先生、おねがい。

あん

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 (い、言っちゃった……っ)


 自分の気持ちを言い終えると、途端に恥ずかしくなって、俺は目を伏せた。

 ドクンドクンと心臓が脈打つのを感じながら、先生の反応を待つけれど、いつまで経っても先生の声は発せられない。


 「せんせ……?」


 不安になって視線を先生に向けると、先生は面を食らったような顔をしていた。目が合った瞬間、ハッとした表情に変わった先生が、苦笑いを浮かべる。


 「ごめん……まさかの答えに、動揺してた。その……本当に?」

 「……っ。ほ、本当に……先生が、好き……です」


 先生の自信なさげな問いかけに、つい答えてしまったけれど、二度目となると羞恥心がさらに増して、語尾がどんどん小さくなってしまった。

 先生は無意識なのか、俺の頭をよしよしと撫でながら、「あー」とか「うーん」とか唸って、数秒後にコツンとおでこ同士を合わせてきた。


 「せ、せんせっ……!?」


 突然のことに驚き、声が裏返ってしまう。だって、大好きな先生の顔がこんなに近距離にあって、緊張しないわけがない。

 先生の体温と、匂い。

 心臓はバクバクと脈を打ち、火傷するのではないかと心配になるほど、おでこに身体中の熱が集まっていく。


 「はー……ヤバい。色々駄目なのに、すごく嬉しい」


 伏し目がちに呟いた先生が、ゆっくりとまぶたを上げて、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳に、俺を映す。


 「ほんと……可愛い」

 「……っ」


 胸が痛いほどに鳴り、もう心臓が保ちそうになくて、ぎゅっと目を瞑った瞬間。


 「望月ー!!」


 ドアが開く音とともに保健室に響いた、元気いっぱいの声。その声の主は、言わずもがな。

 動けなかった俺の代わりに、先生がとっさに離れてくれたけど、時すでに遅し。山田君の腕から大量のペットボトルが転げ落ちたのが、その証拠だ。

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