256 / 329
29
しおりを挟む先生にどうやって謝ろうなんて考えながら、覚悟を決めてそのときを待っていたけど、一向に唇に何かが当たる気配はない。
(……?)
恐る恐る目を開けると、そこには呆れ果てた表情を浮かべる、見惚れるほど綺麗な顔があった。至近距離だけれど、これ以上は迫ってくるつもりはないみたい。
「……あ、れ?」
「なに目ぇ瞑ってんだアホウサギ。誰がマジでするっつった」
「……ふぇ?」
「あっちからそう見えてれば良いんだっつうの」
「あっち……?」
「あー、キスで丸め込もうとしてるー」
「もっちー騙されちゃ駄目だぞ!そいつはプレイボーイだ!」
「だからそれは誤解だってばー」
「あなたは黙っててください、この泥棒猫」
「うわきっつ!おにーさん泣いちゃうよ?」
「そんなの知らなしぃ。もっちーを悲しませる奴はもれなく全員敵だしぃ」
「へーえ、君たちお友だち思いなんだねぇ」
「当たり前じゃないですか」
「あは、即答。オドオドちゃん愛されてんなー。ところで、何でその子泡吹いて倒れてんの?」
「山田のことは気にしないでください。ただのショック死です」
角度的に、俺からみんなは見えないけれど、耳を澄ませて聞こえてきた会話に、戸塚君が何を思ってあんなことをしたのか予想がついた。
(でも、そんなのって……)
「これで『仲直り』ってことにしとけ」
「で、でも……」
「俺と付き合ってることにしとけば、センセイとのこと、バレるリスクが低くなんだろ」
(やっぱり)
戸塚君は、俺と先生のために、誤解されようとしている。
あのショッピンモールでの一件以来、戸塚君と律さんが恋人ではないことは分かったけれど、戸塚君に恋人がいないからと言って、利用して良いことにはならない。
「駄目だよっ。そんな利用するみたいなこと出来な──っ!」
おでこの違和感。柔らかい感触が、しっかりとおでこに刻まれる。……刻まれ、た。……刻まれた?
「俺が良いって言ってんだ。つべこべいうなアホ」
「と、とつ、とつかくんっ、い、いいいいまっ」
「あ?」
「しないって!しないって、いってたのにっ」
「してねえだろ。口には」
「⁉︎」
口には?口にはって……戸塚君にとって、口以外は挨拶的なものなのだろうか。
でも、俺にとっては、キスはキス。口にしようがおでこにしようがほっぺにしようが、全部全部キスなのだ。
(まさか戸塚君、外国人……?)
「はぁ……んなわけねえだろ。ほんとアホ望月」
「お、俺っ、声にっ⁉︎」
「たっく……これで我慢してやっただけありがたく思え」
「っ!」
今度はまぶたに唇を落とした戸塚君は、平然とした顔で俺の手をとって、手を繋いだまま、みんなの元へと向かっていったのだった。
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説
聖域で狩られた教師 和彦の場合
零
BL
純朴な新任体育教師、和彦。
鍛えられた逞しく美しい肉体。
狩人はその身体を獲物に定める。
若く凛々しい教師の精神、肉体を襲う受難の数々。
精神的に、肉体的に、追い詰められていく体育教師。
まずは精神を、そして、筋肉に覆われた身体を、、、
若く爽やかな新米体育教師、杉山和彦が生徒に狩の獲物とされ、堕ちていくまで。
以前書いた作品のリライトになります。
男性向けに設定しましたが、個人的には、性別関係なしに読んでいただける方に読んでいただきたいです。
淫行教師に全部奪われて恋人関係になっちゃう話
キルキ
BL
真面目な図書委員の男子生徒が、人気者のイケメン教師に身体を開発されて最後まで奪われちゃう話。
受けがちょろいです。
えろいシーン多め。ご注意ください。
以下、ご注意ください
喘ぎ/乳首責め/アナル責め/淫語/中出し/モロ語/前立腺責め
トラック野郎親父の雌堕
熊次郎
BL
大輝はレスリング経験者で今でも体がゴツい。父親の健吾は男らしくガタイのいいトラック野郎だ。仲のいい父親と2人で暮らしているうちに大輝は親父の白ブリーフの膨らんだ中身が気になり始める。思春期の経験があってはならない方向に導く、、、。
狂宴〜接待させられる美少年〜
はる
BL
アイドル級に可愛い18歳の美少年、空。ある日、空は何者かに拉致監禁され、ありとあらゆる"性接待"を強いられる事となる。
※めちゃくちゃ可愛い男の子がひたすらエロい目に合うお話です。8割エロです。予告なく性描写入ります。
※この辺のキーワードがお好きな方にオススメです
⇒「美少年受け」「エロエロ」「総受け」「複数」「調教」「監禁」「触手」「衆人環視」「羞恥」「視姦」「モブ攻め」「オークション」「快楽地獄」「男体盛り」etc
※痛い系の描写はありません(可哀想なので)
※ピーナッツバター、永遠の夏に出てくる空のパラレル話です。この話だけ別物と考えて下さい。
秘密のお注射
風雅ゆゆ
BL
元気にサッカーをしていたトモは、転んで怪我をしたので保健室へ向かう。
だがそこに待っていたのは顔はいいが柄の悪い男性保健医だった。
トモの生意気な態度が気に食わなかった保健医は、治療と称してトモの中に薬を塗りこみ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる