先生、おねがい。

17

　「へ、へぇ……そう、なんだ」

　お似合い。二人の姿を見ていると、まさにその通りだと、いやでも思い知らされる。
　カッコいい先生には、可愛らしい女の人がお似合いで。間違っても、こんなちゃらんぽらんな高校生が相手では、誰も納得してくれないような、本当に優しくて良い人で。

　「望月？」
　「……」
　「おーい」
　「……」
　「望月ってば！」
　「……っ！え、ど、どうしたのっ？」

　突然の大声にびっくりして、目を瞬かせると、山田君は心配そうな顔を浮かべていた。

　「望月ボーッとしてたからさ……はっ！まっ、まさか、も、望月──」

　ちょうどそのときだった。

　「あっ、望月くん！ごめんね、待たせちゃって！」

　俺たちに気づいた茅野先生が山田君の言葉を遮った。

　「あ、い、いえ……山田君、俺行ってくるね」
　「えっ、おっ、おうっ！」

　山田君に軽く微笑んで、茅野先生の方へ向かう。それとすれ違うように、茅野先生と短い挨拶を交わした先生が、俺の横を通り過ぎる。同時に香る甘い香りは、先生のものではない。いつも盗み見ている先生の顔を、今はなんだか見る気になれなかった。

　「じゃあ、教室入ろっか」
　「はい……失礼します……」

　ニコッと微笑んだ茅野先生が、ガラガラと教室のドアを開ける。促されるまま適当な席に着くと、茅野先生は机に資料の山を置いて、前の席の椅子に横向きで腰を下ろした。

　「望月心くん」
　「は、はい」
　「改めまして、茅野舞子です。よろしくね」
　「よろしくお願いします……」

　上手く顔が見れなくて、うつむきがちになってしまう。けれど、茅野先生は気分を害した様子もなく、優しげな笑いを漏らした。

　「ふふ。聞いてた通り、望月くんは恥ずかしがり屋なんだね」
　「え……？」
　「高谷先生から聞いたよ。一緒に住んでるんだってね」
　「は、はい……」
　「さっきも、望月くんのことよろしくねって言われてたの」

　（そっか……）

　元々先生方には伝えていたし、新しく赴任してきた茅野先生にも伝わっていても不思議じゃない。茅野先生は俺の担任なのだから、なおのこと当たり前だ。
　大丈夫。この人だけが例外なわけではない。