270 / 329
43
しおりを挟む「は?」
戸塚君の声が低くなる。
「ご、ごめんねっ。今日、いたずら電話って言ってたけど、『兄ちゃん』って書いてるの見ちゃって……」
「……」
「あっ、言いたくなかったら、無理にとはっ」
「……それ聞いてどうするわけ?」
「ふぇ?え、えと、力に、なりたい」
「……は?」
「戸塚君のこと、もっと知って、そして何か少しでも力になりたいの」
俺を変えてくれたのは──変わらなくてもいいんだって思えるように変えてくれたのは先生だけれど、俺がそんな先生と向き合えたのは、戸塚君のおかげでもあるから。だから、そんな恩人である戸塚君の力になりたいって思う。
その気持ちが伝わったのかは分からないけれど、戸塚君はギュッと俺の身体を抱きしめる力を強め、ボソリと口を開いた。
「……嫌いっつうか、逆恨みだな」
「さか、うらみ?」
戸塚君の口から出てきた意外な言葉に、目を丸くしてしまう。
「家……前に、田舎だって言ったろ」
「……うん」
「俺はその小せえ町の医者の息子として生まれた」
(ああ、どうりで……)
この家の本棚を思い浮かべる。数々の参考書。その中には、医学部専用のものもあった。戸塚君は隠すように、その前に他の本を積み上げていたけれど。
「医者になるように育てられて、遊ぶことは数分だって許されねえ。毎日飯食う以外は全部勉強につぎ込んでも、テストで一点でも落とせば完璧な兄貴と比べられて、落ちこぼれだの、欠陥品だの、クソみてえな言葉を浴びせられた。特に母親にな」
「そんな……」
「兄貴は親父の前妻の子どもなんだよ。だから、実の息子が兄貴より劣ってるのが気に食わねえってわけ」
「……っ」
「さっきのアイツ見ただろ?息子の体調にも気づかねえで、自分のことしか考えねぇ。結局は自分のガキを道具としか扱ってねえんだ」
俺のとは違うけれど、俺みたく放棄はされていなかったけれど、だけど戸塚君も大人の身勝手さに振り回されてたんだ。いつだか戸塚君が口にした「大人は勝手」の言葉を思い出した。
あれは先生のことでも、俺のお父さんのことでもなく、戸塚君のご両親のことを言っていたのかもしれない。
「で、そんな居心地の悪い家でなんとか暮らしてこれたのは、兄貴がいたからなんだ。兄貴だけが俺を俺として見てくれた」
「え?それなら……」
(恨むようなことないんじゃ……)
「けど、大学進学で家を出たっきり、兄貴は戻ってこなくなった」
「……っ」
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ドS×ドM
桜月
BL
玩具をつかってドSがドMちゃんを攻めます。
バイブ・エネマグラ・ローター・アナルパール・尿道責め・放置プレイ・射精管理・拘束・目隠し・中出し・スパンキング・おもらし・失禁・コスプレ・S字結腸・フェラ・イマラチオなどです。
2人は両思いです。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
僕は肉便器 ~皮をめくってなかをさわって~ 【童貞新入社員はこうして開発されました】
ヤミイ
BL
新入社員として、とある企業に就職した僕。希望に胸を膨らませる僕だったが、あろうことか、教育係として目の前に現れたのは、1年前、野外で僕を襲い、官能の淵に引きずり込んだあの男だった。そして始まる、毎日のように夜のオフィスで淫獣に弄ばれる、僕の爛れた日々…。
聖域で狩られた教師 和彦の場合
零
BL
純朴な新任体育教師、和彦。
鍛えられた逞しく美しい肉体。
狩人はその身体を獲物に定める。
若く凛々しい教師の精神、肉体を襲う受難の数々。
精神的に、肉体的に、追い詰められていく体育教師。
まずは精神を、そして、筋肉に覆われた身体を、、、
若く爽やかな新米体育教師、杉山和彦が生徒に狩の獲物とされ、堕ちていくまで。
以前書いた作品のリライトになります。
男性向けに設定しましたが、個人的には、性別関係なしに読んでいただける方に読んでいただきたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる