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番外編 みなりつ11(律side)
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*
とっつーと心くんが帰ってくると、高谷サンがとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、次は俺と心が出掛けてくるから、留守番よろしくね」
「「は⁉︎」」
ハモった俺たちに高谷サンはにこやかな笑みを浮かべ、心くんの腰に腕を回す。その仕草がちょっとエッチでドキドキしたけど、それよりも驚きの方が遥かに上回る。
「いや、ちょっと高谷サン⁉︎」
「一時間くらいで戻るから。さ、行こうか、心」
「ふぇ?で、でも、せっかく律さんが来てくれたのに……」
「良いから良いから」
「ちょ、おいっ!センセイ……っ」
引き止めようとするとっつーに、高谷サンは笑顔のまま、有無を言わせないような言い方で圧力を掛けた。
「ちゃんと話し合うんだよ」
それがついさっきの出来事。
俺ととっつーは今、家主のいない部屋のソファーに横並びで座っている。向かい合って座るのは昨日と今日の状況的に気まずいと思ったから、ソファーを選んだ。
(でも……)
「……」
「……」
(これも結構気まずい……)
ちらっと横を盗み見ると、とっつーは「何考えてんだあの人……」と呆れた様子で呟いていた。
(……俺から話しかけた方が良いよね)
ちゃんと謝らなきゃ。
俺は昨日、心くんや高谷サンを軽く見る発言をしたわけで。それは、二人と、そんな二人を信頼してるとっつーのことを侮辱したも同じだ。
「あ、あのっ、とっつー!ごめ──」
「言わなくて良い」
勢いよく横を向いて謝ろうとすると、とっつーが言葉でそれを制した。
「で、でもっ」
「そんなつもりでここに連れてきたわけじゃねえから」
「……?けど、俺の高谷サンに対する誤解を解こうとして連れてきたんでしょ?」
「それはそうだけど……お前に謝らせるために連れてきたんじゃねえし、どっちかっつうと謝るのは俺のほうだろ」
そう言って、とっつーは高谷サンとの関係を話し始めた。
迷ってた道を示してもらったこと。
受験勉強で散々お世話になったこと。
高谷サンにしてもらった様々なことを包み隠さず教えてくれた。
「えぇ⁉︎俺てっきり、よくここに勉強しに行ってたのは、心くん目当てだと思ってた!」
「ちげえよ。んな浮ついた気持ちで受かるほど甘くねえわ」
「そっか。そうだよね……。でも、マジびっくり……仕事から帰ってきても、せんせーやってくれるとか優しすぎじゃん……」
「……あぁ」
バツが悪そうに同意するとっつー。
俺はなんだか気が抜けて、ぽふっとソファに背を預けた。
「でもそっかぁ……だからなんだね」
「あ?」
「とっつーが心くんに告ろうとしなかったの。心くんも高谷サンも大事な人だから、二人の関係を壊したくなかったんだ」
「……よく分かんねぇ。それもあっただろうけど、そもそも望みがないって分かりきってたしな」
「……」
悲しいことをハッキリ言うとっつーに、どう言葉を返せば良いか分からず黙ってしまう。そうしているうちに、とっつーが再び口を開いた。
「けど、これだけは言える」
「?」
「俺が道を踏み外さなかったのはお前のおかげだって」
「え……?」
(道を踏み外す?)
確かに、見た目は怖いし口も悪いけど、とっつーは基本的には真面目で良い子だから、その言葉は似合わないと感じた。
(あ、でも、初めて会った時、俺を助けるために、人殴ってたっけ)
あれは結構殴り慣れてる感じだった。
(でもそれは……)
「よく知らないけどさ、とっつーがヤンチャしなくなったのって心くんのおかげなんでしょ?俺のおかげじゃなくない?」
ソファから背を離して、とっつーの顔を覗き込みながら純粋な疑問をぶつけると、とっつーは肯定とも否定とも取れない、微妙な表情を浮かべた。
「……元々俺は、誰かがいないと駄目なんだ。誰か一人でも俺のことを見てくれる奴がいねえと、不安で仕方なくなる。中学のときはそれで失敗して、人を殴って傷つけた」
「……」
「それを改められたのは、お前の言う通り望月のおかげだけど、それで孤独が埋まるわけじゃねえ。会えねえ間は理想を追ってりゃ良かったけど、再会してからの現実は……」
言葉に詰まったとっつーは、自嘲の笑みを浮かべ、話を再開した。
「好きなヤツは絶対に手に入らねえ。掻っ攫ってったヤツも嫌いになりきれねえ。けど、諦めることもできねえ。そんな地獄みたいな状況で自分保ってられるほど、俺は出来た人間じゃない」
「そ、そんな──」
そんなことない、と否定したかった。だけど、とっつーがあまりにも悲しい顔でそんなことを言うから、何も言えなかった。
俯く俺に、「だから、お前のおかげなんだ、律」ととっつーが言う。
「お前がいなかったら、耐えきれずに望月を傷付けてたかもしれねえ。お前がそばにいてくれたから、俺は俺の想いを汚さずに貫き通せた」
「け、けど、セフレなんか俺以外にいくらでも……」
「……体のこと言ってんじゃねえ。むしろ、セフレとやればやるほど、虚しさは大きくなっていった。けど、お前だけは違った」
「……え?」
とっさに顔を上げると、とっつーはさっきとは違って、優しい表情をしていた──まるで、俺のことを特別に思ってるみたいに。
「お前も他と同じはずなのに……会うとホッとしたんだ。孤独が薄れるような気がした。そんなのお前だけだった」
「……」
「だから、セフレんときも、ダチになってからもずっと、そばにいて、支えてくれてありがとう」
「……っ」
その言葉に胸がいっぱいになって、胸の前でぎゅっと拳を握る。
『俺たちさ、オトモダチになろっか』
あの日、俺は君の拠り所になりたくて、寂しさを埋めてあげたくて、オトモダチになった。
でも、本当にちゃんと君を支えられてるかなんてわからなくて、不安になったこともあった。俺の独りよがりなんじゃないかって。余計なことをしてしまったんじゃないかって。
でも、今、君が教えてくれた。何よりも嬉しい、答えを。
(ちゃんと……ちゃんと、出来てたんだ)
ちゃんと君の力になれてたんだ。
それだけで俺はもう、十分だ。
とっつーと心くんが帰ってくると、高谷サンがとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、次は俺と心が出掛けてくるから、留守番よろしくね」
「「は⁉︎」」
ハモった俺たちに高谷サンはにこやかな笑みを浮かべ、心くんの腰に腕を回す。その仕草がちょっとエッチでドキドキしたけど、それよりも驚きの方が遥かに上回る。
「いや、ちょっと高谷サン⁉︎」
「一時間くらいで戻るから。さ、行こうか、心」
「ふぇ?で、でも、せっかく律さんが来てくれたのに……」
「良いから良いから」
「ちょ、おいっ!センセイ……っ」
引き止めようとするとっつーに、高谷サンは笑顔のまま、有無を言わせないような言い方で圧力を掛けた。
「ちゃんと話し合うんだよ」
それがついさっきの出来事。
俺ととっつーは今、家主のいない部屋のソファーに横並びで座っている。向かい合って座るのは昨日と今日の状況的に気まずいと思ったから、ソファーを選んだ。
(でも……)
「……」
「……」
(これも結構気まずい……)
ちらっと横を盗み見ると、とっつーは「何考えてんだあの人……」と呆れた様子で呟いていた。
(……俺から話しかけた方が良いよね)
ちゃんと謝らなきゃ。
俺は昨日、心くんや高谷サンを軽く見る発言をしたわけで。それは、二人と、そんな二人を信頼してるとっつーのことを侮辱したも同じだ。
「あ、あのっ、とっつー!ごめ──」
「言わなくて良い」
勢いよく横を向いて謝ろうとすると、とっつーが言葉でそれを制した。
「で、でもっ」
「そんなつもりでここに連れてきたわけじゃねえから」
「……?けど、俺の高谷サンに対する誤解を解こうとして連れてきたんでしょ?」
「それはそうだけど……お前に謝らせるために連れてきたんじゃねえし、どっちかっつうと謝るのは俺のほうだろ」
そう言って、とっつーは高谷サンとの関係を話し始めた。
迷ってた道を示してもらったこと。
受験勉強で散々お世話になったこと。
高谷サンにしてもらった様々なことを包み隠さず教えてくれた。
「えぇ⁉︎俺てっきり、よくここに勉強しに行ってたのは、心くん目当てだと思ってた!」
「ちげえよ。んな浮ついた気持ちで受かるほど甘くねえわ」
「そっか。そうだよね……。でも、マジびっくり……仕事から帰ってきても、せんせーやってくれるとか優しすぎじゃん……」
「……あぁ」
バツが悪そうに同意するとっつー。
俺はなんだか気が抜けて、ぽふっとソファに背を預けた。
「でもそっかぁ……だからなんだね」
「あ?」
「とっつーが心くんに告ろうとしなかったの。心くんも高谷サンも大事な人だから、二人の関係を壊したくなかったんだ」
「……よく分かんねぇ。それもあっただろうけど、そもそも望みがないって分かりきってたしな」
「……」
悲しいことをハッキリ言うとっつーに、どう言葉を返せば良いか分からず黙ってしまう。そうしているうちに、とっつーが再び口を開いた。
「けど、これだけは言える」
「?」
「俺が道を踏み外さなかったのはお前のおかげだって」
「え……?」
(道を踏み外す?)
確かに、見た目は怖いし口も悪いけど、とっつーは基本的には真面目で良い子だから、その言葉は似合わないと感じた。
(あ、でも、初めて会った時、俺を助けるために、人殴ってたっけ)
あれは結構殴り慣れてる感じだった。
(でもそれは……)
「よく知らないけどさ、とっつーがヤンチャしなくなったのって心くんのおかげなんでしょ?俺のおかげじゃなくない?」
ソファから背を離して、とっつーの顔を覗き込みながら純粋な疑問をぶつけると、とっつーは肯定とも否定とも取れない、微妙な表情を浮かべた。
「……元々俺は、誰かがいないと駄目なんだ。誰か一人でも俺のことを見てくれる奴がいねえと、不安で仕方なくなる。中学のときはそれで失敗して、人を殴って傷つけた」
「……」
「それを改められたのは、お前の言う通り望月のおかげだけど、それで孤独が埋まるわけじゃねえ。会えねえ間は理想を追ってりゃ良かったけど、再会してからの現実は……」
言葉に詰まったとっつーは、自嘲の笑みを浮かべ、話を再開した。
「好きなヤツは絶対に手に入らねえ。掻っ攫ってったヤツも嫌いになりきれねえ。けど、諦めることもできねえ。そんな地獄みたいな状況で自分保ってられるほど、俺は出来た人間じゃない」
「そ、そんな──」
そんなことない、と否定したかった。だけど、とっつーがあまりにも悲しい顔でそんなことを言うから、何も言えなかった。
俯く俺に、「だから、お前のおかげなんだ、律」ととっつーが言う。
「お前がいなかったら、耐えきれずに望月を傷付けてたかもしれねえ。お前がそばにいてくれたから、俺は俺の想いを汚さずに貫き通せた」
「け、けど、セフレなんか俺以外にいくらでも……」
「……体のこと言ってんじゃねえ。むしろ、セフレとやればやるほど、虚しさは大きくなっていった。けど、お前だけは違った」
「……え?」
とっさに顔を上げると、とっつーはさっきとは違って、優しい表情をしていた──まるで、俺のことを特別に思ってるみたいに。
「お前も他と同じはずなのに……会うとホッとしたんだ。孤独が薄れるような気がした。そんなのお前だけだった」
「……」
「だから、セフレんときも、ダチになってからもずっと、そばにいて、支えてくれてありがとう」
「……っ」
その言葉に胸がいっぱいになって、胸の前でぎゅっと拳を握る。
『俺たちさ、オトモダチになろっか』
あの日、俺は君の拠り所になりたくて、寂しさを埋めてあげたくて、オトモダチになった。
でも、本当にちゃんと君を支えられてるかなんてわからなくて、不安になったこともあった。俺の独りよがりなんじゃないかって。余計なことをしてしまったんじゃないかって。
でも、今、君が教えてくれた。何よりも嬉しい、答えを。
(ちゃんと……ちゃんと、出来てたんだ)
ちゃんと君の力になれてたんだ。
それだけで俺はもう、十分だ。
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