先生、おねがい。

あん

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 放課後。

 予定通りバイト先へ出向いて辞めさせて欲しいと伝えた。二つとも運良く人手が余っていたから、難なくことは済み、最後に御坂さんのお店に来た。


 「こ、こんにちは……」


 裏口から顔を出すも、数日前に迷惑を掛けてしまったばかりで緊張する。


 「心くん!身体はもう良いの?」


 ちょうど通った御坂さんが俺を見るなり声を上げ、他のスタッフさんたちも顔を出す。


 「あ、えっと……先日は、ご迷惑かけてすみませんでしたっ」


 勢いよく頭を下げた。


 (みんな怒ってるよね……俺がいない分、忙しかっただろうし)


 自分がそれほど戦力じゃないのは分かっているけど、迷惑をかけたのは事実。嫌味の一つや二つ言われても仕方ない。そう思って恐る恐る顔を上げたけれど、怒った顔の人は一人も居なかった。


 「大丈夫。望月君いつも頑張りすぎって思ってたし。今日は元気そうで良かった」


 眼鏡をかけていて、肩にかかる黒い髪を後ろで纏めているのは、厨房担当の尾上さん。ここの正社員さんで、一番長く働いてる、お兄さん的存在。


 「たっく、心配させんなよな。アホ望月」


 この人は同い年でバイトの戸塚君。口は悪いけど本当は優しくて面倒見がいい。赤髪でピアスをしているから最初は怖かったけど、最近は少しだけ慣れてきた。

 他にもスタッフさんはいるけど、シフトが被ることが多いのは大体この二人。

 そして……。


 「ほんと何事もなくて良かったよー」


 おっとり優しい美人な店長さんが、御坂さん。サラサラな亜麻色の髪が、御坂さんの雰囲気によく合っていて、見ているだけで心が洗われるよう。
 
 こんな良い人たちがいる場所で働けるなんて、本当に凄いことだ。今日だって、誰一人として俺のことを責めないし。


 (恵まれてるな……)


 「ありがとうございます」


 感謝の意を込めて、俺はもう一度皆さんに頭を下げた。


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