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9.醜い"お姫様"

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「陛下!!」

ジキル王はリリア王妃を見下ろしました。黒い髪に黒い目。なんと恐ろしく、醜い娘だろう。リリア王妃の姿を見るのは、10年前に父の葬式で見かけた以来でした。

「なんと無礼な女よ。」

ジキル王の言葉に、リリア王妃は目を見開きました。今日は、リリア王妃の誕生日なのですから、お祝いの言葉を言うべきなのです。

「その、女性はどなたでしょうか?」

リリア王妃は消え入りそうな声で、ジキル王に尋ねました。ピリナは口を押さえてリリア王妃を見ています。ジキル王は見せつけるようにピリナを抱き寄せました。

「私の唯一の妃であるピリナだ。」

リリア王妃は首を振ります。

「私が、貴方の唯一の妃であるはずです。陛下!なぜ、私を王妃と認めてくださらないのですか?!」

リリア王妃は12年間、心の中でずっとジキル王に問いかけていました。初めは歳が離れたリリア王妃を気遣ってくれているだけだと思っていたのです。13歳でリリア王妃が嫁いだとき、ジキル王は17歳でしたから。でも、もうリリア王妃は25歳で、子供では無いのです。

「王妃として認める、だと? 」

ジキル王はリリア王妃を睨みつけました。

(この女は12年もの間、それを望み続けたとでも言うのか。)

ジキル王の心に一瞬哀れみの感情が浮かびました。13歳で何も分からず他国の王妃になり、冷遇され続けたにも関わらず、それでもリリア王妃はジキル王を信じ続けたのです。

(なんと、、愚かで、、一途なのだ、、。)

それはジキル王に一瞬だけ芽生えたリリア王妃への親しみでした。ですがその思いはピリナ嬢の言葉で一瞬で消え去りました。

「貴方のせいでジキル様の父上は亡くなられたのに、なんと図々しいのでしょう。」

ピリナ嬢の言葉でジキル王の心は憎しみに塗りつぶされました。

「そうだ!お前のせいで父は死んだのだ!!」

ジキル王はリリア王妃を睨みつけました。

「そんな、、、。」

リリア王妃は顔面蒼白でした。こんなつもりでは無かったのです。一度、ジキル王としっかり話し合いたかっただけです。恨まれているなんて考えたこともありませんでした。

「今まで、生かしてやっただけでもありがたく思え!!最近、調子に乗っているようだが、それももう終わりだ。」

「調子に、、、乗っている?」

リリア王妃の足元はぐらぐらと揺れています。様子がおかしく、今にも倒れそうです。

「ああ!もうすぐお前に処分が下るだろう!悪事を働いたお前には罰が下る!!」

もちろん、全てジキル王がでっちあげた罪です。リリア王妃ほど清廉な人物はいません。

「わたしは、、、必死で、、貴方に認められたかっただけなのに。」

リリア王妃は糸が切れたようにその場に倒れ込みました。

「リリア様!」

地面に思い切り倒れそうだったリリア王妃を支えたのは、アンドリューでした。急いでリリア王妃を追いかけて来たのです。アンドリューは倒れたリリア王妃を抱き上げました。顔は真っ白です。

「お前は、何者だ?!その女に味方をするのか?!」

ジキル王は叫びました。アンドリューはゆっくりと顔を上げ、ジキル王を見上げます。

「私はリリア様の騎士です。陛下。」

リリア王妃を守ることが、アンドリューの使命です。最後まで、絶対にリリア王妃を守ると決めています。アンドリューは静かに頭を下げました。心の中は怒りで満ち溢れていましたが、今はリリア王妃をここから連れ出すことが一番大切なことです。アンドリューはリリア王妃を抱き上げその場をさりました。



   ◇◇◇
    
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