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4.偽の婚約者
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「事情を説明していただけますか。」
第二王子ルカ様は、椅子に腰掛けると楽しそうに笑った。
銀色の髪に深い緑色の目。
噂通り第二王子は整った顔立ちをしている。
第二王子ルカは幼少期からその賢さでよく知られている。ルカ様は10歳の頃には3カ国の言語を話せるようになり、15歳にはステフィス国の軍師として名を馳せるようになっていた。
(なぜ殿下は、私をここに連れてきたんだろう。)
私はようやく離してもらえた手をぎゅっと握りしめた。
『騎士として頼みたい』
その言葉は、傷ついた私の心にすっと入り込んできた。離縁され、普通の女として生きることを諦めた私に残されているのは、騎士としての職務だけだからだ。
ルカ様は真っ直ぐに私を見つめる。深緑の瞳の中に、私が写っているのがみえる。
(綺麗な目だわ。)
ルカ様に見つめられると、心臓に悪い。すべてを見透かされてしまうような気がする。
「なぁ、ルネア。」
ルカは胸に手を当てるとにっこり笑って言った。
「俺の婚約者になってくれないか?」
「えっと・・・?」
私は何を言われたのか理解できず、首をかしげる。
騎士として、守ってほしいと言われていたはずなんだけど。
「どういうことだよ?」
と、側にいたクアイが尋ねた。クアイ様はステフィス国公爵家の息子で身分が高く、騎士団の副隊長をしている。
騎士団に唯一の女騎士である私を気にかけてくれていたので、クアイ様のことはよく知っていた。
「ルネアも、クアイもそんな怖い顔をするな。」
ルカ様が椅子を引いてくれたが、私は呆然とその場にたったまま動けない。
「どう?ルネア。俺の婚約者になるつもりはない?」
「私は婚約なんて、二度としたくありません。」
自分で出そうとしていた声よりも、ずっと弱々しい声が出た。
(婚約も結婚も、もう二度とごめんだ。)
私は腰に差した剣をぎゅっと握りしめる。
どうせ皆、剣を手放せない私を認めてくれない。
"女らしく"
そう言って、いつか私の元から離れていってしまうのだから。
「ルネア。」
名前を呼ばれて、ハッとする。
(私ったら、王子になんていう口の聞き方を!)
「申し訳ありません!」
「いや。俺こそこんな時にごめん。驚かせたくて、つい言葉足らずになってしまった。」
ルカ様はそっと私の手を引き、椅子に座らせた。
「俺がルネアにお願いしたいことは、『婚約者のふりをして、俺を守って欲しい。』ってこと。」
「婚約者の、ふりですか?」
どういうことだろう。
「ああ。さっきもいったけど、ここ1ヶ月程、俺は命を狙われているんだよ。どうやらそれは、兄のゼルタとミラルノ王妃様の仕業らしいんだよね。」
軽い口調でいうが、一介の騎士に伝えていい内容とは思えない。
ゼルタはルカ様の腹違いの兄で、ステフィス国の第一王子。ミラルノ王妃は、国王カールソンの正妃様である。
「ほら、俺、愛人の子供だから、彼らはどうも俺が気に食わないらしくてね。俺もあいつらが嫌いだからいいんだけど。」
そう言いながら、ルカ様は腕を捲くった。そこには痛々しい傷跡が残っている。
ルカは国王カールソンの愛人の子供。ルカ様は第二王子の身分が得られるかも怪しかった。だが、ルカ様は幼少期からずば抜けて賢かったため、王が第二王子の身分を与えたのだと聞いたことがある。
「その傷は、、、?」
「この間、王族が集まる食事会の帰り道に刺客に襲われたんだ。幸運にも逃げ出せたから良かったけど、次は無理だろうね。」
ルカ様は傷をしまい、小さく笑う。笑うことで心の傷を誤魔化しているように見えた。
「王家が集まる食事会には、王族以外参加できない。それぞれの配偶者や、婚約者を除いてはね。」
ルカ様は楽しそうにウィンクをした。
「だから、殿下は私に婚約者のふりをしてほしいと仰っているんですね。」
ようやく合点がいった。
「そう。なぜだかわからないけど、剣を持って眠っているルネアなら、俺を守ってくれる気がしたんだ。」
ドクリ、と心臓が音をたてる。
これは危険なことだ。
頭では分かっている。それでも私は大きく頷いた。
「わかりました。殿下を守るため、婚約者のふりをしましょう。」
ルカ様の眼力に負けないよう、私もルカの目をまっすぐに見た。楽しそうだが、どこか寂しさを帯びるルカ様。
騎士としての私を、認めてくれた殿下を守りたい。
「ルネア。これは危険なことだ。本当にいいのかい?」
クアイ様が優しい口調で言ってくれたが、私の心は変わらなかった。
「お引き受けします。」
大きな決意を持ってそう答えたとき。
グルルルル
盛大に、私のお腹がなった。
「くくっ。お腹減ったよね。
もう遅いけど、今日はルネアとの婚約(仮)パーティだ。
俺が何か作るよ!」
◇◇◇
第二王子ルカ様は、椅子に腰掛けると楽しそうに笑った。
銀色の髪に深い緑色の目。
噂通り第二王子は整った顔立ちをしている。
第二王子ルカは幼少期からその賢さでよく知られている。ルカ様は10歳の頃には3カ国の言語を話せるようになり、15歳にはステフィス国の軍師として名を馳せるようになっていた。
(なぜ殿下は、私をここに連れてきたんだろう。)
私はようやく離してもらえた手をぎゅっと握りしめた。
『騎士として頼みたい』
その言葉は、傷ついた私の心にすっと入り込んできた。離縁され、普通の女として生きることを諦めた私に残されているのは、騎士としての職務だけだからだ。
ルカ様は真っ直ぐに私を見つめる。深緑の瞳の中に、私が写っているのがみえる。
(綺麗な目だわ。)
ルカ様に見つめられると、心臓に悪い。すべてを見透かされてしまうような気がする。
「なぁ、ルネア。」
ルカは胸に手を当てるとにっこり笑って言った。
「俺の婚約者になってくれないか?」
「えっと・・・?」
私は何を言われたのか理解できず、首をかしげる。
騎士として、守ってほしいと言われていたはずなんだけど。
「どういうことだよ?」
と、側にいたクアイが尋ねた。クアイ様はステフィス国公爵家の息子で身分が高く、騎士団の副隊長をしている。
騎士団に唯一の女騎士である私を気にかけてくれていたので、クアイ様のことはよく知っていた。
「ルネアも、クアイもそんな怖い顔をするな。」
ルカ様が椅子を引いてくれたが、私は呆然とその場にたったまま動けない。
「どう?ルネア。俺の婚約者になるつもりはない?」
「私は婚約なんて、二度としたくありません。」
自分で出そうとしていた声よりも、ずっと弱々しい声が出た。
(婚約も結婚も、もう二度とごめんだ。)
私は腰に差した剣をぎゅっと握りしめる。
どうせ皆、剣を手放せない私を認めてくれない。
"女らしく"
そう言って、いつか私の元から離れていってしまうのだから。
「ルネア。」
名前を呼ばれて、ハッとする。
(私ったら、王子になんていう口の聞き方を!)
「申し訳ありません!」
「いや。俺こそこんな時にごめん。驚かせたくて、つい言葉足らずになってしまった。」
ルカ様はそっと私の手を引き、椅子に座らせた。
「俺がルネアにお願いしたいことは、『婚約者のふりをして、俺を守って欲しい。』ってこと。」
「婚約者の、ふりですか?」
どういうことだろう。
「ああ。さっきもいったけど、ここ1ヶ月程、俺は命を狙われているんだよ。どうやらそれは、兄のゼルタとミラルノ王妃様の仕業らしいんだよね。」
軽い口調でいうが、一介の騎士に伝えていい内容とは思えない。
ゼルタはルカ様の腹違いの兄で、ステフィス国の第一王子。ミラルノ王妃は、国王カールソンの正妃様である。
「ほら、俺、愛人の子供だから、彼らはどうも俺が気に食わないらしくてね。俺もあいつらが嫌いだからいいんだけど。」
そう言いながら、ルカ様は腕を捲くった。そこには痛々しい傷跡が残っている。
ルカは国王カールソンの愛人の子供。ルカ様は第二王子の身分が得られるかも怪しかった。だが、ルカ様は幼少期からずば抜けて賢かったため、王が第二王子の身分を与えたのだと聞いたことがある。
「その傷は、、、?」
「この間、王族が集まる食事会の帰り道に刺客に襲われたんだ。幸運にも逃げ出せたから良かったけど、次は無理だろうね。」
ルカ様は傷をしまい、小さく笑う。笑うことで心の傷を誤魔化しているように見えた。
「王家が集まる食事会には、王族以外参加できない。それぞれの配偶者や、婚約者を除いてはね。」
ルカ様は楽しそうにウィンクをした。
「だから、殿下は私に婚約者のふりをしてほしいと仰っているんですね。」
ようやく合点がいった。
「そう。なぜだかわからないけど、剣を持って眠っているルネアなら、俺を守ってくれる気がしたんだ。」
ドクリ、と心臓が音をたてる。
これは危険なことだ。
頭では分かっている。それでも私は大きく頷いた。
「わかりました。殿下を守るため、婚約者のふりをしましょう。」
ルカ様の眼力に負けないよう、私もルカの目をまっすぐに見た。楽しそうだが、どこか寂しさを帯びるルカ様。
騎士としての私を、認めてくれた殿下を守りたい。
「ルネア。これは危険なことだ。本当にいいのかい?」
クアイ様が優しい口調で言ってくれたが、私の心は変わらなかった。
「お引き受けします。」
大きな決意を持ってそう答えたとき。
グルルルル
盛大に、私のお腹がなった。
「くくっ。お腹減ったよね。
もう遅いけど、今日はルネアとの婚約(仮)パーティだ。
俺が何か作るよ!」
◇◇◇
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