先生、おねがい。

あん

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 ショッピングモールに到着して最初に向かったのは、台所用品のお弁当箱のコーナー。

 サイズもデザインも色々なものがあって迷う……ことはなく、俺はある一つの青色のお弁当箱に釘付けだった。ただの無機物なのに、妙にキラキラして見えるそれから目が離せない。


 (これって……)


 無意識のうちにそれを手に取ったところで、ふっと影が差して、視界が少し暗くなった。


 「気に入ったのあった?」

 「ひゃっ」


 突然の声に驚いて思わず落としそうになったお弁当箱を、慌てて掴み直す。なんとか落とさずには済んだものの、心臓はバクバクと鼓動を続けていた。

 恐る恐る見上げた先には、何か身に覚えがありそうに首を傾げる先生がいて、俺はいたずらがバレた子どものような気分になった。もちろん、悪いことをしたわけではないけど……。


 「ん?これって……」


 ……そう。先生の予想通り、今俺の手の中にあるのは先生のものと同じお弁当箱の、いわゆる色違いだ。


 「ち、ちが……これは、その。ちょっと、持ってみただけっていうか……」


 先生と同じものが欲しいなんて流石に引かれると思って、とっさに取り繕おうとしたけど、先生はそのお弁当箱をひょいっと持ち上げた。そしてそのまま、スタスタとレジの方へ向かって行ってしまう。


 「えっ、せ、せんせい?」

 「会計してくるから、待っててな」


 呆然と先生の後ろ姿を眺めること数分、会計を終えた先生が俺のところへ戻って来て、袋を差し出した。顔には爽やかな笑顔を浮かべている。

 
 「はい、どうぞ」

 「あ……ありがとうございます……」


 (引いてないの……?)


 おずおずと袋を受け取る俺の心配をよそに、先生は俺の頭をよしよしと撫でた。


 「お揃いだな」

 「お揃い……」


 (先生とお揃い……嬉しい……)


 今まで誰かとお揃いのものを持ったことはなくて、初めての嬉しさにぎゅうっと袋ごとお弁当箱を抱き締めた。


 (先生といると、たくさんのをもらえるな……)


 その度に心がポカポカあったかくなる。もちろん、今も。


 「あ、笑った」

 「……え?」

 「初めて見たな、心の笑顔」


 (俺、ちゃんと笑えてた……?)


 昨日山田くんに言った言葉はそのままの意味で、俺は上手く笑えないから頑張らなきゃって思ってた。それなのに、無意識に笑えてたなんて、びっくりだ。

 自分のほっぺに手を当ててみてもよく分からない。変な顔になっていないか心配だったけど、すぐにそれは杞憂だったと分かる。


 「可愛い」

 「……っ」


 先生のその言葉に、胸がぎゅうっと痛くなった。

 先生と一緒にいるようになってから、何度も経験したこの痛み。今まで経験したことがなかったから、この感情が何なのかまだ分からないけれど、これだけは分かる。


 好き。

 先生と一緒に過ごすこの時間が、大好き。


 心からそう思った。
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