先生、おねがい。

あん

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 「心……それは違う」

 「ふぇ?」


 真面目な声にビックリして、恐る恐る顔を上げる。すると、先生は俺を慰めるようにほっぺを撫でた。


 「生徒と教師なのは、ちゃんと割り切ってるよ」

 「ほんと?俺が年下なの、嫌じゃない?」

 「嫌なわけないだろ。俺は今の心が好きだし……それに、それを気にしてたら、指一本だって触れられない」


 先生が俺の手を握って、そこにキスを落とし、「良いこととは言えないのは重々承知だけど」と眉を寄せて笑った。


 「じゃあ……どうしてですか?」

 「んー……そういうのは除いたとしても、最後までするのは、心の身体に負担がかかるだろ?」

 「え……?」

 「あ、いや。もちろん心がアッチをやりたいって言うなら、要相談だけど……」


 ちょっと焦ったように言った先生に、慌てて首を振る。俺は最初から女の人の役をやると思ってた。先生にしてもらいたいなって。何故かは分からないけど、そういうものだと思ってたの。

 すると、先生は安心したように身体の力を抜いた。そして同時に俺もホッとした。


 (良かったぁ……)


 この年齢差が壁になっているんじゃなくて、本当に良かった。だってそれは、対処しようがないものだから。どんなに努力しても、年齢だけは絶対に変わらない。


 「受ける方は相当負担らしいから……俺も初めてのことだから、上手くできるか分からないし」


 そんな風に思ってくれてたなんて。


 (それなのに俺……)


 先生は俺の身体のことを思ってくれていたのに。

 途端に自分の考えてたことが恥ずかしくなった俺は、顔を隠すように俯いた。


 「ご、ごめんなさい……俺、はしたない……」


 えっちをしたがってる、いやらしい子だと思われたかも。そんな俺の心配は、先生がギュッと抱きしめてくれたから、杞憂に終わった。


 「俺の方こそごめんな。こんな話、心から言わせるなんて」


 フルフルと首を振る。違うって伝えるために。


 「先生……悪くない、です」

 「いや。大事にしたいって思いながら、ただ臆病になってただけかも。心を怖がらせて、嫌われるのが怖かったんだ……」


 ギュウッと身体を抱く腕の力が強まる。俺はそれに応えるかのように、先生の背中に手を回して、力を込めた。


 「先生……俺、何も分からないから、迷惑かけちゃうかもしれないけど……でも、絶対に負担だとは思わないです。だから……」


 (だから……だから……)


 その先は恥ずかしくて言えなくて。でも本当は言いたくて。


 「心……していい?」


 言えない俺の代わりに、先生が言ってくれた。


 「今日すぐには無理だけど、準備だけ」

 「準備、ですか……?」

 「うん。心に俺のを受け入れてもらえるように」


 (準備……)


 俺は先生の胸の中でコクリと頷き、そして上を見上げた。微笑む端整な顔だちに胸をきゅうんとさせながら、近づく唇を受け入れた。
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