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第三章
第2節 船出
しおりを挟む浮遊島、それは文字通り浮いている島である。いつからあったかはわからない。マーリンが創った人工島という説もあるし、そもそもこの大陸自体が空にあり、なんらかの理由で海に降り大陸となった説もある。ウィテカー国の所有する浮遊島は現在3つある。
1つが、王家専用の避暑地であるキングアイランド。もう1つは、小さいが独自の生物が繁殖する研究島。そして、国民なら申請さえすれば誰でもいけるヘブン島である。ヘブン島などと名前は付いているが、大体の国民が浮遊島と呼んでいる。キングアイランドも研究島も行けないので国民にとっては浮遊島すなわちヘブン島なのであった。
だが、国民すべてが行けるわけでもない。それなりの旅費が必要になる上、物価も高い。そのため、学園生にとってはタダで浮遊島に行けるだけで幸せだ。
ヘブン島というだけあり、美しい自然と水源、一年中温暖な気候、美味しい食事、観光名所もたくさんある。正しく天国である。
「いいわねぇ~、私も浮遊島行きたいわ~。バカンス!長期休暇~!」
「俺たちゃその気になりゃいつでもいけんだろ…てかキングアイランドの方にしょっちゅう行ってるんだからよ…」
「んもー!だからあんたは脳筋なのよ!戦うことしか考えてないんだから!俺とバカンスしようぜくらい言えない訳ぇ?」
ドラックイーンとガーゴイルが言い合いをはじめるのを横目に、レオナルド王子に挨拶をすませた。
ロイスは親睦旅行の前に控え室によって旅立ちの挨拶をしていた。日程は1週間だ。この間は、浮遊島も学園専用になる。
嬉しいのは、ロイスが護衛として行くのではなく生徒として行けることだ。学園生を護るため、護衛はちゃんと雇われているそうだ。ロイスもつい浮かれて観光ガイドなんかを買ってしまったほどである。
そろそろ学園に戻らなくてはならない。出発の時間が迫っている。
「やっぱり僕も行く!ロイス一人で行かせるなんて心配だ!!」
「父さん、俺子供じゃないんだから…」
「父さんにとってはお前はずっと子供なの!!!ああ心配だ!お前が拐われたり、怪我したり、病気にならないか心配なんだよ!」
「…お土産買ってくるから、俺の代わりに王子の護衛よろしくね」
ロイスの父、ブレンダンは未だに駄々を捏ねている。ロイスが任務でなく旅行に行くなど初めてで心配しているらしいが、逆にロイスが拐われたり怪我をしたりするレベルの相手が出たら王国も普通に滅ぶんじゃないか?とガーゴイルとドラックイーンは思う。病気はあるかもしれないが、その辺りは医師が付いてくるので心配は要らないだろう。
じゃあね、とロイスはバッグを持って控え室から居なくなってしまった。ブレンダンが泣き出したが、超級魔法使い達は無視を決め込むことにした。
さて、いよいよロイスも学園についた。ロイスは、転移魔法陣で行くのかな?と考えていたが、実際は違う。
「おお~!大きいなぁ!」
船である。魔力を込めた石を動力として浮かぶ空中豪華客船だ。豪華、と付くだけあり煌びやかな内装で滅多にお目にかかれない。この船で一泊し、明日の昼には浮遊島に着く流れだ。転移魔法陣でなく、あえて船で行くというのが楽しいのだろう。実際、ロイスも初めての空中客船に、初めての任務以外の個人的な旅行だ。しかも、キルヒやフェリも一緒だ。楽しみじゃない訳はない。
あえてメタスター学科のローブを着て、完全に超級魔法使いとしてではなくいちメタスター学科の生徒として楽しむ気しかなかった。
「えーっと、二学年の船は…」
6つの船が浮かんでおり、学年ごとに違う船に乗るようだ。わかりやすいようにか、立たされているのかは不明だが、6学年の船の船頭にジュリアスが座っていた。リリィも、キルヒもそれぞれの学年の船に座らされている。つまり、ロイスが乗る船はキルヒの座る船な訳である。
ひょいと浮遊魔法で飛んだロイスは、船の船頭のキルヒのところに行くことにした。
「キールヒ!」
「あっ、ロイス!よかった。急な任務が入らなくて」
「うん。キルヒここで何してるの?船乗りにでもなる気?」
「違うよ!各学年のメタスター主席はこの船を学園の結界の外に転移させなきゃいけないんだ。なにせ大きいから、中々大変なんだ。船頭にいるのは学年がわかりやすいからだよ」
「へぇ。さすが学年主席は違うね。じゃ、俺部屋でのんびりしてるから!頑張って」
ええっ、手伝ってよ、という声が聞こえた気がしたが、ロイスは知らぬふりをした。本気で大変だったら考えなくもないが、ロイスがもしこの旅に参加できなくてもキルヒ一人でやるつもりだったのなら余計なお世話だ。のんびりしていればいいのだろう。
今回の旅にはもちろん、ジュニアも一緒だ。ジュニアも楽しみにしていたようで、自分で食料を用意していたくらいだ。そんなジュニアも、この船の寝床が必要だった。
船頭から、船の中腹である大きな広い甲板に移動する。ここが、ドラゴン達の竜舎代わりだ。どの生徒の竜も仔竜姿でゴロゴロしている。そんな彼らの世話をするのが、ドラゴニスタ学科の生徒である。
「ジュニア、良い子にしてるんだぞ」
「誰にものを言っている。我が良い子じゃなかったことなど無かろう!」
「昨日、連れて行ってくれなかったらこの国のドラゴンを全部竜の国に連れて行ってやる!ってゴネたのは誰だっけ?ん?」
「はて。知らんな?」
あははは、と楽しげに笑う声がした。ドラゴニスタ学科を仕切るフェリだ。アンジェラを腕に抱えている。
「あはは、ジュニアは今日も元気ね!ロイスも旅行に来れてよかったわね!」
「うん。今日は楽しみにしてたんだ。…ねぇ、島にいったら、一緒に観光しない?」
「………う、うん。いい、けど…キ、キルヒも一緒よね?」
「そうだよ。キルヒが一人じゃ寂しいだろ?」
若干フェリの顔が赤くなっている。デートに誘われたのかと思ったのだろう。どことなくホッとしたような顔でいいよ、とロイスに返事をした。
ロイスは別に二人きりでいってもよかったし、キルヒと一緒にでもよかった。フェリがキルヒの名前を出したので、キルヒも一緒にしようと思っただけだ。
これを近くで聞いていたカナンがちょっと呆れていたが、カナンは言うのも無粋だったので言わなかった。
「じゃあ、ジュニアをよろしく。俺は部屋に荷物置きに行くよ」
「うん、またね!あっこらジュニア!それはアンジェラの食事よ!!」
早速ジュニアは良い子にしていないようだが、ロイスも気にしていない。幼い頃躾をしてみたがいかんせん高貴な身分なので、効果がなかったからだ。それに、ジュニアは頭がいいのでこうして甘えているのも、分別があるからだ。なのでもうほっておくくらいが丁度いいのだ。
いい加減、荷物くらいは置きたいと、ロイスは自分に与えられた部屋に向かうことにした。キルヒと相部屋だ。学年主席の部屋は最上部の艦長室と決まっているそうだ。これは、船を動かす動力源である魔法石が艦長室にあるからだ。いざという時、魔法石に何かあると命に関わるので、護衛の意味もあるのである。とは言っても、普通の宿泊施設と何ら変わりはない。ベッドもあるし、ソファーや浴室もある。リビングに巨大な魔法石が浮いている様な感じだ。
「…こんなに大きな魔法石、誰が見つけたんだ?今もあるなら欲しいな」
ロイスはポツリと呟いた。ロイスの悩みの1つは、この膨大な魔力を無駄にしているところだ。定期的に魔法石に魔力を移しているとは言え、あっと言う間に小さな魔法石の容量分の魔力が移るので結局垂れ流し状態。それはいささか勿体無い。この大きさの魔法石があれば無駄にならないのにな、と思った。調べてみる価値は十分にありそうだった。
そんな風にしげしげと巨大な魔法石を眺めていたロイスの耳に、ノックの音が飛び込んできた。
殺気や敵意は感じない。魔力の感じから、大体の予想はついたが、ロイスは部屋の扉を開けた。
「はい…あれ、ミスターグリモワール?」
「失礼するよ。ロイス君がいてよかった!トラブルが発生してしまってね。すぐに1学年の船の船頭に行ってくれないかい?」
「どうしたんですか?」
「生徒数人が暴れだしてね。1学年にメタスターは船頭の主席だけなんだ。初めてだから船を転移するサポートに5学年のメタスターを付けてたんだけど、その5学年が生徒の喧嘩の仲裁に入ったんだ。だけどちょっと解決まで時間がかかりそうだから、ロイス君が船頭の主席のサポートをしてくれないかい?あと数分で出航時間だからね」
「わかりました。行きます。どの船か教えてください」
メタスター学科の生徒は少ない。全学年合わせても両手で数えられるほどだ。2学年同様、1学年のメタスターは1人らしい。いや、正確には2学年はメタスターはキルヒとロイスの2人であるが。
転移するためには、行ったことがある場所か目視できる場所つまり明確に座標を指定する必要がある。そのため、どの船か教えてもらわないと転移しても意味がないのである。
ミスターグリモワールは、隣の船に立つ黒髪のメタスター学科の生徒を窓から指さした。それを見たロイスが部屋にいないことに、ミスターグリモワールは驚かなかった。ミスターグリモワールのローブがモゾモゾと動いている。
こらこら、今はまだダメだよ、とローブのモゾモゾに声をかけたミスターグリモワールは、モゾモゾを見て笑った。モゾモゾはミスターグリモワールの声がけに大人しくなり、ローブは普段どおりになっている。ミスターグリモワールは穏やかに微笑みながら、艦長室を出て行った。
ミスターグリモワールのソレが一体何なのかも、今はまだダメと言う言葉も、何のことだかわかるものはいないだろう。
艦長室の窓からは少し遠い1学年の校舎のそばにある1学年の船が見えている。そこには、青いローブを着た生徒が2人見えていた。
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