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19.葛藤

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あの日から命を狙われる回数は一気に増えた。ルネアがいなければ、俺はとうの昔にあの世行きだろう。

本当にルネアを好きならば、彼女を手放すべきだ。頭のどこかでわかっている。だが、どうしてもルネアを手放せない。

ーー水でも飲んで落ち着こう。

そっと体を起こしキッチンに向かおうとした。

すると、

「ご無事ですか、ルカ様!」

物音に気がついたのだろう。ルネアが目を覚まし、剣に手を添えた。
 
「すまない。起こしてしまったな。水を取りに行こうとしたんだ。」

ルネアは剣から手を離し、恥ずかしそうに微笑んだ。

「そうですか。それではキッチンまでお供します。」

水を持って、ベットルームに帰ってくると、ルネアが小さく頭を下げた。

「驚かせてすみません。物音に敏感で・・・特に今は警戒状態でしたので・・・。」

「気にするな。ルネアはそうやっていつも俺を守ってくれているんだから。」

つい6日前も、俺が寝ている間にルネアが刺客を撃退していたことがあった。あのとき一歩間違えばルネアを失っていたのだ。

小さい頃から危険と隣り合わせだったせいか、自分が死ぬことは恐ろしいと思わない。

「なあ、ルネア。手を繋いでもいいか?」

ルネアはにっこりと笑った。

「良いですよ。」

きっとルネアは俺が自分の死を恐れていると思っているのだろう。俺にとって今、一番恐ろしいことは君を失うことだ。



  ◇◇◇


次の日の朝。

「おはよう。ルネア。シャッキーの衣服店にドレスを取りに行こう。」

朝食を食べたあと、ルネアに伝える。

「わかりました!今日はいよいよ国王様への挨拶なんですね。どうしましょう・・・。私なんかが国王様に認めてもらえるでしょうか・・・。」

思い詰めた表情で俯くルネア。

「だいじょうぶだ。父は厳しい人じゃない。昔から父に何かを否定されたことはなかった。ルネアのような強くて美しい人と婚約すると知ったら、きっと喜ぶよ。」 

父は昔から、俺の行動に制限をすることは無かった。愛してくれていたが、同時に俺に怯えているように感じていた。

「優しいお父様なんですね。」

ルネアの表情は少し明るくなる。

「ああ。何も心配いらないさ。」

支度を整え、いつものように手を繋ぎ部屋をでる。

俺がルネアと一緒にいても城の人間がジロジロと見てくることは無くなった。皆、俺とルネアの噂を知っているらしい。

「ドレス、楽しみです。」

ルネアの声は少し弾んでいる。

「そうなのか?」

「ええ。ルカ様に作っていただいたドレスですから!」

「俺も楽しみだよ。今だってこんなに可愛いルネアがドレスを着ると、まるで天使みたいに可愛いからな。」

俺の言葉にルネアは真っ赤になって俯いた。かわいすぎる。

城下町を進み、シャッキーとアリアのお店にたどり着いた。

「おはよう。シャッキー。ドレスを取りにきたぞ。」

「いらっしゃい!ルカ。ルネアさん!ちょうど昨日出来上がったとこさ!」

お店にはシャッキーが一人でアリアの姿は無かった。

「アリアはまだ腰が痛いのか?」

だいじょうぶだろうか・・・

最近は、忙しくて数ヶ月に一回顔を見せる程度になっていた。3ヶ月前に会ったときは元気だったんだが・・・。

「それがねぇ、アリアが突然いなくなってしまったんだよ。」

「なんだって?」

シャッキーは腕を組んで溜息をついた。

「"しばらく家を留守にする"と書かれた置き手紙が残っていたからだいじょうぶだと思うんだけど・・・心配だよ。もう年だし、怪我もしたしねぇ。」

昔からアリアは突然、家を留守にすることがあった。どこに行っていたのか尋ねるとアリアは決まって言った。「探しものをしていたの」

「・・・アリアは何を探してるんだろう?」

「私も心当たりが無いんだ。本当に大事なものみたいだけどねぇ。」

シャッキーとアリアは共に45歳。25歳の時に出会い一緒にお店を始めたと言っていた。

「心配ですね・・・。」

そう呟いたルネアに、シャッキーはにっこりと笑った。

「だいじょうぶさ。ルネアさん。よくあることなんだ。きっとそのうちひょっこり帰ってくるよ。さ!ドレスの裾直しをしよう!」

誰よりも俺を可愛がってくれたアリア。明るい人だったが、時々寂しい顔でぼんやりしていることがあった。

何か力になれるといいんだが・・・。
ぼんやりと考え事をしていると

「お待たせしました。」

試着室からルネアが出てきた。ドレスは来ていない。

「もうドレスを脱いでしまったのか?」

ルネアがドレス姿をみれると思っていたから残念だ。

「本番のお楽しみだよ。とびきり可愛いから、ルカもびっくりするだろうさ。」

「本当に楽しみだよ。アリアがもどったら教えてくれ。」

「勿論さ。ルネアさんのこともアリアに早く伝えたいしね。」

ドレスが入った袋を預かり、ルネアの手を取る。

「シャッキーさん。可愛らしいドレスをありがとうございます!」

「どういたしまして。私もルカの婚約者さんのドレスを作れるなんて嬉しいよ。また来ておくれ!」

ルネアはペコリと頭を下げる。



「みんな、喜んでくれますね・・・。」

お店を出ると、ルネアが呟いた。
偽物の婚約者であることに対して、ルネアは罪悪感を持っている。

「気にすることはないさ。」

なあ、ルネア。
君は俺のことをどう思ってるんだい?

婚約者(仮)の契約が終わってもそばにいてほしいんだ。

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