先生、おねがい。

あん

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 そんな俺たちの横で、同じクラスの二人が会話をし始める。

 「山田もめげないねー」
 「はぁ……てか、アホだからフラれたの忘れてんじゃない?」
 「フラれたっけ?いや、フラれるとは思うけど」
 「望月君に恋人いるって聞いたとき倒れてたでしょ」
 「あー」
 「ていうか、ひょっとして松野も相手男だって知ってた?」
 「え、栗原気づいてなかったの?」
 「いや、分かんないじゃん……あの赤髪が、なんて」
 「赤髪?」
 「え?あの祭りの不良でしょ?望月君の相手」
 「……」
 「松野?」
 「……へーえ、そうなんだー。それは知らなかったなー、へー」
 「松野君、栗原君……?」

 下校時間で周りが騒がしかったのもあって、声がよく聞こえなかった。首を傾げた俺に、栗原君は苦笑を漏らし、松野君はケラケラとした笑いを漏らす。

 「俺は新刊の発売日だから先帰るねー」
 「俺も帰る。弟たちの迎えあるし」
 「う、うんっ。また明日っ」

 二人を見送って、教室の掃除が終わる頃には、山田君はいつもの様子に戻っていた。掃除が終わるまで一緒に廊下で待ってくれていた山田君は、ニカッと眩しい顔で俺に笑いかける。

 「じゃー俺、クラス戻ってるな!」
 「うん、なるべく早く終わらせるね」
 「マジでゆっくりでいいって!大事な進路相談なんだし!まあ、俺は五分で終わったけど」

 ばつが悪そうに笑う山田君。

 (そう言えば、山田君はもう先生と面談したんだっけ……)

 「その……高谷先生と、どんなこと話したの?」
 「んーと、まだ進路決まってません!って言ったら、やりたいこと探しがてら勉強はしっかりやりなさい、って釘刺された!」
 「そっ、か」

 急かすでもない、甘やかすでもない。先生らしい対応。山田君の話を聞いたことで、なんだか急にこの後の面談に緊張してきて、俺はギュッとブレザーの裾を握る。

 「あ、噂をすれば高谷先生だ」
 「え?……っ!」

 山田君の視線を追えば、そこには、朝に着たスーツを身にまとう先生の姿が。そして、その横には……。

 「なーんかお似合いだよなぁ、あの二人」
 「え……」

 俺は思わず目を見開いて、山田君を凝視してしまう。山田君はそんな俺を不思議に思う訳でもなく、ただただ屈託のない笑顔を浮かべた。

 「うちのクラスでめっちゃ噂になってんだ。高谷先生と茅野先生は美男美女でお似合いだって」



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