るよう頼んでいた。
今日もまた、
スバルという男について
報告しているところだった。
「スバルは
桜国に存在しないはずの
可哀そうな王子なのさ。」
コウリュウは頬の傷に
触れながら言った。
「存在しないはずの?」
アユが首をかしげる。
「スバルの母親は
奴を産んだ時に
死んでしまってな。
それを悲しんだ現国王である父親が
スバルがまだ生きてるうちに
死んだことにしてしまったんだ。
どうせ死ぬんだから、
一緒だろってな。」
「まあ、ひどい。」
アユは髪をくるくる指で
回しながら言った。
「滑稽なのはここからだ。
本当は赤ん坊で
死ぬはずだったスバルが
いつまでたっても生きやがる。
王は慌てたが
健康な弟がいるから
スバルを放っておいたんだ。
そしたらスバルは死にかけながらも
24まで生きてしまったのさ。」
「ふふふ。」
アユは口を押えて笑う。
「面白いのはこっからだ。
いざスバルが大きくなると、
スバルの存在を知ってるやつらは
騒ぎ出す。
本当はスバルが王になるべきでは
ってな。
そこで王族は目障りなスバルを
消すことにしたのさ。
25歳になる前に
病気と見せかけて
殺しちまおう。
弟のヨシトが反対してるから
スバルはまだ生きているが
それも時間の問題だろうな。」
コウリュウは
お椀に入った酒を飲み干す。
「ずいぶん、お詳しいのね。」
「ふん。
宮廷内の情報で知らぬことは
俺にはない。」
アユはコウリュウの背中に
顔をすり寄せた。
「コウリュウ様は
本当に優秀ね。
コウリュウ様が
アユを身請けしてくれる日が
楽しみで仕方ありません。」
「ああ、楽しみに待っていろ。」
まぁ、リンの身請けが終わったら
この女には用は無いが。
コウリュウは心の中でそう呟く。
「リンも馬鹿だわ。
そんな男のために
お弁当なんか作っちゃって。」
コウリュウはアユをぎろりとにらんだ。
「弁当?」
「ええ。
桜を見に行くって
昨日の夜から
楽しそうに作ってましたよ。」
コウリュウがお椀を
ぐっと強く握った。
「楽しそうに、だと?
あいつは感情の無い人形だ。
そんな姿を見せるはずない。」
アユはコウリュウの顔が
怒りで歪んでいくのに気づかず
言葉をつづけた。
「リンはねぇ、
最近浮かれているんですよ。
人形っていわれていたのが
嘘みたい。
さっきの話を聞いていると
本当に滑稽ですけど。」
ガシャーーーン!!
コウリュウがお椀を
思い切り壁に投げつけた。
お椀が粉々になって
あたりに散らばった。
「コウリュウ様?!」
コウリュウは顔を真っ赤にして
小刻みに震えている。
「許さない、、、」
「コウリュウ様?
何を、何を許さないのですか・・・?!」
コウリュウは腹の中の怒りを
押さえきれなかった。
「俺が誰のためにいつも・・・
”正しい事”をしてやっていると
思っているんだ・・・?」
自分のものにならないくらいなら
いっそこの世から葬り去ってくれようか?
「なぜ俺を見ない・・・?
リン・・・。」
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