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20.王妃様の"嫉妬"

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アンドリューが北宮殿に到着してからしばらくして、リリア王妃とティリンス王子が北宮殿に帰ってきました。

(あの女性はだいじょうぶだろうか。)

黒い髪に黒い瞳。ミラノリ国特徴を持った女性のことをリリア王妃は強く気にかけていました。ですので北宮殿に着くとすぐ、運ばれた女性がいる部屋を騎士に尋ねました。

「その女性ならば、アンドリュー様と一緒に医務室におります。」

「そう。ありがとう。」

リリア王妃は足早に医務室に向かいました。何事もないようにティリンスは跡を着いてきますが、リリア王妃は何も言いませんでした。きっと、彼なら余計なことは言わないでしょうし、暇になったら帰るはずです。

「まぁ、アンドリュー様ったら!」

医務室の中から女性の声とアンドリューの笑い声が聞こえ、リリア王妃は驚いて足を止めました。
 
医務室の少し空いたドアの隙間から、リリア王妃はそっと中を覗きました。

(アンドリューのあんなに明るい笑顔を、久しぶりに見たわ。)

リリア王妃はその場に呆然と立ち尽くしました。シィナと名乗った女性の顔は赤く腫れていますが、元気に話しているところを見ると重体では無さそうです。

(喜ばなければならないはずなのに。)

アンドリューがシィナと話している様子を見て、リリア王妃の心はざわざわと大きく揺れました。とても、お似合いの二人に見えたのです。

なぜか、リリア王妃は部屋に入ることができず二人の様子をじっと見ていました。身振り手振りを使って楽しそうに話すシィナはアンドリューの腕にそっと触れました。アンドリューはその手を払おうとせず、優しく笑っています。

(嘘、、、。)

リリア王妃は大きく目を見開くと、黙って踵を返し、反対の方向に早足で歩きだしました。リリア王妃は自分でもどこに向かっているのか分かりませんでした。ただ、その場を離れたかったのです。

そのまま、北宮殿の外まで出たとき、ティリンス王子がリリア王妃の名前を呼びました。

「リリア様!」


   ◇◇◇


ティリンスは早足で歩くリリア王妃の跡を追いました。高く結い上げた髪が忙しなく左右に揺れています。

リリア王妃は止まることなく歩き続け、遂には北宮殿の外に出てしまいました。

「リリア様!」

思わず呼びかけると、リリア王妃は足を止めゆっくり振り返りました。唇を噛み締めたそのお顔は酷く動揺していました。

「何かしら?」

震える声で答えたリリア王妃を見て、ティリンスは全てを察しました。

(リリア様はアンドリューのことを愛しているのだ。)

目の前に立つリリア王妃はかつて商談の場で見た誇り高き王妃ではありません。好きな男が他の女性と話しているだけで落ち込んでしまう普通の女性でした。

「リリア様。」

ティリンスはリリア王妃の名前をもう一度呼びました。心臓が何かに刺されるように痛みます。ティリンスは柔らかい笑顔を向けながら、右手で心臓を抑えました。

(この短い間で、僕はリリア様のことを本気で好きになってしまっていたのだ。)

リリア王妃はじっとティリンスを見つめ続く言葉を待っていました。真珠のような大きな瞳に吸い込まれてしまいそうです。

「リリア様は、、、アンドリューのことが好きなのですか?」

ティリンスはゆっくりと、リリア王妃に尋ねました。今のままでは、ティリンスにアンドリューに勝つ見込みはありません。

10年以上、一番側で王妃を支えてきた人間に誰が勝てるというのでしょう。だからこそ、ティリンスは大きく一歩踏み込みました。

リリア王妃は両手で口を覆って立ち尽くしています。

「リリア様、僕ならリリア様の相談に乗れると思います。僕も、、、叶わぬ恋をしている最中ですので。」



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