【短編】浮気を疑われ婚約破棄されましたが、それらは全て双子の妹の仕業でした。

1.最愛の彼との婚約破棄

「シャーロットはいいわね。美しくて、才能があって、素敵な婚約者までいて。」
　
ラビーン家、長女シャーロット・ラビーンの部屋。ピアニスト腰掛けるシャーロットの髪を触りながら、ノアが言った。

「ノアと私の見た目は同じだし、あなたにも婚約者がいるでしょ？」

ノアはシャーロットの双子の妹。一卵性双子である彼女たちの見た目は瓜二つだが、髪の色だけが異なっていた。金髪のシャーロットに対して、ノアは赤毛である。

「全然違うわ！」

ノアがシャーロットの髪をぎゅっと握った。

「痛っ。」

「この金色の綺麗な髪がどれだけ羨ましいか。それに、、シャーロットだけがピアノが上手いじゃない。」

ノアの言葉にシャーロットはため息をついた。シャーロットにはノアの髪色の方が親しみやすくて羨ましかった。金髪のシャーロットは気が強く見えるのか友達が少ないのだ。

（ノアが持っていて私が無いものは沢山あるのに。）

それに、ノアが友達と遊んでいる時間を、シャーロットは全てピアノに費やしている。一緒にピアノを始めたノアはとうの昔にレッスンをやめてしまっていた。

「だって、それだけ努力してるもの。」

「なによ。私なんて努力してもなにもできないのに。自慢してるわけ？」

「違うけど、、、。」

シャーロットは大きくため息をついた。ノアに何と言っても無駄だ。どうも双子の妹のノアとは昔から相性が悪い。

「ねぇ、これから私の婚約者とシャーロットの婚約者でダブルデートに行かない？」

ノアはシャーロットの髪の毛をくるくると指に絡めながら尋ねた。

「え、、、でも私、これからピアノの練習をしなくちゃいけないから、、、。」

来週、大きなピアノの舞台があるのだ。だから最近はピアノの練習ばかりしている。

「だけど、ほら、ルカも退屈そうで可哀想じゃない？」

ノアはピアノのとなりのソファーでクッションを抱きしめて眠っているルカをチラリと見た。ルカは学校の同級生で5年前からシャーロットと婚約している。

ピアノのレッスンに明け暮れるシャーロットを、いつも側で優しく見守ってくれているのだ。そのうちに、今みたいにねむってしまうことも多いけれど、それも愛おしかった。

「そうね。確かに最近は、デートなんて全くしていないわ。」

ルカの優しさに甘えて、ピアノに明け暮れる毎日だけれど、偶には一緒にでかけるべきかもしれない。そう思ったシャーロットは、ノアと共に街に出かけることにした。


　　◇◇◇

「なあ、そろそろ帰ろうよ。」

ルカは目を擦りながら、シャーロットに言った。基本的に外出が少ないルカは、人混みがあまり好きではない。久しぶりのデートにも関わらず、ずっと帰りたがっていた。

「まだ来たばかりじゃない。もっと楽しみましょうよ。」

ノアはそう言うが、ルカが楽しくないのにデートをする意味がない。

「そうしたら、私とルカは先に帰ってるから、ノアは婚約者さんとゆっくり楽しんで？」

シャーロットの言葉に、ルカは大きく頷いた。そもそも、人見知りのシャーロットとルカはダブルデートを全く楽しむことができない。

「ええ？！もう少し一緒にいましょうよ！！」

ノアがそう言って、シャーロットの腕を引っ張った。

（いつもは私を邪険に扱うくせに、何で今日に限って関わろうとするんだろう。）

シャーロットが怪訝に思った時だった。

「シャーロット！！お前！！浮気していたのか？！」

「え、、、？」

見知らぬ男がシャーロットを指さして叫んだ。

「だ、誰よ、貴方？！」

「とぼけるのもいい加減にしろ！！シャーロット！！この一年、ずっと俺と付き合っていただろう？！」

黒髪に黒目の大柄なその男は顔を真っ赤にして叫んでいる。一度も見たことがないこの男に、なぜ怒鳴られているんだろうか。シャーロットは訳が分からなかった。

「どういうこと？」

ルカは繋いでいた手を離さずに、シャーロットに尋ねた。

「誤解よ！！私は浮気なんてしてないわ！！」

シャーロットはルカに必死で訴えた。そもそもこの一年、ピアノの練習に必死でまともに自由な時間を取れなかったのだ。

「まあ、シャーロット。なんて恐ろしい子なの？」

ノアは楽しそうにそう言った。私は絶対に浮気なんてしていない。だとすると、考えられることは一つだ。

「あんたね、、ノア！！」

ずっと怪しいと思っていたのだ。シャーロットに関する身に覚えがない悪評が、学園に流れることがよくあった。これまでは、ただの噂と気にせずにいたのだが、もしもノアがシャーロットのふりをしていたとしたら、、、？

 「私のふりをして、あの男と付き合っていたんでしょう？！」

ノアはシャーロットを恐ろしい目で睨みつけた。

「証拠もないのに、人のせいにするのはやめて頂戴。誰がシャーロットの言うことを信じるのかしらね？」

実際に、シャーロットの言葉を信じるものはいなかった。シャーロットは婚約者がいるにも関わらず、1年間も浮気をしたと学園中に噂が流れた。

それに、激怒したのがルカの両親である。元々ルカの身分はシャーロットよりも高く、身分が釣り合っているとは言えなかった。

シャーロットの浮気の噂を聞いたルカの両親は、即日ルカとシャーロットの婚約破棄を決めたのだった。


　　　◇◇◇