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剣聖と魔術師(sideトレミア)
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私は子供の頃からずっと、剣を手にすると、ざわっと全身の毛が逆立つような感覚を覚える。
そして自分が研ぎ澄まされて、周りのものがみんなゆっくりに見えてくるの。
全身を巡る血が熱くて、体が、羽根が生えたみたいに軽くなって、どこまでも行けそうで。
その感覚が好きだった。
7歳の頃に剣聖のギフトを持っていることが分かった時は、天職だと大喜びした。
嬉しくて、小さな頃から仲良しのユアンの所に走って行って、それを自慢した。
「すごいね。トレミア。良かったね」
ユアンは嬉しそうに笑って、私の頭を撫でて、「お祝いだ」って私の好きなお菓子をくれた。
ユアンは魔術師のギフトを持っていたから、
「剣聖と魔術師の俺たちが二人で組んで戦ったら、どんな魔獣にも負けないよな!」
「うん!」
と、よく言っては、二人で興奮して戦いごっこをしていた。
そして、15歳の頃、私は王国騎士の道へ。
16歳のユアンは私より先に王国魔術師の道へ進んでいた。
私が入った騎士団のレックス団長は、私と同じ剣聖のギフトを持つ人だった。
それまで負け知らずだった私なのに、レックス団長には全然勝てなかった。
それまでに積み重ねてきた実戦の経験が段違いだから、仕方ないのかもしれないけど、私は悔しかった。
だからがむしゃらに頑張った。レックス団長の技を目に焼き付けて、何度も摸擬戦に付き合ってもらった。
そして、16歳になったある日、とうとう団長の剣を弾き飛ばすことが出来た。即座に組み伏せられてしまったけど、私は嬉しかった。
それまで頑張ったことが報われた気がしたから。
実力が上がったからか、それまで一撃では倒せなかった魔獣も、一太刀で倒せるようになった。大きな実績を上げることが出来た。
だから私は嬉しくて、魔術師団にいるユアンに、小さな頃のように自慢しに行った。
でもユアンは、あの頃のように嬉しそうに笑ってくれなかった。
苦いものを飲んだような、苦しそうな顔をして、目を伏せて、
「良かったな」
ぽつり、と絞り出すように言って、すぐにどこかへ行ってしまった。
どうしたんだろう?とその時は思ったけど、
その日から、だんだんユアンは前みたいに明るく笑ってくれなくなった。
どうして?
と聞いても、何でもない、って言うばかりだった。
私は、怖くなった。
このまま、ユアンは私と話してくれなくなるんじゃ?私のこと嫌いになったの?
だから、口数の少なくなった、笑わなくなったユアンに、前と同じように話し掛け続けた。
ユアンが変わったなんてきっと気のせい。
きっと、たまたま機嫌が悪かっただけ。
いつか、また前みたいに明るく楽しそうに笑って、私のことを見てくれる。
私が前と同じように、ユアンのこと好きだよ、一緒にいれて嬉しいよ、って言い続けていれば、きっと繋がりが切れることはない。
そう思って、
どうしてユアンは私に笑ってくれなくなったのか、そのことは考えないことに決めた。
大丈夫。私が変わらなければ、きっとユアンもまた昔のように優しく笑ってくれるはず。
ユアンが機嫌が悪くても、冷たい態度をとっても、気にしないようにしよう。
そうだ、大好きなお菓子のことでも考えて、気付いてないことにしよう。
そして自分が研ぎ澄まされて、周りのものがみんなゆっくりに見えてくるの。
全身を巡る血が熱くて、体が、羽根が生えたみたいに軽くなって、どこまでも行けそうで。
その感覚が好きだった。
7歳の頃に剣聖のギフトを持っていることが分かった時は、天職だと大喜びした。
嬉しくて、小さな頃から仲良しのユアンの所に走って行って、それを自慢した。
「すごいね。トレミア。良かったね」
ユアンは嬉しそうに笑って、私の頭を撫でて、「お祝いだ」って私の好きなお菓子をくれた。
ユアンは魔術師のギフトを持っていたから、
「剣聖と魔術師の俺たちが二人で組んで戦ったら、どんな魔獣にも負けないよな!」
「うん!」
と、よく言っては、二人で興奮して戦いごっこをしていた。
そして、15歳の頃、私は王国騎士の道へ。
16歳のユアンは私より先に王国魔術師の道へ進んでいた。
私が入った騎士団のレックス団長は、私と同じ剣聖のギフトを持つ人だった。
それまで負け知らずだった私なのに、レックス団長には全然勝てなかった。
それまでに積み重ねてきた実戦の経験が段違いだから、仕方ないのかもしれないけど、私は悔しかった。
だからがむしゃらに頑張った。レックス団長の技を目に焼き付けて、何度も摸擬戦に付き合ってもらった。
そして、16歳になったある日、とうとう団長の剣を弾き飛ばすことが出来た。即座に組み伏せられてしまったけど、私は嬉しかった。
それまで頑張ったことが報われた気がしたから。
実力が上がったからか、それまで一撃では倒せなかった魔獣も、一太刀で倒せるようになった。大きな実績を上げることが出来た。
だから私は嬉しくて、魔術師団にいるユアンに、小さな頃のように自慢しに行った。
でもユアンは、あの頃のように嬉しそうに笑ってくれなかった。
苦いものを飲んだような、苦しそうな顔をして、目を伏せて、
「良かったな」
ぽつり、と絞り出すように言って、すぐにどこかへ行ってしまった。
どうしたんだろう?とその時は思ったけど、
その日から、だんだんユアンは前みたいに明るく笑ってくれなくなった。
どうして?
と聞いても、何でもない、って言うばかりだった。
私は、怖くなった。
このまま、ユアンは私と話してくれなくなるんじゃ?私のこと嫌いになったの?
だから、口数の少なくなった、笑わなくなったユアンに、前と同じように話し掛け続けた。
ユアンが変わったなんてきっと気のせい。
きっと、たまたま機嫌が悪かっただけ。
いつか、また前みたいに明るく楽しそうに笑って、私のことを見てくれる。
私が前と同じように、ユアンのこと好きだよ、一緒にいれて嬉しいよ、って言い続けていれば、きっと繋がりが切れることはない。
そう思って、
どうしてユアンは私に笑ってくれなくなったのか、そのことは考えないことに決めた。
大丈夫。私が変わらなければ、きっとユアンもまた昔のように優しく笑ってくれるはず。
ユアンが機嫌が悪くても、冷たい態度をとっても、気にしないようにしよう。
そうだ、大好きなお菓子のことでも考えて、気付いてないことにしよう。
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