上 下
35 / 38

35.可愛い

しおりを挟む

SIDE ルカ

城に戻ってからの10日間は、恐ろしいほど忙しい日々が続いた。

父上から正式に皇太子に指名されたからだ。

「行こう、ルネア!今日もやらなくちゃいけないことだらけだ!」

「はい!参りましょう。ルカ様。」

ルネアと共に俺は部屋を出て、父の元に向かった。

正式な皇太子に任命されると、仕事の引き継ぎや新しい役目、各地の領主との顔合わせなど、やらなくてはいけないことが山積みだった。

「ルカの誕生日当日、お前の皇太子就任式を行うつもりだ。」

父上は嬉しそうに決めたが、もう少し時間に余裕を持っても良かったんじゃないかと思う・・・。

ミラノリやゼルタ、その一族がいなくなり、俺が命を狙われることはすっかり無くなった。

だから、ルネアとのんびり愛を育もうと思っていたのだが・・・そんな暇がないくらい忙しい。

ルネア、本当の名前はレレアだったが、これまでどおりルネアと呼ぶことになった。アリアがそう望んだのだ。

"いいのよ。ルネアとしての17年を大切にしてちょうだい。私はレレアって勝手に呼ぶから!"

そう言ってアリアは笑っていた。

「毎日、連れ回してごめんな。疲れたろう?」

「いいえ。全然です。もう少しで、ルカ様の誕生日ですから・・・最後までお守りさせてもらいます。」

そう言って、ルネアは寂しそうに笑った。

「・・・ありがとう。」

最後になんかするつもりはない。
その言葉をぐっと飲み込む。

今すぐにでもルネアに愛を伝えて、キスをしたい。一生側にいてほしいと伝えて、抱きしめたい。

だけど、それを伝える為に完璧な状況を整えたかった。明日には、ルネアの為に作っている婚約指輪が完成する。

明日は、ルネアとの"契約"の最終日だ。

婚約指輪とバラの花束を手に、ルネアにプロポーズすると決めていた。

「今日の料理は何がいい?」

そう言って、ルネアの手を繋ぐ。

「ルカ様が作ってくれるものなら、なんでも好きです。」

かわいい。かわいすぎる。

「ずるいな。」

「え?」

「最近、ますます可愛くなって困るよ。」

最近、ルネアの雰囲気は一気に柔らかくなった。母親と再会し、自分の過去を知ったからだろう。

これまでもその美しさから、騎士たちを魅力していたルネアだが・・・最近ルネアが見せる柔らかい笑顔の可愛さは異常だ。

これ以上、ルネアを好きな男が増えては困る。

「ルカ様・・・恥ずかしいです・・・!」

腰を抱き寄せ、皆に見せつける。
ルネアは俺の婚約者だからな!

「だいじょうぶだ。婚約者なら普通のことだよ。」

「そ、そうかもしれませんが・・・!」

顔を真っ赤にするルネア。
かわいいかわいいかわいいかわいい。

はやる気持ちをぐっと抑える。

明日、絶対に伝えるんだ。
ルネアのことが大好きだと。

"婚約者(仮)"としてなんかじゃなく、本当の婚約者としてルネアに一生側にいてほしいんだと、ちゃんと伝えなくては。

明日に胸を高まらせていた俺は気が付かなかった。俺が見ていないとき、ルネアがずっと悲しい表情を浮かべていたことに。

もうすでに伝わっていると勘違いしていた俺の気持ちに、ルネアは気がついていなかった。


  ◇◇◇


「ルネア?」

契約最終日。
俺の18歳の誕生日の朝。

目が覚めるとルネアの姿はいなくなっていたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

処理中です...