上 下
15 / 38

15.誤解

しおりを挟む
私に抱きつくルカ様を見たトンプソンは、頭を押さえてうつむいた。

「あの・・・。俺は、お邪魔でしょうから、退散します。ルネア、幸せになれよ。」

「あ、ありがとう!あの!ルカ様・・・!」

どうやらトンプソンを驚かせてしまったようだが、私はそれどころじゃない。

恥ずかしさと、ルカ様に抱きしめられた驚きでどうしたらいいかわからないのだ。

酷く動揺している私を見て、ルカ様が慌てて私を離した。

「ごめんな。つい、ルネアの言葉が嬉しくてさ。」

この場で唯一、私達の婚約が偽だと知っているクアイ様も驚いた顔をしている。

「おいおい。ルカ。いつの間にそんな情熱家になったんだ?すっかりルネアに虜じゃ無いか。」

違いますよ!クアイ様!これが偽の婚約だって知ってるでしょう?!

「なあ、ルカ。久しぶりだし、お酒でも飲まないか?」

と、クアイ様が提案する。

「良いですね!二人の馴れ初めをもっと詳しく聞きたいですし!」

アンも乗り気だ。

どうしましょう。あまり詳しく聞かれてはアンに嘘がバレてしまうのでは・・・

だが、ルカ様は上機嫌で頷いた。

「いいぞ。この間ちょうど梅でお酒を作ったところだったんだ。ルネアも、明日の父上への挨拶で緊張してるからな。」

ルカ様の言葉で明日の謁見についてまた思い出してしまった。

「確かに・・・お酒を飲んだら気が楽かもしれませんね。」

私はお酒を飲んでもあまり変わらない。戦闘に影響しない程度に留めておけば、問題ないだろう。


  ◇◇◇

ダイニングルームから場所を移し、リビングルームでお酒を飲むことになった。そのため私は急いでルカ様のベットの前のソファーを移動させていた。

ちょうど今アンが厨房にお酒を取りに行っている。変に勘ぐられる前に無事移動できたと思ったのだが・・・

「なんで、ソファーの上に枕と布団が乗ってるんだ?」

リビングルームに入ってきたクアイ様に気付かれてしまった。ルカ様はまだキッチンにいるらしく姿は無い。

「あの・・・警備の為です。」

上手い言い訳が思いつかず、私は事実を言ってしまう。案の定、クアイ様は顔をしかめた。

「ルネアはいつも、ソファーの上で寝てるのか?」

なんと答えるべきだろうか。クアイ様は私とルカ様が偽の婚約者である事を知っている。正直に話していいかもしれない。

「そうです。ルカ様を守る為にこのソファーで眠っています。」

クアイ様は申し訳なさそうに言う。

「すまないな。婚約者のふりだなんて、大変な事だらけだろう。」

「いいえ。ルカ様を守る日々はとても幸せですよ。」

クアイ様に安心してもらえるよう笑顔で答えた。

「そうか・・・」

クアイ様は少し黙った後、私の目をまっすぐに見て尋ねた。

「ルネアは・・・ルカのことが好きなのか?俺は事情を知っているから、嘘をつかず正直に答えてくれ。」

私は俯いて、両手をぎゅっと握りしめた。ルカ様をどう思っているのかなんて、考えたってしかたないのに。

「好きなわけないじゃないですか。」

そう小さい声で答えた。

「そうか・・・踏み込んだ事を聞いて悪かったな。ルカもあの様子だし、少し気になってしまってな。」

確かにルカ様は私を婚約者(仮)として大切にしてくれている。だけど、それ以上でもそれ以下でもない。

クアイ様に小さく頭を下げて、ルカ様がいるキッチンに戻ろうとしたのだが・・・

「ルネア。苦しくなったら、偽の婚約者なんてやめていいからな。」

クアイ様は穏やかな口調で私に言った。

「え・・・?」

「騎士だからとか、ルカが王子だからとか気にしなくていいんだ。ルネアがルカの婚約者でいるのが苦しくなったら、俺がルカに伝えるよ。」

どうしてそんなことを言うのだろう?私ではルカ様の婚約者(仮)として力不足だということなのだろうか。

鼓動が早まる。唾を飲み込んで真意を聞き返そうとしたとき、

「何を話してるんですか?お酒を調達してきました!ね、飲もう!ルネア!」

お酒を抱えたアンが部屋に帰ってきた。
アンの前で話を続けるわけにはいかない。

「クアイと二人きりで変なことをされなかったか?」

おつまみを手に持ったルカ様が私の隣に座る。

「おいおい。嫉妬深い男は嫌われるぞ。ルカの婚約者に俺が何かするわけないだろう。」

クアイ様はルカ様の肩を抱いて、私にウィングをした。 

もしかしたらクアイ様は、私のルカ様への気持ちに気がついているのかもしれない。

ルカ様の事を好きになってしまっては、騎士としての役目を果たせない。ルカ様への好意を制御できなくなったら、婚約者(仮)をやめろ。

きっとクアイ様が言いたかったのは、そういうことだ。

「何を話していたんだ?」

まだ気になる様子のルカ様。

「騎士としての心構えを、クアイ様にご指導頂いたのですよ。」

口を尖らせたルカ様に伝えた。

「騎士としての心構え?クアイが?」

「そうです。」

私は深く頷いた。

アンに婚約を認めてもらえそうなのは安心だ。だけど、クアイ様のいうとおり、ルカ様への接し方はもう少し気をつけるべきなのかもしれないな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ
恋愛
わたくし、ルキア・レイング伯爵令嬢は、政略結婚により、ドーウッド伯爵家の次男であるミゲル・ドーウッドと結婚いたしました。 ミゲルは次男ですから、ドーウッド家を継げないため、レイング家の婿養子となり、レイング家の伯爵の爵位を継ぐ事になったのです。 女性でも爵位を継げる国ではありましたが、そうしなかったのは、わたくしは泣き虫で、声も小さく、何か言われるたびに、怯えてビクビクしていましたから。 結婚式の日の晩、寝室に向かうと、わたくしはミゲルから「本当は君の様な女性とは結婚したくなかった。爵位の為だ。君の事なんて愛してもいないし、これから、愛せるわけがない」と言われてしまいます。 何もかも嫌になった、わたくしは、死を選んだのですが…。 「はあ? なんで、私が死なないといけないの!? 悪いのはあっちじゃないの!」 死んだはずのルキアの身体に事故で亡くなった、私、スズの魂が入り込んでしまった。 今のところ、爵位はミゲルにはなく、父のままである。 この男に渡すくらいなら、私が女伯爵になるわ! 性格が変わった私に、ミゲルは態度を変えてきたけど、絶対に離婚! 当たり前でしょ。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観です。 ※ざまぁは過度ではありません。 ※話が気に入らない場合は閉じて下さいませ。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

処理中です...