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第二章
第6節 敵の正体
しおりを挟む「会合に顔を出さないから心配になって来てみれば…帝都の超級魔法使いに見つかってしまったようですね」
森の奥から人影が2人、現れた。気配が感じ取れなかった、とロイスは密かに驚いていたが、腕の力をさらに強め北の国の魔法使いを締め上げる。すでに、北の国の魔法使いは息をしていなかったため、ロイスは腕を下ろして地面に投げた。
いや、片手が塞がっていては新たな敵に対応できないと思ったからというのが正しい。ロイスには、敵2人が特級魔法使い、あるいは超級魔法使いであることを確信していた。隙が全くなかった。
「貴様!よくもガイアスを!!」
「よせ、マリウス。そう簡単に倒せる相手ではない…それに、ガイアスはあの御方の大義の為に死ねたのだ。幸せだろう」
「しかし、ヴェルフェゴール様!!」
「落ち着けよマリウス」
黒いローブをまとった男2人は、口論を始めた。苛立っているのは緑の髪を持つ体格のいい男の方で、マリウスと言うようだった。一方、紺色の髪をもつ細身だが隙のない眼をした男は、ヴェルフェゴールというようだった。どうやら侍従関係があるようだ。
しかし、このヴェルフェゴールという男、かなりの実力者だとロイスは見ている。また、マリウスという男も、殺気で人を殺せそうなほどだ。どちらも特級魔法使いかそれ以上で間違いないだろう。そうでなければロイスはすでに殺しにかかっていただろう。向こうも同じように、仕掛けては来ないようだ。
ロイスは聞き捨てならない話を聞いた。
「…あの御方だと?学園を襲った奴らの仲間か」
ロイスは北の国の魔法使いがあの御方と繋がっていると考えもしなかった。予想以上にあの御方は根を張っていると改めて感じた。
答えてはくれないだろうと思ったが、意外にも向こうは話をしてくれた。
「仲間、というよりは同志に近いかな。あの御方を尊敬する同志だよ」
「お前達は一体何者だ。あの御方とは誰のことだ」
「さて。私達は何者なのか。わからないなぁ。私達は私達の事を"真祖革命派"などと言っているがね。あの御方こそがこの世界を統べるに相応しいと思っているんだ。帝都の超級魔法使い、君もいつかきっとわかる。あの国王は偽物だとわかる日がきっと来るよ」
「…偽物…?」
「あの御方は我らの希望…我らの未来…またいつか会うこともあるだろう。ここは見逃してくれ、超級魔法使い」
「………」
柔和な微笑みを浮かべたヴェルフェゴールは、苛立っているマリウスを連れて消えてしまった。
ロイスも、追うことはなかった。ロード・ブルーローズに魔力をだいぶ使ったのもあり、正直やりあってもロイスの方が引いたはずだ。それほど、ヴェルフェゴール達は強いと感じていたのだ。
しかし、学園での戦闘でも特級魔法使いが多く戦闘に参加していた。本来、王国の魔法使いであれば特級魔法使いは”こちら”の人間のはずだ。1人ならともかく、数十人も集めるのは不可思議だ。それに、魔法使い自体の数も多すぎる。まるで国だ。国の軍隊に等しい。
ロイスはそんなことを考えながらも、答えは出ないな、と切り替えた。
「はー…」
珍しく、ロイスはため息をついた。今日あったことを城に報告するのがかったるいのである。絶対に騒ぎになるし、警護も厳しくしろと言われることだろう。またしばらく仕事が休めなくなりそうだと、遠い目になる。
ツンツン、とロイスは地面に横たわるガイアスをこ突く。ヴェルフェゴール達はガイアスが死んだと思った様だが、実際は首を絞められ気絶し仮死状態になっているだけで死んではいなかった。
ロイスは、ガイアスのフードを引っ張ると、ついでに形が残っている合成魔獣を掴んだ。
「あー…お腹空いた…」
そんなことを一言呟いたロイスは、持っているのもまとめて湖の小屋の前に転移した。
転移先には、ヘラとフェリ、キルヒしかいなかった。他の狩り隊はガイアスに殺されてしまったのだ。
フェリにはキルヒが付いて看病していたようで、もう意識も戻っていた。アンジェラもジュニアが治療を施したようで、動けないものの命には別状がない様だった。
転移してきたロイスにはじめに気がついたのはヘラだ。
「ロイス君!無事でよかった!」
「ヘラさんこそ、無事でなによりです。早く城に戻りましょう」
「…そうだな。王に報告せねばなるまい」
「ええ。…隊員を救出できず、申し訳ありません」
「仕方あるまい…礼を言うのは私の方だ。大事な自分の親衛隊員を失うところだったのだからな」
キルヒとフェリも、ロイスが帰ってきてどこかホッとした様子だった。
ロイスはちらりとフェリを見たが、近寄ってこなかった。フェリとしては助けてくれたお礼を言いたかったが、ロイスが真剣な、ともすれば不機嫌そうな表情をしていたので落ち着いたら改めて言おうと誓った。
むっすりとした表情で立っていたジュニアがロイスに声をかけた。
「主人、おかえりなのである。そして!我の番いが弱っている!我とアンジェラをドラックイーンのところに連れて行け!!」
「わかったわかった、すぐに帰るよ。めんどくさいからみんな纏めて転移させよう」
ロイスがそういった瞬間、一行は王城の竜舎の前にいた。ヘラはすぐに自分の乗ったドラゴンを竜舎に戻し、狩った魔獣も食糧庫に纏めて突っ込んでいく。
「キルヒ、ヘラさんといっしょに控え室にこれ持って先行ってて」
ロイスは持っていた気を失ったガイアスと合成魔獣をキルヒに押し付けた。
「えっ?いいけど…ロイスはどうするんだい?」
「ちょっとタバコ吸ってくる」
「………魔力補充タバコ?そっか。お疲れ様」
「…ブルーローズ使いすぎて眠たくて眠たくて…ブルーローズは便利だけど魔力の消費が激しいんだ」
魔力補充タバコは、非常に高級品だ。魔力補充タバコは個人の魔力の質に合わせ調整された魔法具の一種だ。中毒性もなく害もない。魔力の回復の程度はタバコの品質によるが、大体魔力の10~30%を回復させてくれる。ロイスの魔力補充タバコは、王国が用意してくれたものでロイスの魔力の質に100%合致しているため即効性もあり、現状から3割ほど回復させてくれる。
狩った魔獣の処理を終えたヘラは何かを言いたげに笑いをこらえている。ヘラは行くぞ!とキルヒに声をかけると、ガイアスと共に控え室に転移したようだった。
残されたフェリとドラゴン達を、ロイスはドラックイーンの元に転移させた。
ドラックイーンは、薬学に造詣が深いため回復魔法も心得ている。だが、人間にはあまり効果がなく特にドラゴンや魔獣の治癒が秀でている。ドラックイーンは、王国でただ1人のドラゴンヒーラーなのである。
ロイスは、ローブの内ポケットから一本の魔力補充タバコを取り出して、炎魔法で火をつけた。ゆっくりと煙が上がっていく。辺りは暗くなり始めており、タバコの先の煙がチロチロと光る。
「…眠すぎて、ねぇ…」
我ながらいい言い訳だ、とロイスは独りごちる。嘘だ。むしろ意識は冴え渡っている。
魔力量の多い者が魔力量を三分の一以下程度まで減らすと起きるのが、三大欲求である。食欲、睡眠欲、そして性欲である。男性の場合は大概が性欲であり、血の多い戦闘の後は特にひどい。種の生存本能とでも言おうか。
ロイスは戦闘の後、フェリの側には近寄らなかった。フェリはなんだか不思議そうにしていたが、あのまま近付けば押し倒していただろう。こんな感情ははじめてだった。王城に来て、先程から何人も女性が通っていくが、抱きたいとも思えなかったのに、である。
そうしてロイスは、はじめて自分の思いを自覚したのである。余計にタチが悪い。
「あー…キツい…」
その言葉は魔力量が少なくてつらいからか、タバコが不味いせいか、はたまたこの感情か。
ロイスは水魔法で火を消すと、吸い終わったタバコを燃やした。
やっと普段の半分程度まで魔力が回復したのを確認すると、あえて転移は使わずに控え室に向かうことにした。
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