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8.接近

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期間限定の婚約者だということをアンに教えるわけにはいかない。どうしたら、納得してもらえるだろう。

私は慎重に言葉を選んだ。

「ルカ様は良い人よ?困ってる私を助けてくれたの。」

「そういうことを言ってるんじゃないの!そんなんだから、リーブスみたいなクソ野郎に引っかかるんでしょ!ルネアはルカ様を好きなの?!」

アンに詰め寄られて、言葉に詰まる。
私がリーブスと結婚するときに誰よりも心配してくれたのがアンだった。

「す、好きだよ?」

そう言うが、恥ずかしくて目が泳ぐ。

元々自分の気持ちを口にするタイプではない。リーブスにも、好きだと直接伝えたことはほとんど無かった。

「嘘よ!」

アンの言葉に身をすくめる。簡単に私の嘘を見破られてしまった。

ルカ様は王子様よ?好き、だなんて口にするだけで恐れ多いわ。

アンはやれやれと首をふると、ルカ様に向かって言い放った。

「ルネアがルカ様を好きだとわかるまで、私はルネアの婚約を認めませんからね!ルカ様がどんなに身分が高い方だろうと関係ありません!!」

「ア、アン!!ルカ様になんてこと言うの!」

私は恐る恐る、ルカ様を振り返る。
優しい方だけど、流石に怒っていらっしゃるんじゃ・・・。

「確かに、そのとおりだな。」

と、ルカ様が言う。

「気にしないでください!私が後でしっかりアンを説得しますから・・・!」

「ルネアの友達だ。彼女を心配させる婚約は良くないだろう?」

ルカ様はにっこりと笑って、私の手をとった。

「俺達はもっと愛を深める必要があるようだ。俺達の愛をアンさんにわかってもらおう。」

それからルカ様は後日アンを含めた3人で食事をすることを約束した。

アンに私達の仲の良さを伝え、婚約を認めてもらうつもりらしい。

なぜそこまで・・・?

医務室を出た私は、こっそりとルカ様に尋ねる。

「偽の婚約なんだし、アンに納得して貰わなくてもいいんじゃないですか?」

これは婚約(仮)。
むしろ愛情なんて無い方が良い。

「いいや。疑われない為に大事なことだ。それに、ちょっとワクワクしないか?」

と、ルカ様。

楽しいならいいんですが・・・。


  ◇◇◇


一度自室に戻ったルカ様は、ソファーに座り私と向き合った。国王への挨拶は、後日アンに認めてもらってからにするらしい。

「なぁ、ルネア。婚約者として、まず簡単に変えられることがあると思うんだ。」

ルカ様は私の両手をぎゅっと握った。この人は手をつなぐのがとにかく好きなのかな・・・?

「な、なんでも、わたしにできることなら!」

振り払うのは失礼だろうと大人しくしているけれど、本当はずっと恥ずかしい。

「俺のこと、ルカと"様"をつけずに呼んでほしい。」

恐ろしい提案だ。そんなことできるわけがない。

「できません!そもそも私は孤児でルカ様は王子様ですよ?!ルカ様と気軽に呼ぶことすらおこがましいんです!」

ルカ様は唇を尖らせた。

「好きじゃ無いからか?アンの言葉に戸惑うルネアを見て、少し落ち込んだんだが・・・。」

「いや、あれは嫌だったわけじゃ無くて、急に聞かれて戸惑ったと言いますか!そもそも私、そういう事上手く言えない人間でして!決して、こう、ルカ様を嫌いなわけではありませんよ・・・?」

なぜか落ち込むルカ様を必死で慰める。

「じゃあ俺のことルカと呼んでくれるか?」 

「はい!」

押し切られる形で頷いてしまう。

「よし!そしたら、敬語も無しな?もっと親しみを持って話しかけてくれ!」

「そ、そんな・・・!?」

「これは契約だろう?より婚約者らしく見える必要があるはずだ!」

たとえ契約だとしても、ルカ様を呼び捨てにするなんて、恐ろしすぎる。

「そうかもしれませんが・・・」

「俺の名前を呼んでみてくれ。」

「・・・無理です!!婚約者(仮)として全力を尽くします。でもルカ様を呼び捨てになんてできません!!」

どうしても呼び捨てをできる気がしない。

ルカ様は私を説得しようとしていたが、ついに諦めてくれた。

「そうか。無茶を言ってごめんな。ルネアと一気に距離を詰めたくてさ。これまでどおりで大丈夫だよ。ルネア。」

「ありがとうございます・・・。」

「ただし、もしも呼び捨てできると思ったら、いつでもいってな。俺はもっとルネアに近づきたいんだ。」

心が、ドクンと動いた。

「きっとずっと言えない、ですよ。ルカ様。」

私はあまりルカ様に近づきすぎたくない。
ルカ様のことを深く知ってしまったら、惹かれてしまう気がして怖いから。
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