上 下
14 / 31
第二章

第6節 敵の正体

しおりを挟む

「会合に顔を出さないから心配になって来てみれば…帝都の超級魔法使いに見つかってしまったようですね」

森の奥から人影が2人、現れた。気配が感じ取れなかった、とロイスは密かに驚いていたが、腕の力をさらに強め北の国の魔法使いを締め上げる。すでに、北の国の魔法使いは息をしていなかったため、ロイスは腕を下ろして地面に投げた。
いや、片手が塞がっていては新たな敵に対応できないと思ったからというのが正しい。ロイスには、敵2人が特級魔法使い、あるいは超級魔法使いであることを確信していた。隙が全くなかった。

「貴様!よくもガイアスを!!」
「よせ、マリウス。そう簡単に倒せる相手ではない…それに、ガイアスはあの御方の大義の為に死ねたのだ。幸せだろう」
「しかし、ヴェルフェゴール様!!」
「落ち着けよマリウス」

黒いローブをまとった男2人は、口論を始めた。苛立っているのは緑の髪を持つ体格のいい男の方で、マリウスと言うようだった。一方、紺色の髪をもつ細身だが隙のない眼をした男は、ヴェルフェゴールというようだった。どうやら侍従関係があるようだ。
しかし、このヴェルフェゴールという男、かなりの実力者だとロイスは見ている。また、マリウスという男も、殺気で人を殺せそうなほどだ。どちらも特級魔法使いかそれ以上で間違いないだろう。そうでなければロイスはすでに殺しにかかっていただろう。向こうも同じように、仕掛けては来ないようだ。
ロイスは聞き捨てならない話を聞いた。

「…あの御方だと?学園を襲った奴らの仲間か」

ロイスは北の国の魔法使いがあの御方と繋がっていると考えもしなかった。予想以上にあの御方は根を張っていると改めて感じた。
答えてはくれないだろうと思ったが、意外にも向こうは話をしてくれた。

「仲間、というよりは同志に近いかな。あの御方を尊敬する同志だよ」
「お前達は一体何者だ。あの御方とは誰のことだ」
「さて。私達は何者なのか。わからないなぁ。私達は私達の事を"真祖革命派"などと言っているがね。あの御方こそがこの世界を統べるに相応しいと思っているんだ。帝都の超級魔法使い、君もいつかきっとわかる。あの国王は偽物だとわかる日がきっと来るよ」
「…偽物…?」
「あの御方は我らの希望…我らの未来…またいつか会うこともあるだろう。ここは見逃してくれ、超級魔法使い」
「………」

柔和な微笑みを浮かべたヴェルフェゴールは、苛立っているマリウスを連れて消えてしまった。
ロイスも、追うことはなかった。ロード・ブルーローズに魔力をだいぶ使ったのもあり、正直やりあってもロイスの方が引いたはずだ。それほど、ヴェルフェゴール達は強いと感じていたのだ。
しかし、学園での戦闘でも特級魔法使いが多く戦闘に参加していた。本来、王国の魔法使いであれば特級魔法使いは”こちら”の人間のはずだ。1人ならともかく、数十人も集めるのは不可思議だ。それに、魔法使い自体の数も多すぎる。まるで国だ。国の軍隊に等しい。
ロイスはそんなことを考えながらも、答えは出ないな、と切り替えた。

「はー…」

珍しく、ロイスはため息をついた。今日あったことを城に報告するのがかったるいのである。絶対に騒ぎになるし、警護も厳しくしろと言われることだろう。またしばらく仕事が休めなくなりそうだと、遠い目になる。
ツンツン、とロイスは地面に横たわるガイアスをこ突く。ヴェルフェゴール達はガイアスが死んだと思った様だが、実際は首を絞められ気絶し仮死状態になっているだけで死んではいなかった。
ロイスは、ガイアスのフードを引っ張ると、ついでに形が残っている合成魔獣を掴んだ。

「あー…お腹空いた…」

そんなことを一言呟いたロイスは、持っているのもまとめて湖の小屋の前に転移した。
転移先には、ヘラとフェリ、キルヒしかいなかった。他の狩り隊はガイアスに殺されてしまったのだ。
フェリにはキルヒが付いて看病していたようで、もう意識も戻っていた。アンジェラもジュニアが治療を施したようで、動けないものの命には別状がない様だった。
転移してきたロイスにはじめに気がついたのはヘラだ。

「ロイス君!無事でよかった!」
「ヘラさんこそ、無事でなによりです。早く城に戻りましょう」
「…そうだな。王に報告せねばなるまい」
「ええ。…隊員を救出できず、申し訳ありません」
「仕方あるまい…礼を言うのは私の方だ。大事な自分の親衛隊員を失うところだったのだからな」

キルヒとフェリも、ロイスが帰ってきてどこかホッとした様子だった。
ロイスはちらりとフェリを見たが、近寄ってこなかった。フェリとしては助けてくれたお礼を言いたかったが、ロイスが真剣な、ともすれば不機嫌そうな表情をしていたので落ち着いたら改めて言おうと誓った。
むっすりとした表情で立っていたジュニアがロイスに声をかけた。

「主人、おかえりなのである。そして!我の番いが弱っている!我とアンジェラをドラックイーンのところに連れて行け!!」
「わかったわかった、すぐに帰るよ。めんどくさいからみんな纏めて転移させよう」

ロイスがそういった瞬間、一行は王城の竜舎の前にいた。ヘラはすぐに自分の乗ったドラゴンを竜舎に戻し、狩った魔獣も食糧庫に纏めて突っ込んでいく。

「キルヒ、ヘラさんといっしょに控え室にこれ持って先行ってて」

ロイスは持っていた気を失ったガイアスと合成魔獣をキルヒに押し付けた。

「えっ?いいけど…ロイスはどうするんだい?」
「ちょっとタバコ吸ってくる」
「………魔力補充タバコ?そっか。お疲れ様」
「…ブルーローズ使いすぎて眠たくて眠たくて…ブルーローズは便利だけど魔力の消費が激しいんだ」

魔力補充タバコは、非常に高級品だ。魔力補充タバコは個人の魔力の質に合わせ調整された魔法具の一種だ。中毒性もなく害もない。魔力の回復の程度はタバコの品質によるが、大体魔力の10~30%を回復させてくれる。ロイスの魔力補充タバコは、王国が用意してくれたものでロイスの魔力の質に100%合致しているため即効性もあり、現状から3割ほど回復させてくれる。
狩った魔獣の処理を終えたヘラは何かを言いたげに笑いをこらえている。ヘラは行くぞ!とキルヒに声をかけると、ガイアスと共に控え室に転移したようだった。
残されたフェリとドラゴン達を、ロイスはドラックイーンの元に転移させた。
ドラックイーンは、薬学に造詣が深いため回復魔法も心得ている。だが、人間にはあまり効果がなく特にドラゴンや魔獣の治癒が秀でている。ドラックイーンは、王国でただ1人のドラゴンヒーラーなのである。
ロイスは、ローブの内ポケットから一本の魔力補充タバコを取り出して、炎魔法で火をつけた。ゆっくりと煙が上がっていく。辺りは暗くなり始めており、タバコの先の煙がチロチロと光る。

「…眠すぎて、ねぇ…」

我ながらいい言い訳だ、とロイスは独りごちる。嘘だ。むしろ意識は冴え渡っている。
魔力量の多い者が魔力量を三分の一以下程度まで減らすと起きるのが、三大欲求である。食欲、睡眠欲、そして性欲である。男性の場合は大概が性欲であり、血の多い戦闘の後は特にひどい。種の生存本能とでも言おうか。
ロイスは戦闘の後、フェリの側には近寄らなかった。フェリはなんだか不思議そうにしていたが、あのまま近付けば押し倒していただろう。こんな感情ははじめてだった。王城に来て、先程から何人も女性が通っていくが、抱きたいとも思えなかったのに、である。
そうしてロイスは、はじめて自分の思いを自覚したのである。余計にタチが悪い。

「あー…キツい…」

その言葉は魔力量が少なくてつらいからか、タバコが不味いせいか、はたまたこの感情か。
ロイスは水魔法で火を消すと、吸い終わったタバコを燃やした。
やっと普段の半分程度まで魔力が回復したのを確認すると、あえて転移は使わずに控え室に向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

処理中です...