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11.記憶
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店から出ると、綺麗な青空が広がっていた。
「晴れてよかったよ。そろそろお昼にしよう!サンドイッチを作ってきたんだ。」
ルカ様が肩にかけたカバンを持ち上げる。
「ルカ様が自分で作られたんですか?!いつの間に?!」
「今日は出かけようと思っていたからな。朝早く起きて作ったんだ。さあ、広場で一緒に食べよう!」
二人で公園のベンチに座り、ルカ様が作ってくれたサンドイッチをいただく。柔らかいパンに、ジューシーなパテ。そのあまりの美味しさに涙が出そうになった。
「美味しいです・・・!なぜ、ルカ様はこんなにも料理がお上手なのですか?」
王族の人間は、専属の料理人がいて食事を用意してくれるはずだ。だが城に来てから、ルカ様は常に自分で調理した料理を食べている。
「驚かないで聞いてほしいんだが、昔、城で料理人に出された食事に毒が入っていたことがあるんだ。」
ルカ様は小さく微笑みを浮べている。
「そんな・・・」
「それで死にかけて以来、他人が作ったものが喉を通らなくてな。毎日自分で料理を作っていたら、いつの間にか上達していたんだ。」
言葉を失った。
罪のないルカ様がなぜそんな酷い目にあわなくてはいけなかったのだろう。
「気にしないでくれ。そのおかげで、ルネアに俺の料理を美味しいと言ってもらえたんだ。」
穏やかな口調で、ルカ様は呟いた。辛い過去があったと微塵も感じさせない優しい瞳。
「ルカ様は・・・強いです。」
声が震える。
「ああ。泣かないでくれ。ルネア。君は優しい子だ。」
いけない。ルカ様を困らせてしまう。分かっているのに、涙が止まらない。
「絶対に、ルカ様をお守りします・・・!」
ルカ様は私の頭をそっと撫でた。
「俺は昔から人を信用できなかったんだ。だけどなんでだろうな。ルネアのことは最初から力を借りたいと思えたんだ。」
そう言ってくれたルカ様。
「ありがとう、ルネア。」
「こちらこそです。ルカ様。信じてくれてありがとうございます。」
ルカ様の信頼が何より嬉しかった。
◇◇◇
サンドイッチを食べた後、ルカ様と街を見て回る。
「他に何か行きたい場所はないか?」
街に出る機会は滅多にない。せっかくなら行きたい場所があった。
「骨董品の屋台に行きたいのですが、いいでしょうか?」
骨董品屋で聞きたいことがあるのだ。
「いいじゃないか。行こう!」
ルカ様と手を繋いで、骨董品屋が並ぶ屋台に向かう。
「何かお目当てはあるのか?」
私は首にかけたネックレスを外し、ルカ様に見せた。
「孤児になる前の私が身につけていたものなんです。」
これは5歳の私が森で倒れていたときに身につけていたもの。記憶のない私にとって唯一の過去への手がかり。
「ルネアへのプレゼントだったのかな。ルネアの瞳と同じ綺麗な青だ。」
ネックレスについた小さな宝石は確かに私の目の色と同じ。
「このネックレスを買った人が分かれば、いつか私の両親に辿り着けるんじゃないか、そんな希望を持ってずっと調べているのですが・・・全く手がかりが見つからず、最近はすっかり諦めていました。」
「なるほどな。俺も母の記憶が無いから、両親に会いたい気持ちはよく分かる。なんとか探し出せるといいんだが。俺もネックレスについて調べてみるよ。」
「ありがとうございます。でも、ルカ様の力を借りるつもりはないんです。もう17年も前のことですし・・・両親だって今更会いたくないかもしれません。」
「だが・・・愛していない子供にこんな綺麗なネックレスを渡すとは思えない。」
その後、ルカ様は何軒もの骨董品を尋ねて回ってくれたが、手がかりになる情報は何も手に入らなかった。
「友人に骨董品に詳しいものがいるんだ。今度、そいつに聞きに行ってみよう。」
私よりも熱心にネックレスについて調べてくれるルカ様。骨董品の店員に少し話を聞こうと思っていただけなのに、大事になってしまった。
「ルカ様のお気持ちだけで十分です。私の為に、わざわざ聞いてくださって・・・。本当に、もう良いのです。」
小さな宝石がついたシンプルなネックレス。綺麗だが、特徴はなく特別高価なわけでもない。手がかりがあるとは思えなかった。
ただ、私が希望を捨てられないだけ。
「ルネアの大切な過去だ。無駄足になったとしても、探す価値はあるだろう。」
あちこち探し回って、すっかり日が暮れてしまった。まだ探そうとするルカ様を必死で説得して帰路につくことになった。
「本当に、ありがとうございます。ルカ様。こんなに探してもらえるなんて、思いませんでした。」
ルカ様の優しさを甘く見積もっていた。
不用意に骨董品屋に行こうなんて、言うんじゃなかった・・・。まだ納得が行かない様子のルカ様の手を引く。
ずっと後ろを着いてきてくれた護衛の二人はお疲れの様子だ。
「ルネアには助けてもらってばかりだからな。なんとか見つけてあげたいんだ。」
「そんなことないです!むしろ、私こそ助けてもらってばかりですよ。お昼はごちそう様でした。本当に美味しかったです。」
あのサンドイッチの美味しさはきっとずっと忘れない。
「良かった。ルネアは本当に美味しそうに食べてくれるから、俺も嬉しくなるよ。これまでは自分の身を守る為に作っていただけだったから。」
夕日がルカ様の美しい横顔を照らす。
「ん?」
ルカ様の横顔をぽーっと見ているのを気づかれてしまった。私は焦って俯いた。
「いえっ。」
城の正門を通ると
「不思議だな。ルネアと手を繋いでいると、城が全く違う場所に思える。」
ぽつりと、ルカ様がつぶやく。
ルカ様は、ずっとこの場所で命に危機に晒され続けて来たのだ。それが、どれほど大変なことだったか私には分からない。
一ヶ月後のルカ様の誕生日。そこで何が起こるかわからないけれど、ルカ様に平穏な日々が訪れますように。
私は強く願っていた。
◇◇◇
「晴れてよかったよ。そろそろお昼にしよう!サンドイッチを作ってきたんだ。」
ルカ様が肩にかけたカバンを持ち上げる。
「ルカ様が自分で作られたんですか?!いつの間に?!」
「今日は出かけようと思っていたからな。朝早く起きて作ったんだ。さあ、広場で一緒に食べよう!」
二人で公園のベンチに座り、ルカ様が作ってくれたサンドイッチをいただく。柔らかいパンに、ジューシーなパテ。そのあまりの美味しさに涙が出そうになった。
「美味しいです・・・!なぜ、ルカ様はこんなにも料理がお上手なのですか?」
王族の人間は、専属の料理人がいて食事を用意してくれるはずだ。だが城に来てから、ルカ様は常に自分で調理した料理を食べている。
「驚かないで聞いてほしいんだが、昔、城で料理人に出された食事に毒が入っていたことがあるんだ。」
ルカ様は小さく微笑みを浮べている。
「そんな・・・」
「それで死にかけて以来、他人が作ったものが喉を通らなくてな。毎日自分で料理を作っていたら、いつの間にか上達していたんだ。」
言葉を失った。
罪のないルカ様がなぜそんな酷い目にあわなくてはいけなかったのだろう。
「気にしないでくれ。そのおかげで、ルネアに俺の料理を美味しいと言ってもらえたんだ。」
穏やかな口調で、ルカ様は呟いた。辛い過去があったと微塵も感じさせない優しい瞳。
「ルカ様は・・・強いです。」
声が震える。
「ああ。泣かないでくれ。ルネア。君は優しい子だ。」
いけない。ルカ様を困らせてしまう。分かっているのに、涙が止まらない。
「絶対に、ルカ様をお守りします・・・!」
ルカ様は私の頭をそっと撫でた。
「俺は昔から人を信用できなかったんだ。だけどなんでだろうな。ルネアのことは最初から力を借りたいと思えたんだ。」
そう言ってくれたルカ様。
「ありがとう、ルネア。」
「こちらこそです。ルカ様。信じてくれてありがとうございます。」
ルカ様の信頼が何より嬉しかった。
◇◇◇
サンドイッチを食べた後、ルカ様と街を見て回る。
「他に何か行きたい場所はないか?」
街に出る機会は滅多にない。せっかくなら行きたい場所があった。
「骨董品の屋台に行きたいのですが、いいでしょうか?」
骨董品屋で聞きたいことがあるのだ。
「いいじゃないか。行こう!」
ルカ様と手を繋いで、骨董品屋が並ぶ屋台に向かう。
「何かお目当てはあるのか?」
私は首にかけたネックレスを外し、ルカ様に見せた。
「孤児になる前の私が身につけていたものなんです。」
これは5歳の私が森で倒れていたときに身につけていたもの。記憶のない私にとって唯一の過去への手がかり。
「ルネアへのプレゼントだったのかな。ルネアの瞳と同じ綺麗な青だ。」
ネックレスについた小さな宝石は確かに私の目の色と同じ。
「このネックレスを買った人が分かれば、いつか私の両親に辿り着けるんじゃないか、そんな希望を持ってずっと調べているのですが・・・全く手がかりが見つからず、最近はすっかり諦めていました。」
「なるほどな。俺も母の記憶が無いから、両親に会いたい気持ちはよく分かる。なんとか探し出せるといいんだが。俺もネックレスについて調べてみるよ。」
「ありがとうございます。でも、ルカ様の力を借りるつもりはないんです。もう17年も前のことですし・・・両親だって今更会いたくないかもしれません。」
「だが・・・愛していない子供にこんな綺麗なネックレスを渡すとは思えない。」
その後、ルカ様は何軒もの骨董品を尋ねて回ってくれたが、手がかりになる情報は何も手に入らなかった。
「友人に骨董品に詳しいものがいるんだ。今度、そいつに聞きに行ってみよう。」
私よりも熱心にネックレスについて調べてくれるルカ様。骨董品の店員に少し話を聞こうと思っていただけなのに、大事になってしまった。
「ルカ様のお気持ちだけで十分です。私の為に、わざわざ聞いてくださって・・・。本当に、もう良いのです。」
小さな宝石がついたシンプルなネックレス。綺麗だが、特徴はなく特別高価なわけでもない。手がかりがあるとは思えなかった。
ただ、私が希望を捨てられないだけ。
「ルネアの大切な過去だ。無駄足になったとしても、探す価値はあるだろう。」
あちこち探し回って、すっかり日が暮れてしまった。まだ探そうとするルカ様を必死で説得して帰路につくことになった。
「本当に、ありがとうございます。ルカ様。こんなに探してもらえるなんて、思いませんでした。」
ルカ様の優しさを甘く見積もっていた。
不用意に骨董品屋に行こうなんて、言うんじゃなかった・・・。まだ納得が行かない様子のルカ様の手を引く。
ずっと後ろを着いてきてくれた護衛の二人はお疲れの様子だ。
「ルネアには助けてもらってばかりだからな。なんとか見つけてあげたいんだ。」
「そんなことないです!むしろ、私こそ助けてもらってばかりですよ。お昼はごちそう様でした。本当に美味しかったです。」
あのサンドイッチの美味しさはきっとずっと忘れない。
「良かった。ルネアは本当に美味しそうに食べてくれるから、俺も嬉しくなるよ。これまでは自分の身を守る為に作っていただけだったから。」
夕日がルカ様の美しい横顔を照らす。
「ん?」
ルカ様の横顔をぽーっと見ているのを気づかれてしまった。私は焦って俯いた。
「いえっ。」
城の正門を通ると
「不思議だな。ルネアと手を繋いでいると、城が全く違う場所に思える。」
ぽつりと、ルカ様がつぶやく。
ルカ様は、ずっとこの場所で命に危機に晒され続けて来たのだ。それが、どれほど大変なことだったか私には分からない。
一ヶ月後のルカ様の誕生日。そこで何が起こるかわからないけれど、ルカ様に平穏な日々が訪れますように。
私は強く願っていた。
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