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5.冷たい父親
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不思議な展開に戸惑いながらも、私は少し嬉しかった。あのまま、ラウラとして生きていくより、婚約破棄されたアリーチのほうが、幸せな人生が歩めるかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、お医者さんと共に、アリーチの父親であるヴァンブリード伯爵が部屋に入ってきた。
「よく死の淵から戻ってきたな!」
満面の笑みを浮かべるヴァンブリード伯爵に私は顔をしかめた。この男には何度も痛い目を見せられてきたからだ。
それにしても……死の淵から戻ってきたとはどういうことだろう。何者かに刺されたて死にかけていたのはラウラ・アップルなはずだけど。
「お前が婚約破棄されたときはどうなるかと思ったが、ようやく運が回ってきたようだ。」
とヴァンブリード伯爵が声を弾ませた。死にかけていた娘にかける言葉として、適切だとは思えない言葉。
――こんな父親は嫌だなぁ。
「お父様。心配してくれてありがとう。」
そんな気持ちを押し殺して、私はにっこりと笑う。
「できるだけ早く回復して、リッカルド様のところに行くぞ。まだ、ラウラは目を覚ましておらん……。上手くあの女が死んでくれれば、お前が婚約者に戻れるんだ!」
粗い鼻息で、ヴァンブリード公爵は言う。
その言葉に私は微妙な感情になった。
――もともとラウラだった私はアリーチになった。そしたら、ラウラは空っぽなのか、それとも……?
「聞いているのか?!」
「ふむ。」
私は首を傾げた。
「なんだ!その気の抜けた返事は!」
「えっと。状況が分からなくて……。私とラウラに何があったの?」
父親は額に深いしわを寄せて、事件の詳細を説明した。
「一ヶ月前の、あの忌々しきパーティでお前は何者かにナイフで刺されたのだ。それと同じタイミングでラウラの奴も襲われてな。」
「えええ!なぜ?」
私は驚きと恐怖を抱えながら尋ねた。方々から恨まれていたラウラならまだしも、アリーチまで襲われるなんて……。
「いまだ犯人は捕まっておらんし、その動機はわからん」
ヴァンブリード伯爵は苛立ちを込めて答えた。
――何が起こっているんだろう?
事件は私がアリーチになったことと、関係しているんだろうか?
「怖いね」
「すぐに捕まる。それよりその子供っぽい話し方をどうにかしろ!まるでラウラのようではないか!」
ヴァンブリード伯爵は私を怒鳴りつけると、足早に部屋を去っていた。死にかけた娘の容態にはさして興味はなさそうだった。
◇◇◇
そんなことをぼんやり考えていると、お医者さんと共に、アリーチの父親であるヴァンブリード伯爵が部屋に入ってきた。
「よく死の淵から戻ってきたな!」
満面の笑みを浮かべるヴァンブリード伯爵に私は顔をしかめた。この男には何度も痛い目を見せられてきたからだ。
それにしても……死の淵から戻ってきたとはどういうことだろう。何者かに刺されたて死にかけていたのはラウラ・アップルなはずだけど。
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とヴァンブリード伯爵が声を弾ませた。死にかけていた娘にかける言葉として、適切だとは思えない言葉。
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粗い鼻息で、ヴァンブリード公爵は言う。
その言葉に私は微妙な感情になった。
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「えっと。状況が分からなくて……。私とラウラに何があったの?」
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「一ヶ月前の、あの忌々しきパーティでお前は何者かにナイフで刺されたのだ。それと同じタイミングでラウラの奴も襲われてな。」
「えええ!なぜ?」
私は驚きと恐怖を抱えながら尋ねた。方々から恨まれていたラウラならまだしも、アリーチまで襲われるなんて……。
「いまだ犯人は捕まっておらんし、その動機はわからん」
ヴァンブリード伯爵は苛立ちを込めて答えた。
――何が起こっているんだろう?
事件は私がアリーチになったことと、関係しているんだろうか?
「怖いね」
「すぐに捕まる。それよりその子供っぽい話し方をどうにかしろ!まるでラウラのようではないか!」
ヴァンブリード伯爵は私を怒鳴りつけると、足早に部屋を去っていた。死にかけた娘の容態にはさして興味はなさそうだった。
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