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番外編 おともだち②
しおりを挟む(心配、か……)
センセイは俺が熱を出した日から、無駄に過保護になった気がする。
望月にちょっかいを出せば小言を言われるのは、前も今も変わらないけど、それ以外のときは妙に兄貴面というか、大事にされているというか……とにかく、むず痒くなるからやめて欲しい。
(まあ、俺があの人の前で泣いたのが悪いんだけど)
あの恥を晒しまくった日のことを思い出して羞恥に駆られていると、隣から「むぅ……」と意味の分からない唸り声が聞こえてきた。
普通なら可愛こぶってんじゃねえよと思うところだが、コイツはマジで素でやってるからタチが悪い。それを可愛いと思ってしまう俺も、相当キてる。
だいたい、こんなんでいちいち反応してたら、コイツ相手には身が持たない。
「はぁ……」
俺はかき立てられる庇護欲を、軽く深呼吸で落ち着かせた。それに気づいた望月が、コテンと首を傾げる。
「戸塚君?どうかした?」
「いや別に……つうか、お前こそなに?」
「ふぇ?」
「なんか唸ってただろ」
「え、あ、えっと、その……れ、連絡先のことで……」
「は?」
「り、律さんのは、消してないよね?……って、思って」
また、律。
俺は無意識にグッと拳を握った。
「……アイツともそういう関係だって、お前も知ってるだろ」
この感情はコイツには関係ないものだ。だから、不機嫌になりそうなのを堪えて、なるべく落ち着いたトーンで答える。
「う、うん、そうだけど……」
「けど、なんだよ」
「う」
言葉に詰まった望月は、次の言葉を探してる感じで、しばらくウンウン唸ってから、張り詰めた表情で、「……俺はね」と切り出した。
「好きじゃない人と……って、想像できないし、ぜったいに嫌だなって思った」
「……」
その言葉が、胸にチクッと刺さる。嫌だ。これ以上は聞きたくない。
けど、自分の意見を言うのが苦手なコイツが、必死で話そうとするのを邪魔する方がもっと嫌だから、俺は黙って続きを待った。
「それは今も変わらない。たぶん、これからも」
「……」
「でも……でもね、他の人のことは分からないんだけど……戸塚君と律さんを見てると、そういう関係が絶対に悪いとも思えなくなってきて……」
「……?」
俺が思ってたのとは違う流れになって、若干戸惑う。そんな俺とは裏腹に、望月の表情は、段々と柔らかくなっていった。
「だって、二人って本当に仲良しで、お互いを気遣ってる感じがするから。だから、素敵な関係だなって」
呆気にとられ、足を止めてしまう。
(そんなの……)
そんなの、そう見えただけだ。
俺はずっとアイツのことを利用してた。アイツを汚い感情のはけ口にして、ずっと身代わりにしてきたんだ。だから、間違っても、気遣ってるなんて言えるわけがない。
そんな俺の心情を知らず、立ち位置を正面に変えた望月は、後ろで手を組み、「ふふ」と続けた。
「それに、戸塚君、律さんのこと、好きでしょ?」
「……は?」
(なにを言ってるんだコイツ?)
「それはなに?お前がセンセイのこと想ってるのと同じだって言いてえの?」
見当違いも甚だしい。
流石にイラついて、少し声を荒げると、望月は「え?」と驚いた声を上げた。その声にハッとする。どうやら、俺の考えは早とちりだったみたいだ。
俺はバツが悪くて、ガシガシと頭をかいた。
「……悪い。早まった」
「う、ううん!俺こそ説明不足でごめんなさい!」
その声色から、あまり気にしてないのが伝わってきて、ホッとする。
「えっとね」
望月は、気を取り直してといった様子で、話を再開した。
「先生っていうより……戸塚君に対する気持ちに近いかも?」
「……俺に?」
「うん。ついつい頼っちゃう、お兄ちゃんみたいな存在で、大事な友だち」
「……」
「えへへ、戸塚君って、なんだか律さんに対しては年相応っていうか……雅斗さんへの態度とちょっと似てるよね」
珍しく悪戯に笑った顔に、不覚にもドキッとする。そんな自分の表情を見られる前に、ガッと望月の頭を片手で掴んだ。
「ふぇ⁉︎とっ、戸塚君⁉︎」」
「……生意気なんだよ、このアホ望月」
「ご、ごめんなさい⁉︎」
ムカつく。ムカつくムカつくムカつくムカつく。
(ムカつくけど……)
多分、図星だ。
(でも、だからって、どうしようもないだろ、そんなの)
だって、俺とアイツは、セフレなのだから。
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