先生、おねがい。

あん

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 ポカーンとする俺に、先生が可笑しそうな目を向ける。


 「納得いかない?」

 「あ、えと……天然は違うかなって……」


 そう言うと、先生は一層可楽しそうに笑った。


 「ははっ。ほんと、そういうところが可愛い」

 「っ!」


 いきなりの褒め言葉に胸がドキっと跳ねた。何がどうなって可愛いのか分からなかったけど、先生が楽しそうにしているのが嬉しくて、俺は頭にはてなマークを浮かべながらも、密かに喜んでいた。

 そんな俺を微笑ましそうに見た先生が、俺に正座をやめるように促して、俺は体育座りに戻った。先生は俺の脛に付いた砂を払ってくれながら、再び口を開く。


 「あと……さっきのあれも、びっくりしたけど嬉しかった」

 「あれ、ですか……?」

 「うん。心も嫉妬とかしてくれるんだなって」

 「しっ、と……?」


 (しっと……しっと……。……はっ!)


 その言葉を頭の中で反芻して、その意味を理解した瞬間、ボボっと顔が赤くなる。


 (も、もしかして、俺……ヤキモチ妬いてたってこと!?)


 「俺ばっかり妬いてたんじゃ、情けないからな」


 照れ臭そうに言ったその言葉に、俺はさらに目を見開いた。だってそれは、俺が思っていたものとは違ったから。


 「え、あのっ、その……先生って、ヤキモチ妬いてたんですか?」

 「え?」

 「お、俺はてっきり、怒っているものだと……」


 もし本当にヤキモチなら、俺は相当恥ずかしいことをしていたんじゃないだろうか。もちろん俺のやったことが許されるわけではないけれど、嫌われるって騒いだ自分が、馬鹿らしくて恨めしい。


 (もう……俺の早とちりっ……)


 両頬に手を当てて羞恥心にかられている俺の頭を、先生が撫でる。愛しむようなその動きにますます恥ずかしくなって、俺は頭からプシューと蒸気を出してしまいそうだった。


 「怒ってないよ。山田と抱き合ってたのだって、心はただ純粋に喜んでただけって分かってたんだ……けど、やっぱり好きな子が他の男にベタベタされてるのは、妬けた」

 「……ほ、本当にごめんなさい」


 顔を赤くしながらも、決まりが悪くて身体を縮こませると、先生は首を左右に振りながら微笑み、そして、優しく穏やかな瞳に俺を映した。


 「……でもさ、心に高校生活を楽しんでもらいたいってのも本当なんだ。友達と……山田や戸塚君といっぱい遊んで、楽しい思い出を作って欲しい。今まで出来なかったぶん、余計に」

 「せん、せい……」

 「俺はその手助けをしたいし、見守りたい。心が将来、今を思い出したとき、幸せな気持ちになれるような。そんな毎日を過ごして欲しい」

 「……っ」


 そんな風に思ってくれてたなんて。先生はいつも俺のことを考えてくれる。それが嬉しくて嬉しくて、胸がギュッと苦しくなった。痛む胸を手で押さえ、泣きそうなのを必死で堪える。そうしなければ今にも抱きついてしまいそうだった。


 「だから、ごめん。俺も反省した。もう、あんな態度は取らない」


 胸にあった手に、俺のより低い温度が触れた。それは手のひらを伝い、指を絡め合う。いつの間にか大人っぽいものに変わっていた表情。何度か見たこの顔は、今は俺だけのもの。


 「これからは、もし同じようなことがあったら、その倍以上に俺も構うから。心の恋人は俺なんだって、それだけは分かってもらえるように」

 「もっ、もう……充分に、分かってます……」


 俺は胸をドキドキさせながら、赤い顔を隠すように俯いた。恥ずかしいけれど、すごく幸せで。それが伝わるように、指の力をキュッと強める。

 伝わって。

 貴方のことが堪らなく好きだと、この張り裂けそうな胸が痛いくらいに叫んでいるって。


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