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7.婚約破棄、撤回?
しおりを挟む次の日。意識が戻ったばかりにもかかわらず、私はエドウィ城にいた。
――まさかリッカルドが正気に戻って、アリーチを婚約者に戻すとか言い出すんじゃないよね?
「アリーチ……体は大丈夫か?」
皇太子の部屋に入ると、リッカルドが神妙な顔で私に尋ねた。リッカルドとアリーチは幼馴染で、昔からよく一緒にいたらしい。
だが、何をやらせても完璧なアリーチと不器用でポンコツなリッカルドは馬が合わなかった。あれこれアドバイスをするアリーチをリッカルドはうっとうしくなり、遠ざけたのだった。
「心配ありがとう。大丈夫よ。」
だがそうはいってもやはり幼馴染。失うかもしれないと思ったら、心の底に秘めた思いが沸き上がってきてもおかしくない。
――お願いだから、婚約破棄をやめるだなんて、言わないでね……。
私は両手を合わせ、リッカルドの言葉をじっと待った。
「ヴァンブリード伯爵から、一連の事件により、婚約破棄は無効との申立てがあった。」
リッカルドが重々しく口を開く。
――くそじじいめ、余計なことを……!
「なるほどぉ。」
――ああ、ドキドキする。
「だが、ラウラも無事に意識を取り戻し、後遺症が残る心配はないとわかった。」
「ほう!」
「アリーチ、君との婚約破棄の決定は覆えらない。ラウラを妃として迎えることが正式に決定した。」
リッカルドは私から目をそらして、一息にそう言った。
「わーい!その言葉を待ってたよ!」
私は喜びのあまり、両手を高く突き上げた。
――危なかった……ラウラが元気で本当に良かった。
「え?」
リッカルドは私の反応に戸惑っている。私はコホンと咳ばらいをして、ごまかした。
「気にしないで。婚約破棄、大歓迎だよ!」
「そ、そうか……。」
疑われたってかまわない。人格が入れ替わっただなんて、考える人はいないだろう。頭を打って性格が変わったと思ってくれたらいい。
「納得してくれてよかったよ。君を傷つけてしまったんじゃないかと心配していたんだ。ヴァンブリード伯爵にも、うまく言ってくれると助かるんだが……。」
――ああ、アリーチのお父さんの機嫌を損ねるんじゃないかってずっと心配してたもんね?私がどんなにいじめられても、放置するくらいに。
「了解!あのくそ親父にも上手く言っておくよ!」
親指を突き立てる。
これでまた、ラウラの命が狙われたら大変だ。私がリッカルドの妃にならなくちゃいけなくなるからね。
「ありがとう。助かるよ、アリーチ。なんだか性格が変わったね。」
「そ、そう?」
「ああ。別人と話しているみたいだ。」
「死にかけて、頭がおかしくなっただけだよ。気にしないで。」
あまりリッカルドと話していると、余計な疑いをかけられてしまいそうだ。私はにっこり笑って、ドアに手をかける。
「話は、これで終わり?」
「ああ。」
「そしたら、もういくね。」
ひらひらと手を振ると、リッカルドがじっと私を見つめている。
――いけない。もっとアリーチらしく振舞えばよかったかな。なんて、今更か。
「バイバイ、リッカルド。ラウラを幸せにしてあげてね。」
そう言って私は、部屋を後にした。
◇◇◇
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