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7.反対
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騎士団の東塔をでて、国王が住む本宮殿に向かう。
なんだか酷く緊張してきた。それに私は、いつもどおりの騎士団服のままだ。この服装のまま、国王に会っていいの・・・?
緊張で胸がいっぱいの私に対して、ルカ様はいつもどおりだ。楽しそうに繋いだ手を揺らしている。
「あの・・・ルカ様・・・。手を繫ぐのをやめませんか?」
王子と手を繋ぐ女騎士。
その姿はあまりにも目立つ。
しかも、ルカ様は私以外に二人護衛を連れているので、余計にわけが分からなくなっていた。
「どうして?皆に俺達の仲の良さを見せつけなきゃ。その方が父上に婚約を認めてもらやすいかもしれないだろ。」
本当に?王族たるもの秩序を持った行動をとか、言われる気がするんだけれども。
ステフィス国王の姿は遠くからちらりと見たことしかない。だが噂では真面目で厳しい人だと聞いたことがある。
「そうでしょうか・・・?」
私との偽の婚約によって、ルカ様の評判が落ちてほしくないんだけどな。
城内を歩き、本宮殿が近づく。
「それより、ルネア、前から言おうと思っていたんだけど・・・」
ルカが何か言いかけた時、何者かがルカに向かって矢を放つのが見えた。
「危ない!!」
私はルカ様の手を思い切り引く。
ヒュンッ
一本の矢が私の頬をかすめて、後ろの建物に刺さる。
ルカ様を狙ったのは誰・・・?
「ルカ様を頼みます!」
私は護衛の兵士に声をかけ、矢を打った人間を追いかける。だが先程見た場所にたどり着いた時、その姿は消えていた。
「ルネア!」
ルカ様が護衛を連れて、こちらに駆け寄ってくる。
「ルカ様、だいじょうぶですか?」
矢は真っ直ぐルカ様を狙っていた。やはり、彼は命を狙われているのだ。
「僕は、だいじょうぶだがルネアは綺麗な顔に傷が・・・。跡が残らなければ良いのだが・・・。」
心配そうに私の傷を覗き込むルカ様。
「だいじょうぶですよ。こんなのかすり傷です。それより、ルカ様が無事で良かった。」
にっこりと微笑んでみせる。
誰かを守りたくて騎士になった。誰かの為に命を張れることは幸せなことだ。
「医務室に行こう。」
「ほんとに平気ですよ?」
だがルカは治療が第一優先だと譲らなかった。こんな傷は体中にあるから、今更なのに。
「女の子なんだし、顔に傷が残ったら大変だろ!」
「はぁ・・・。」
その女らしさが欠片もないから、離縁されたわけで。もう、私は諦めているのだがルカ様はそうではないらしい。
「行くぞ!」
ルカ様に引っ張られて医務室に向かう。
心配してくれるのはありがたいけど、私はただの婚約者(仮)。いわば、ルカ様を守るための盾にすぎない。
「私なんかに、ありがとうございます。」
お礼を言うとルカ様は困った顔をした。
◇◇◇
東塔の隣にある医務室は昔からよくお世話になっている場所。同期の騎士の中でも、私は無茶をする方だったので、よく怪我をしてここに担ぎ込まれていた。
そのうちに医師の一人であるアンと親しくなり、今では友人として仲良くしている。
アンはルカ様と共に医務室に入ってきた私をみて、顔を顰めた。
「どういうこと?え、待って・・・リーブスに離縁されたんじゃ無かったの?なんで王子といるの?」
ルカ様がいるにも関わらず、アンはいつも通りの口調だ。
「えっと、これには事情があってね・・・。」
アンにはまだリーブスに離縁されたことを伝えてなかった。どこから説明したらいいのか・・・。
「そんなことより、怪我の治療をしてくれないか?ルネアが顔に傷を負ってしまったんだ。」
傷と言ってもじんわりと血がにじむ程度のかすり傷。
ルカ様に連れて来られなければ、わざわざ医務室に来なかっただろう。
「わかりましたけど・・・。事情は説明してもらうからね!」
アンに頬を治療して貰いながら、ルカ様は事実を少し変えたストーリーをアンに説明していた。婚約が(仮)だと言うことは、知られたくないからだ。
「ルネアがリーブスに離縁されて訓練場で泣いているところに、ちょうど出会ったんだ。そのあまりの美しさに、俺は一目惚れしてしまってな。家を追い出されて行く宛が無いというから、俺の部屋に来てもらったんだけど、すっかり意気投合してしまってね。ルネアと婚約の約束をしたんだ!」
ルカ様の命を守るための婚約(仮)という事実を隠すと、こんなにも嘘くさくなってしまうのか。
王子が私に一目惚れなんて、あり得ない。
アンは腕を組んで難しい顔をしている。やっぱり信じられないよね。
「ルカ様がルネアに一目惚れしたことは理解できました。」
へ?
「だけど、ルネアがルカ様との婚約を了承したのが納得できません!ねぇルネア。本当にルカ様が好きなの?好きじゃないのに、家が無いからって婚約を了承しちゃったんじゃないでしょうね?!」
アンは早口でまくし立てた。
「え、えーと?」
「家が無いなら、私の家に泊めてあげるから、好きじゃ無いのにルカ様と結婚しちゃだめ!!私はルネアの姉代わりとして、絶対に認めませんからね!!」
心配してくれるのはありがたいのだが、これはたった一ヶ月間の婚約者(仮)にすぎないわけで。
さて、どうしたらいいのか・・・?
なんだか酷く緊張してきた。それに私は、いつもどおりの騎士団服のままだ。この服装のまま、国王に会っていいの・・・?
緊張で胸がいっぱいの私に対して、ルカ様はいつもどおりだ。楽しそうに繋いだ手を揺らしている。
「あの・・・ルカ様・・・。手を繫ぐのをやめませんか?」
王子と手を繋ぐ女騎士。
その姿はあまりにも目立つ。
しかも、ルカ様は私以外に二人護衛を連れているので、余計にわけが分からなくなっていた。
「どうして?皆に俺達の仲の良さを見せつけなきゃ。その方が父上に婚約を認めてもらやすいかもしれないだろ。」
本当に?王族たるもの秩序を持った行動をとか、言われる気がするんだけれども。
ステフィス国王の姿は遠くからちらりと見たことしかない。だが噂では真面目で厳しい人だと聞いたことがある。
「そうでしょうか・・・?」
私との偽の婚約によって、ルカ様の評判が落ちてほしくないんだけどな。
城内を歩き、本宮殿が近づく。
「それより、ルネア、前から言おうと思っていたんだけど・・・」
ルカが何か言いかけた時、何者かがルカに向かって矢を放つのが見えた。
「危ない!!」
私はルカ様の手を思い切り引く。
ヒュンッ
一本の矢が私の頬をかすめて、後ろの建物に刺さる。
ルカ様を狙ったのは誰・・・?
「ルカ様を頼みます!」
私は護衛の兵士に声をかけ、矢を打った人間を追いかける。だが先程見た場所にたどり着いた時、その姿は消えていた。
「ルネア!」
ルカ様が護衛を連れて、こちらに駆け寄ってくる。
「ルカ様、だいじょうぶですか?」
矢は真っ直ぐルカ様を狙っていた。やはり、彼は命を狙われているのだ。
「僕は、だいじょうぶだがルネアは綺麗な顔に傷が・・・。跡が残らなければ良いのだが・・・。」
心配そうに私の傷を覗き込むルカ様。
「だいじょうぶですよ。こんなのかすり傷です。それより、ルカ様が無事で良かった。」
にっこりと微笑んでみせる。
誰かを守りたくて騎士になった。誰かの為に命を張れることは幸せなことだ。
「医務室に行こう。」
「ほんとに平気ですよ?」
だがルカは治療が第一優先だと譲らなかった。こんな傷は体中にあるから、今更なのに。
「女の子なんだし、顔に傷が残ったら大変だろ!」
「はぁ・・・。」
その女らしさが欠片もないから、離縁されたわけで。もう、私は諦めているのだがルカ様はそうではないらしい。
「行くぞ!」
ルカ様に引っ張られて医務室に向かう。
心配してくれるのはありがたいけど、私はただの婚約者(仮)。いわば、ルカ様を守るための盾にすぎない。
「私なんかに、ありがとうございます。」
お礼を言うとルカ様は困った顔をした。
◇◇◇
東塔の隣にある医務室は昔からよくお世話になっている場所。同期の騎士の中でも、私は無茶をする方だったので、よく怪我をしてここに担ぎ込まれていた。
そのうちに医師の一人であるアンと親しくなり、今では友人として仲良くしている。
アンはルカ様と共に医務室に入ってきた私をみて、顔を顰めた。
「どういうこと?え、待って・・・リーブスに離縁されたんじゃ無かったの?なんで王子といるの?」
ルカ様がいるにも関わらず、アンはいつも通りの口調だ。
「えっと、これには事情があってね・・・。」
アンにはまだリーブスに離縁されたことを伝えてなかった。どこから説明したらいいのか・・・。
「そんなことより、怪我の治療をしてくれないか?ルネアが顔に傷を負ってしまったんだ。」
傷と言ってもじんわりと血がにじむ程度のかすり傷。
ルカ様に連れて来られなければ、わざわざ医務室に来なかっただろう。
「わかりましたけど・・・。事情は説明してもらうからね!」
アンに頬を治療して貰いながら、ルカ様は事実を少し変えたストーリーをアンに説明していた。婚約が(仮)だと言うことは、知られたくないからだ。
「ルネアがリーブスに離縁されて訓練場で泣いているところに、ちょうど出会ったんだ。そのあまりの美しさに、俺は一目惚れしてしまってな。家を追い出されて行く宛が無いというから、俺の部屋に来てもらったんだけど、すっかり意気投合してしまってね。ルネアと婚約の約束をしたんだ!」
ルカ様の命を守るための婚約(仮)という事実を隠すと、こんなにも嘘くさくなってしまうのか。
王子が私に一目惚れなんて、あり得ない。
アンは腕を組んで難しい顔をしている。やっぱり信じられないよね。
「ルカ様がルネアに一目惚れしたことは理解できました。」
へ?
「だけど、ルネアがルカ様との婚約を了承したのが納得できません!ねぇルネア。本当にルカ様が好きなの?好きじゃないのに、家が無いからって婚約を了承しちゃったんじゃないでしょうね?!」
アンは早口でまくし立てた。
「え、えーと?」
「家が無いなら、私の家に泊めてあげるから、好きじゃ無いのにルカ様と結婚しちゃだめ!!私はルネアの姉代わりとして、絶対に認めませんからね!!」
心配してくれるのはありがたいのだが、これはたった一ヶ月間の婚約者(仮)にすぎないわけで。
さて、どうしたらいいのか・・・?
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