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27.人質
しおりを挟むゼルタの部下に誘拐された私は、両手を縄で縛られ、布で視界を奪われていた。優しくて心配性なルカ様・・・今頃部屋で混乱しているに違いない。
"大人しくしていれば、今すぐ命を奪うことはしない。黙ってゼルタ様がいらっしゃるのを待て"
護衛の男はそう言った。まさかあの男がゼルタの部下だったなんて・・。だからルカ様の行動が筒抜けだったんだ・・・。
ルカ様への好意に翻弄されて、裏切り者に気づかないなんて・・・。情けなくてしかたない。
一刻も早く逃げ出さなければ。
護衛の男は、私の目の布を外した。すると目の前には第一王子ゼルタが立っていた。
「ざまあないなぁ。"女騎士"ルネア。ハハハ!!こうも簡単に騙されるとは思わなかったなぁ!!これで、計画が進むぜ!!」
ゼルタの言葉に、私は唇を強く噛んだ。
騙されたのも、簡単にルカ様の側を離れたのも・・・私だ。
「何をする気ですか・・・?」
「お前はルカを呼び寄せるための人質だよ!どうやら、あいつはお前を気に入っているからなぁ・・・。
"大切な婚約者"を守る為なら、なんだってしてくれるだろうよ!!」
ゼルタはにやりと笑った。
ルカ様は・・・きっと、私のために危険を冒してしまうだろう。たとえその結果、命が脅かされたとしても。
「ルカ様は、私のために自分を犠牲にしません!!そんな馬鹿なことをするのをやめてください!!」
だからこそ、ゼルタを止めなければ。
「いいや。あいつは動くさ。甘っちょろくて、貧弱で情けない。女ひとり切り捨てられない、それがあいつだ!」
優しくて、おおらかで、"仮の婚約者"の私を大切にしてくれる。
私の大好きな人を馬鹿にするな・・・!
「ルカ様は・・・誰よりも強い人です!彼は自分がどう動くべきかわかっている!こんなことしたって無駄です!」
「それは、やってみてのお楽しみだろ?」
説得しようとするも、すでにゼルダは私に背を向けている。
「待ってください!!ルカ様は・・・私を愛していない!!私はルカ様を守るための偽の婚約者にすぎない!!」
そう叫んだ。なんとかゼルタを止めなければ。その一心だった。私の命を助けるために、ルカ様はきっとゼルタの要求に応じてしまう。それだけは・・・。
「ハハハ!!ハハハハハハ!!ますます情けないなあ!命が惜しいばかりに、女に婚約者になって欲しいと頼んだか!」
「・・・!」
「安心しろ。もしも、この作戦が失敗したら、お前の命が無くなるだけだ。女騎士ルネア・・・。お前がいなくなればどちらにせよルカはもう長くないんだよ・・・!」
そう言って、ゼルタはその場を去っていった。
なんとしてもルカ様が来てしまう前にここを逃げ出さなくては。私を見張る人間は4人。この場所からの出口は右奥。私のもつ武器は小型ナイフ一つ・・・。
大剣を持つ4人の敵と戦うにはあまりにも不利すぎる。
ーー時間がない・・・どうする?
◇◇◇
SIDE ルカ
「ルネア・・・?」
お風呂から出ると、ルネアがいなくなっていた。嫌な予感が胸をよぎる。だいじょうぶだ・・・ルネアは強い・・・そう思っていたのだが、テーブルの上に置かれたものを見て、頭が真っ白になった。
「これは・・・。」
テーブルの上にはあったのは、ルネアが肌身離さず持っている大剣と一枚の紙。その側にはラベンダー色の髪の毛が一房置かれていた。
"婚約者を助けたければ、誰にも知らせず地下倉庫まで来い"
紙にはそう書いてあった。震える手で、ルネアの髪をすくい上げる。
「ルネア・・・。」
まさかルネアが誘拐されるなんて思いもしなかった。危機にさらされるのは自分。いざとなれば自分がルネアのかわりになればいい。どこかでそう思っていたのだ・・・。
ーーー今、助けに行く・・・!
自分がどうなろうと、構わない。今はとにかくルネアを助けなければ。
なぜルネアが誘拐されたのか。
自分が今、どうするべきなのか。
考える余裕はなかった。
俺は何も持たずに、部屋を出て地下倉庫に向かおうとしたのだが、
「待ってください!」
聞き覚えのない声に呼び止められた。
振り返ると、全身を甲冑で包んだ騎士が一人立っている。顔は見えない。
誰だ・・・?
いや、今はそんなことどうでもいい。
「後にしてくれ。」
そう言って歩き出したのだが、騎士は俺の腕を掴み、
「落ち着いてください。ルカ様。ルネアなら、だいじょうぶです。」
そうささやいた。
この騎士は、何者だ?ルネアが誘拐されたことを知るのは、俺とルネアを連れ去った人間だけなはず・・・。
「お前は・・・何を知っている?」
騎士はゆっくりと頭の甲冑を脱いだ。
白髪に黒目の男。やはり、見覚えがない。
「私の娘、ルネアが敵に誘拐されてしまったことです。ルカ様。」
騎士は小さくお辞儀をする。
私の・・・娘?
「はじめまして。私はルネアの育ての父、デルと申します。ルネアがルカ様の婚約者になったと噂で聞き、いても立ってもいられず・・・パーティに紛れ込んでおりました。」
「信じられない・・・本当か?」
「はい。私の娘がいつもお世話になっております。ルネアならば、だいじょうぶです。参りましょう。ルカ様。」
俺を安心させるように騎士は微笑みを浮かべた。その表情は少しルネアを思わせたんだ。
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