先生、おねがい。

あん

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 放課後。

 バイト先の更衣室でひらひらエプロンの制服に着替えてから、厨房に顔を出すと、御坂さんと尾上さんがいた。


 「こんにちは」

 「心くん!こんにちは」

 「こんにちは。望月君、今日も早いね」


 微笑んで迎えてくれた二人に深々と頭を下げる。


 「今日からまた、よろしくお願いします」

 「こちらこそだよ」


  顔を上げると、御坂さんがうっとりとした表情で俺を見ていた。


 「心くん、やっぱりその服似合うね。また新作作ろうかな」


 御坂さんの言う通り、俺の制服だけ御坂さんの手作り。服を作るのが趣味らしくて、仕上がりは既製品みたいに綺麗だ。御坂さんの器用さは本当に凄いと感心する。

 
 「ねえ、心くん。背伸びた?測り直そうか」

 「い、いえ、伸びてないですけど……」


 (バイト始めてから二ヶ月で、もう5着目……)


 御坂さんが作ってくれる服は全部可愛いから嫌なわけじゃないけど、布代とか手間とか色々申し訳なくて困ってたら、尾上さんが助け舟を出してくれた。


 「こーら、御坂さん。望月君は着せ替え人形じゃないんですから」

 「えー。だって、心くん可愛いから何でも似合うんだもん。ねえ、心くん?」

 「え、えっと……」

 「ほら御坂さん。今日はお偉いさんと予定があるんでしょう?早く行かないと」

 「あ、そうだった。じゃあ、あとはよろしくね。尾上くん」

 「了解です」


 俺にも「ばいばい」って手を振った御坂さんが、裏口へと向かって行った。それを見送った尾上さんが、俺に苦笑を向ける。

 
 「御坂さんは、望月君にぞっこんだね」

 「そう、ですか……?」

 「うん。あんなにハイペースで服作るなんて、今までになかった」


 御坂さんと尾上さんは大学の先輩後輩だったと言っていた。


 (長い付き合いって素敵だな……)


 お互いのことを分かり合ってる感じが、なんだか羨ましい。そんなことを思ってると、尾上さんが俺の頭にポンと手を置いた。


 「まあ俺も、望月君のこと可愛いと思ってるけどね」

 「え?」


 ボソっと呟かれた言葉を聞き返したけれど、尾上さんは微笑むだけだった。


 「じゃあ、そろそろお客さん増えるし、仕事しようか」

 「は、はい!ホール行ってきます!」

 「うん。よろしく」


 ホールに行って、前の時間帯の人と交代する。

 店内が満席になる頃には、さっきの聞き取れなかった言葉のことはすっかり忘れ去っていた。
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