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33. 過去➀
しおりを挟むルカ様はガーラン様から手渡されたラミナ様の日記を読み始めた。
17年前の日記は、酷く傷んでいたけれど文字ははっきりとしていた。きっと、ガーラン様が大切に保管していたんだろう。
「これが、母上の残した日記・・・。」
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【ラミナの日記】
その日、一週間ぶりに私はガーラン様の部屋に呼ばれました。ガーラン様に会わない日が7日間も続くのは珍しいことでしたが、私の体調の悪さを気遣ってくれていたのだと思っていました。
ですが、部屋にはいると、ガーラン様は酷くお怒りになっていました。
「ラミナ、なぜ僕を裏切ったんだ・・・?!」
いつもいつも優しく微笑みかけてくれるガーラン様は鋭い目で私を睨みつけていました。
ガーラン様の側には、なぜかミラノリが寄り添っています。ミラノリはこれまで私からガーラン様を奪おうと、何度も嫌がらせをしていました。
ミラノリがガーラン様に嘘を言ったに違いない。私はそう確信しました。
「だが・・・君への最後の慈悲だ・・・君を僕の愛人にしてあげようじゃないか!!皇太子を裏切り、婚約破棄された令嬢を引き受ける奴はいないだろう?!」
ガーラン様は泣きそうな表情で叫びました。何を言っているのでしょう。
婚約破棄・・・?!慈悲・・・?!
とにかくガーラン様が普通じゃないのは、よくわかりました。
私は誓ってガーラン様を裏切ってなどいません。ガーラン様は何か誤解をしているのです。
「う、あ・・・。」
だけど、声を出そうとしても口が動きまさんでした。口だけではなく、体全体が痺れているのです。
さっき、ミラノリが私に渡した紅茶を飲んでから体の調子がおかしくなっていました。
「言い訳すらしないのか?!」
違うです。聞いてください。ガーラン!私は貴方を裏切っていません。
そう伝えようとしましたが、できませんでした。ガーラン様には、私が真実がバレて黙りこくっていると思ったのでしょう。
ガーランは憎しみを込めた言葉を私にぶつけました。
「大人しくしているならば、愛人として僕が君を守ってあげるよ・・・どんなに惨めになろうと、王族を裏切ったラミナに行く場所なんてないんだろう?!」
なぜ、こんなにもガーラン様は私の裏切りを確信しているのでしょう。私にはわけがわかりませんでした。
その時、もうすでに私のお腹にはガーラン様との間に赤ちゃんがいました。
ガーランに駆け寄ろうとしましたが、体が動かきません。痺れた体は惨めに椅子から転げ落ちました。
「ガーラン様はずっとラミナを信じてくださっていたのにねぇ・・・私が現実を見せて教えて差し上げたの!!貴方がどんなに酷い女なのかってことをね!」
ミラノリの甲高い声が聞こえました。
「ラミナ・・・君が男に肌を触らせるところを見るまでは信じられなかったよ・・・!!ずっと君を信じていたのに!!」
それは・・・ガーラン様の酷い誤解です。
確かに、私が男の人にお腹を触ってもらう場面はありました。ですがそれは、妊娠の経過をお医者さんに検診してもらっていただけです。
いつもは女のお医者さんなのに、一日だけ男のお医者さんが検診している日がありました。
ガーラン様は、その場面を見て私の浮気現場を目撃したと思いこんでいるのです。もしかしたら、急にあの日だけ男のお医者さんが来たこと自体、ミラノリの策略だったのかもしれません。
「だいじょうぶです。ガーラン様。こんな醜い女のことなんて忘れてしまいましょう?わたくしが支えて差し上げます。」
ミラノリがガーラン様の手に触れ、にやりと笑いました。
確かにあの日の、お医者は少し嫌な感じがしたので、私は途中で逃げ出しました。あの場面をガーラン様がミラノリと見ていたなら・・・ガーラン様が誤解するのもあり得る話です。
「僕はラミナを許せない・・・!だが、手放すこともできないんだよ・・・!」
そう叫んで、ガーラン様は私に背を向けました。
悲しさと悔しさで、涙がにじみます。ソルトナが憎い。あの女が、こんな馬鹿げた誤解を作り出したのだです。
私はガーラン様を、愛している。
その言葉すら言えず私は意識を失いました。
目が覚めると、私はステフィス国本宮殿から遠く離れた北の屋敷に閉じ込められていた。どんなにガーラン様と話がしたくても、それは叶いませんでした。
「ラミナ様をここから出すなとガーラン様に命じられております。」
北の屋敷の出入り口はガーランが派遣した兵によって厳重に守られていたのです。それから半年間、私は屋敷に閉じ込められていました。
噂によると、私は裏切りの罪で婚約者から愛人に降格し、ミラノリが代わりにガーラン様の婚約者になったそうです。
ガーラン様の父親の国王様は私に酷くお怒りなさっているらしく、私の一族は国を追放されたとアリアが教えてくれました。アリアは私の家のメイドの娘で、昔から仲良くしていました。
私が閉じ込められていると知った彼女は、私のお手伝いとして北の屋敷に来てくれたのです。
「赤ちゃん・・・。ガーラン様と私の子供・・・」
私が北の屋敷に閉じ込めてから、8ヶ月後。元気な赤ちゃんが生まれました。
名前は"ルカ"。ルカはガーランと同じ深緑の瞳を持っていて、彼によく似ていました。
「ルカくん!私と遊ぼ!」
アリアの娘であるレレアも、ルカの面倒を見てくれました。
4人の暮らしは平穏なものでしたが、その暮らしは長く続きませんでした。
ガーラン様の子供を産んだことを知ったミラノリが、私を消しにきたのです。
ちょうどその日は、アリアが屋敷にいませんでした。アリアは真実をガーラン様につたえると言って、ステフィス城に向かっていたのです。
ミラノリの部下が屋敷に火を放ち、炎で正面玄関が塞がれました。
裏口には、ミラノリの兵が構えています。
「ラミナさま!にげよう!」
まだ5歳のレレアは私の腕を引っ張っていました。このまま出ていけば、私とルカの命は無いでしょう。
私はレレアに赤ん坊のルカを渡しました。
「ルカを守って・・・お願い。ルカを・・レレア、お願いね。私が先に出るから、裏の扉からお外にでるの。ルカを守って逃げて。アリアに会うまで隠れているのよ。わかった?」
まだ小さな5歳の少女への頼み事には、重すぎることは私にはよくわかっています。
「わかった。」
ですが、レレアはルカを抱きしめて、大きく頷いてくれました。
「私はここよ!!!」
炎が燃え盛る屋敷の中で、私は兵士に向って叫びました。視界のはしで、ルカを抱きしめたレレアが秘密の扉から外に出たのが見えました。
「あの女を捕まえろ!!どこかに息子もいるはずだ!!」
秘密の扉を見つけたのは、つい昨日のことです。その扉を見つけたアリアは今、ガーラン様のところに向かっています。
「息子などいないわ!!貴方たちの目的は私でしょう!!」
私が兵を引き付けている間に、なんとかレレアがルカと共に逃げてくれますように。
炎の中で、私は祈っていました。
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