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25.婚約破棄

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パーティ当日になった。私は真っ白いドレスに身を包み、花かざりをつけた。そんな私を見てルカ様が微笑む。

「美しいよ。ルネア。君みたいな婚約者と共にパーティに行けるなんて・・・本当に幸せだ。さあ、行こうか。」

「はい!」

ルカ様は優雅に私の手を取ると、ゆっくりと歩き始めた。気合と緊張で固くなっている私にルカ様は穏やかな口調で言う。

「そんなに緊張せずともだいじょうぶさ。今日はルネアを皆に紹介する日だ。きっと楽しい一日になる。」

「えっと・・・紹介・・・?初耳なのですが?」

「ルネアを緊張させてしまうと思って言っていなかった。」

ルカ様がいたずらっぽい顔で肩をすくめた。ルカ様の婚約者としての挨拶・・・?!所謂、貴族のお作法を一切習ってきていない私が・・・?

「驚きすぎだ。ルネアはただ笑っていたらいいから。」 

「笑顔・・・どんな笑顔をしたらいいですか?私、笑顔下手で・・・。」

「ルネアは真面目だなぁ。よく考えたら、今の格好をしたルネアが笑顔になったら、皆がルネアのことを好きになってしまうな・・・。よし、挨拶の時は、ルネアはしかめっ面をしていて。」

「しかめっ面・・・ですか?」

「ああ。それならできるか?」

「勿論、しかめっ面は得意ですから・・・。」

そう言うとルカ様は楽しそうに笑った。

   

  ◇◇◇

ステフィス国、本宮殿大広間。

「ルカ・ステフィス様、ルネア・マレー様のおな~り~~~!!」

パーティ会場に入ると、一斉に音楽隊が演奏をはじめる。

「えっと・・・あの・・・!」

「ほら。行くよ。ああ、ルネア。音楽隊の人にお礼はしなくていいんだよ。落ち着いて真っすぐ進めば音楽が止まるから・・・。」

「は、はい!」

恥ずかしさと驚きで、私は早足で城に駆け込んだ。ルカ様が偉ぶらないからか、時々忘れてしまうんだけど・・・彼はやっぱりこの国の第二王子。

この状況で平然としているルカ様とは、住む世界が違いすぎる。

「まあ、あの方が・・・。」

「元々孤児だって噂よ・・・。」

「どんな手を使ってルカ様に近づいたのかしら?」

パーティ会場に入ると、令嬢たちが私を見てこそこそと噂をしている。

「ルネア、だいじょうぶか?」

「全く気になりません。騎士団に入った当初から、令嬢には嫌味を言われ続けてましたから。」

心配そうな顔のルカ様に向かって胸を張る。

「そんな自信満々に・・・ルネアは強いな。」

ルカ様に手を引かれ、パーティ会場正面の壇上にたどり着いた。そこには、豪華な椅子が6つ。もしかしてあそこに座るの・・・?

「久しぶりだな。ルカ。生きていたなんて残念だ。」

振り返ると、そこには背の高い男性と、その婚約者らしき女性が立っていた。

「お久しぶりですね。兄上。兄上は相変わらず・・・俺のことがお嫌いなようで。」

この人が、第一王子ゼルタ・・・。
ルカ様の命を狙っている張本人・・・。

ゼルタはルカ様を睨みつけた。
その目には真っ黒いクマがある。

「ああ、だいっきらいだね。お前を見ていると虫唾が走るんだよ。」

「奇遇ですね。俺もですよ。」

ゼルタはつかつかと私に近づき顔を覗き込んだ。

なに・・・?

「綺麗な女だ・・・。愚弟の婚約者にしておくのは勿体ない・・・。僕の愛人にしてやってもいいぞ?」

絶対に、嫌です。
繋いだルカ様の手に力が入った。

「それはできかねます。私はルカ様の婚約者ですから。」

「女・・・。これは俺の慈悲だ・・・後悔してもしらんぞ?」

何か、企んでいる?だとしても、私の答えは決まっている。

「私はルカ様と離れることが耐えられないのです。申し訳ありません。」

「クックックッ。馬鹿な女よ。ルネア、とか言ったか。俺はお前の秘密を知っている。いつでもお前をこの城から追放出来るんだよ・・・!」

「秘密・・・何の話ですか?」

第一王子は何を知っているのだろう?

「ルネア・マレー。お前の育ての親デルは、ステフィス国のスパイで・・・今も逃亡中なんだってな・・・?」

私は息を吸った。
確かに育ての親デルは5年前スパイの容疑をかけられ、姿を消している。騎士になって以来、デルとは一度も会えていない。

「・・・どこでそれを?」

カタカタと手が震える。

「お前の元旦那が言いふらしていたんだよ・・・。スパイの娘がいくら愛人の子供とはいえ、婚約者になるなんて許されることではない。分かるよなぁ?」

「・・・。」

「俺は今日、父やこの国の重役たちにこの事実を伝え、お前たちの婚約破棄を要求する!"この国の為"にな・・・!」

ゼルタは両手を広げ、会場に響き渡る大声で叫んだ。

「聞け!!ルネア・マレーは罪人の子供だ!!王族にふさわしい人間ではない!!」

ざわめきが広がり、会場中の人間の視線が私に集まる。

どうしたらいい・・・私はここを、ルカ様のそばを離れるわけにはいかないのに。目を瞑った私の耳を、ルカ様がそっと塞いだ。

「ルカ様・・・!」

目を開くとルカ様は優しく微笑んでいる。

「部屋に帰ろう?」

ルカ様の言葉に耳を疑う。

「・・・そんなことできません・・よ?」

今日は年に一度の建国パーティ。第二王子のルカ様が出席しないわけには・・・。

「いいんだ。ほら、行こう?」

そう言って、ルカ様は私の手を引き歩き出す。

「だめです!ルカ様は、第二王子なのですから・・・!」

その場を逃げ出す私とルカ様を見て、ゼルタか満足気に笑っている。

「王子の前に、俺はルネアの婚約者だから。大切な人が傷ついているのに、そのままにしておくわけにはいかないだろ。」

大切な人・・・。

ルカ様、私は本当は貴方のそばにいられるはずの人間ではないのに。

育ての親がスパイかもしれないと知っても、貴方は私を"大切な人"と言ってくれるのですね。

ねぇ、ルカ様。
貴方の側を離れたくない。
婚約破棄なんて、したくありません。



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