先生、おねがい。

あん

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 「あらら。健くん、行っちゃったね~」


 小さくなっていく山田君の背中を呆然と見つめていると、柔らかい声がした。それと同時に、パサっと何かを肩にかけられる。

 振り向くと、ラッシュガードを着た御坂さんが立っていた。


 「御坂さん……?これって……」

 「ふふ。脱衣所に置きっぱなしだったよ。心くんので合ってる?」


 肩にかけられた薄手の長袖パーカーは、確かに俺のものだ。


 「はい……ありがとうございます。すみません」


 (荷物の中じゃなかったんだ……ほんと、しっかりしなきゃ……)


 皆には俺の気分なんて関係ないのだから、普通に振る舞わなきゃ。そう思って、へにゃっと笑いかけると、御坂さんもふわりと笑い返してくれる。

 
 「心くんも泳ぎに行く?」

 「あ、えっと……」

 
 (俺、泳げるかな……)


 多分泳げないと思う。だって、泳いだ経験がない。小中高と水泳の授業はなかった。でも、海に来たくせに泳げないなんて言ったら、呆れられてしまうだろうか。

 モタモタして答えない俺に、御坂さんは咎めることなく微笑んだ。


 「もし泳ぐの後でも良いんだったら、荷物置いてから、ちょっと貝拾いしない?」

 「貝、ですか?」

 「うん。綺麗な貝、いっぱいあるよ~」


 (貝……探してみたい)


 コクコクと頷くと、御坂さんは嬉しそうに「じゃあ、決まりだね」と言って戸塚君の方を見た。


 「戸塚くんも行かない?」

 「いや、俺はいいっす。……望月、これ持ってって」

 「う、うん」


 戸塚君は俺に荷物と脱いだパーカーを預け、「アイツ締める……」と呟きながら、海の方へと歩いて行ってしまった。


 「行こっか」

 「はい」


 御坂さんについて行くと、Tシャツ姿でサングラスをかけた尾上さんが、パラソルの下のビーチチェアでくつろいでいた。その姿はとても大人っぽくて、すごく様になっている。
 

 「わぁ、もう立てたんだ」


 御坂さんの声に、尾上さんが上体を起こす。


 「ああ、御坂さん。案外楽でした。男二人だったし」

 「そっか。ありがとうね。ここに荷物置くね?」

 「どうぞ」

 
 すでに尾上さんたちの荷物がある端っこに、御坂さんも荷物を置いたので、俺もそれに続く。戸塚君のパーカーが風で飛んで行ってしまわないように、カバンとカバンの間に挟み終わると、御坂さんが俺の方に微笑みかけた。


 「じゃあ、貝拾いに行こっか」

 「あ……はい。けど……」

 「ん?」

 「あの……先生は?」


 ここにいるはずの先生がいない。尾上さんを見つめると、尾上さんはバツが悪そうに苦笑を漏らした。


 「広なら、ビール買いに行かせたよ」

 「もう。尾上くん、後輩使い荒いんだから」

 「はは。まあまあ」

 「……」


 (偶然、だよね……?)


 もしかしたら顔も見たくないほど怒ってるのかも、なんて最悪なことを考えてしまう。このまま仲直りできなかったらって考えると、苦しくて苦しくて。自分が悪いのに、泣いちゃいそうになる。


 「心くん?高谷さんのこと待とうか?」


 優しく話しかけてくれた御坂さんに、俺はフルフルと首を振った。


 「貝……行きたいです」

 「……そう?じゃあ、尾上くん、荷物番お願いね」

 「はい。いってらっしゃい」


 俺、最低だ。

 早く謝らなきゃいけないのに、先生と顔を合わせるのが怖くて怖くて。

 
 (逃げちゃった……)


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