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8.貴方はだれ?
しおりを挟むお城をでて、乗ってきたヴァンブリード家の馬車を探す。ナイフで刺された腹部はまだ痛むが、動けないほどではない。
「アリーチ様。」
後ろから妙に聞き覚えのある声がして、振り返る。
「あ!」
するとそこには、生まれ変わる前の私、ラウラ・アップルが立っていた。銀色の髪に、水色の瞳のラウラ。まじまじと自分を見るのは初めてで、なんだか恥ずかしくなってくる。
「アリーチ様……ご無事で何よりです。」
ラウラの姿をした女性は、丁寧な口調で私に言った。心配そうな口ぶりで私を見つめるラウラにはきっと、私ではない誰かの人格が入っているんだろう。
その誰かの予想はできている。
「そっちこそ……えっと、その、うまく伝わるかわからないんだけど……あなたは誰?」
単刀直入に尋ねた。私とラウラが話している様子を皆がちらちらとうかがっている。あまり長い事話している時間はなさそうだった。
「私は……もともとアリーチだったわ。貴方は……ラウラかしら?」
ラウラは微笑んで答えた。
「やっぱり……。」
何故だかわからないけれど、私の人格がアリーチの体に入り、アリーチの人格は私、ラウラの体に入ったんだ。
「婚約破棄されたと聞いたわ。可哀そうね……。」
ラウラは目を細めて馬鹿にした口調で私に言った。
――ああ、性格の悪さは変わらないのね。
「ラウラに戻りたいんでしょう?」
私は肩をすくめた。どうやら、彼女は私がアリーチになったことを悲しんでいると思っているらしい。
「全然、戻りたくないよ!」
「え……?」
ラウラが目を見開いた。
――あなたが思うほど、ラウラとしてエドウィ城にいるのは楽しくなかったよ。さんざん、貴方にいじめられたからね。
「これで万事解決だね!私はアリーチとして、楽しく過ごそうと思うよ。」
私の言葉に、ラウラはにやりと笑った。
「まぁ、素敵。ありがとう。このことはわたくしたちだけの秘密ね。」
「もちろんだよ。」
深く頷く。
――まぁ、言ったところで誰も信じないと思うけど。
「次、邪魔したら、容赦はしないわよ。」
ラウラは私を恐ろしい目で睨みつけた。この女は本当に何でもしそうで恐ろしい。
「リッカルドに近づかないって誓うよ。」
「良い子ね。約束よ。」
そう言って念を押すラウラを見ていると、笑いがこみあげてくる。
容赦はしないと、ラウラは言ったけれど、ラウラ・アップルはただの孤児で味方は一人もいない。そのことに彼女は気づいているのだろうか。
「その……リッカルドとお幸せにね!」
こみあげてくる笑いに気づかれないように、私はラウラに背を向けた。
「貴方に言われなくたって、今度こそリッカルドと幸せになるわ。貴方に邪魔をされなければ、私たちは上手くいくに決まっているんだから。」
「……う、うん。」
ラウラを見ていると不安になってきた。
リッカルドとラウラは上手くやっていけるんだろうか……。二人の仲がこじれて、やっぱりアリーチと婚約、なんて事態は絶対に避けてほしいんだけど。
「幸せだわ。もう私は、婚約破棄された可哀そうな令嬢じゃないの。次はあなたがその苦しみを味わう番よ。」
恐ろしい目で私を睨みつけるラウラから、逃げるように私はその場を去った。
◇◇◇
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