上 下
33 / 38

33. 過去➀

しおりを挟む

ルカ様はガーラン様から手渡されたラミナ様の日記を読み始めた。

17年前の日記は、酷く傷んでいたけれど文字ははっきりとしていた。きっと、ガーラン様が大切に保管していたんだろう。

「これが、母上の残した日記・・・。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ラミナの日記】


その日、一週間ぶりに私はガーラン様の部屋に呼ばれました。ガーラン様に会わない日が7日間も続くのは珍しいことでしたが、私の体調の悪さを気遣ってくれていたのだと思っていました。

ですが、部屋にはいると、ガーラン様は酷くお怒りになっていました。

「ラミナ、なぜ僕を裏切ったんだ・・・?!」

いつもいつも優しく微笑みかけてくれるガーラン様は鋭い目で私を睨みつけていました。

ガーラン様の側には、なぜかミラノリが寄り添っています。ミラノリはこれまで私からガーラン様を奪おうと、何度も嫌がらせをしていました。

ミラノリがガーラン様に嘘を言ったに違いない。私はそう確信しました。

「だが・・・君への最後の慈悲だ・・・君を僕の愛人にしてあげようじゃないか!!皇太子を裏切り、婚約破棄された令嬢を引き受ける奴はいないだろう?!」

ガーラン様は泣きそうな表情で叫びました。何を言っているのでしょう。

婚約破棄・・・?!慈悲・・・?!
とにかくガーラン様が普通じゃないのは、よくわかりました。

私は誓ってガーラン様を裏切ってなどいません。ガーラン様は何か誤解をしているのです。

「う、あ・・・。」

だけど、声を出そうとしても口が動きまさんでした。口だけではなく、体全体が痺れているのです。

さっき、ミラノリが私に渡した紅茶を飲んでから体の調子がおかしくなっていました。

「言い訳すらしないのか?!」

違うです。聞いてください。ガーラン!私は貴方を裏切っていません。

そう伝えようとしましたが、できませんでした。ガーラン様には、私が真実がバレて黙りこくっていると思ったのでしょう。

ガーランは憎しみを込めた言葉を私にぶつけました。

「大人しくしているならば、愛人として僕が君を守ってあげるよ・・・どんなに惨めになろうと、王族を裏切ったラミナに行く場所なんてないんだろう?!」

なぜ、こんなにもガーラン様は私の裏切りを確信しているのでしょう。私にはわけがわかりませんでした。

その時、もうすでに私のお腹にはガーラン様との間に赤ちゃんがいました。

ガーランに駆け寄ろうとしましたが、体が動かきません。痺れた体は惨めに椅子から転げ落ちました。

「ガーラン様はずっとラミナを信じてくださっていたのにねぇ・・・私が現実を見せて教えて差し上げたの!!貴方がどんなに酷い女なのかってことをね!」

ミラノリの甲高い声が聞こえました。

「ラミナ・・・君が男に肌を触らせるところを見るまでは信じられなかったよ・・・!!ずっと君を信じていたのに!!」

それは・・・ガーラン様の酷い誤解です。
確かに、私が男の人にお腹を触ってもらう場面はありました。ですがそれは、妊娠の経過をお医者さんに検診してもらっていただけです。

いつもは女のお医者さんなのに、一日だけ男のお医者さんが検診している日がありました。

ガーラン様は、その場面を見て私の浮気現場を目撃したと思いこんでいるのです。もしかしたら、急にあの日だけ男のお医者さんが来たこと自体、ミラノリの策略だったのかもしれません。

「だいじょうぶです。ガーラン様。こんな醜い女のことなんて忘れてしまいましょう?わたくしが支えて差し上げます。」

ミラノリがガーラン様の手に触れ、にやりと笑いました。

確かにあの日の、お医者は少し嫌な感じがしたので、私は途中で逃げ出しました。あの場面をガーラン様がミラノリと見ていたなら・・・ガーラン様が誤解するのもあり得る話です。

「僕はラミナを許せない・・・!だが、手放すこともできないんだよ・・・!」

そう叫んで、ガーラン様は私に背を向けました。

悲しさと悔しさで、涙がにじみます。ソルトナが憎い。あの女が、こんな馬鹿げた誤解を作り出したのだです。

私はガーラン様を、愛している。

その言葉すら言えず私は意識を失いました。

目が覚めると、私はステフィス国本宮殿から遠く離れた北の屋敷に閉じ込められていた。どんなにガーラン様と話がしたくても、それは叶いませんでした。

「ラミナ様をここから出すなとガーラン様に命じられております。」

北の屋敷の出入り口はガーランが派遣した兵によって厳重に守られていたのです。それから半年間、私は屋敷に閉じ込められていました。

噂によると、私は裏切りの罪で婚約者から愛人に降格し、ミラノリが代わりにガーラン様の婚約者になったそうです。

ガーラン様の父親の国王様は私に酷くお怒りなさっているらしく、私の一族は国を追放されたとアリアが教えてくれました。アリアは私の家のメイドの娘で、昔から仲良くしていました。

私が閉じ込められていると知った彼女は、私のお手伝いとして北の屋敷に来てくれたのです。

「赤ちゃん・・・。ガーラン様と私の子供・・・」

私が北の屋敷に閉じ込めてから、8ヶ月後。元気な赤ちゃんが生まれました。

名前は"ルカ"。ルカはガーランと同じ深緑の瞳を持っていて、彼によく似ていました。

「ルカくん!私と遊ぼ!」

アリアの娘であるレレアも、ルカの面倒を見てくれました。

4人の暮らしは平穏なものでしたが、その暮らしは長く続きませんでした。

ガーラン様の子供を産んだことを知ったミラノリが、私を消しにきたのです。

ちょうどその日は、アリアが屋敷にいませんでした。アリアは真実をガーラン様につたえると言って、ステフィス城に向かっていたのです。

ミラノリの部下が屋敷に火を放ち、炎で正面玄関が塞がれました。
裏口には、ミラノリの兵が構えています。

「ラミナさま!にげよう!」

まだ5歳のレレアは私の腕を引っ張っていました。このまま出ていけば、私とルカの命は無いでしょう。

私はレレアに赤ん坊のルカを渡しました。

「ルカを守って・・・お願い。ルカを・・レレア、お願いね。私が先に出るから、裏の扉からお外にでるの。ルカを守って逃げて。アリアに会うまで隠れているのよ。わかった?」

まだ小さな5歳の少女への頼み事には、重すぎることは私にはよくわかっています。

「わかった。」

ですが、レレアはルカを抱きしめて、大きく頷いてくれました。

「私はここよ!!!」

炎が燃え盛る屋敷の中で、私は兵士に向って叫びました。視界のはしで、ルカを抱きしめたレレアが秘密の扉から外に出たのが見えました。

「あの女を捕まえろ!!どこかに息子もいるはずだ!!」

秘密の扉を見つけたのは、つい昨日のことです。その扉を見つけたアリアは今、ガーラン様のところに向かっています。

「息子などいないわ!!貴方たちの目的は私でしょう!!」

私が兵を引き付けている間に、なんとかレレアがルカと共に逃げてくれますように。

炎の中で、私は祈っていました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

処理中です...