先生、おねがい。

あん

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 「もーちづきっ!」

 「わっ!山田君……」


 お昼休みになってすぐ、突然背後から抱きつかれて驚いた。

 彼の席は一番前の真ん中なのに、いつの間に後ろの席まで移動して来たのだろう。ひょっとして山田君は驚かしの天才かもしれない。

 俺の肩を抱いてる手に持っているのは、昨日と同じコンビニの袋。あまりに乱暴な扱いに中身の状態が気になってしまうけど、山田君は特に気にした様子もなく、ニカッと笑ってその袋を掲げてみせた。


 「昼飯!一緒に食べよう!」

 「う、うん。でも、大丈夫なの……?」

 「んん?何が?」

 「友達、とか」


 前の席の椅子に跨る山田君に、恐る恐るそう尋ねた。

 今まで一緒に食べていたはずの友達を放って、俺なんかと二日連続で食べて大丈夫なのだろうか。


 「あー、いーのいーの。あいつらとは放課後遊びに行くし!昼は望月とって言ってある!」
 
 「そっ、か……」


 俺の微妙な返事に山田君は首を傾げる。


 「まだなんか気になる?」

 「あ、えっと……山田君が、こっちに来てくれるんだなって」


 今までも声をかけてくれる人はいた。だけど、俺を仲間に入れようとしてくれる人ばかりで、うまく馴染めないうちに誘われることもなくなっていった。

 でも山田君は違う。俺を自分たちの輪に入れようとはしない。

 それが不思議でならない。


 「当たり前じゃん。俺が仲良くしたいんだからさ。まあ、みんなも望月のこと気にしてるけど、とりあえずは俺と仲良くなってからってことで!」

 「いいのかな……」


 山田君のことを好きな人はいっぱいいると思う。そんな彼を俺が独り占めしちゃうなんて恐れ多すぎる。


 「良いんだって!だってせっかく俺が声かけたのに、俺より先に他のやつと仲良くなっちゃったら悔しいじゃん?」


 山田君は「俺、性格悪い?」なんて苦笑したけど、俺は首を振って否定した。

 だって、きっと山田君は俺が人と話すのが苦手だって分かってるから強要しようとはしないんだ。だから、これは山田君の優しさなんだと思う。

 ずっと声かけてもらってたのに、偏見で苦手って思ってた自分が恥ずかしい。先生のことでも思い知ったし、考え方を改めなきゃ。


 「……山田君」

 「ん?」


 まずは素直な気持ちを伝えようと、頭を下げる。


 「あり、がと」


 本当にありがたい。

 昨日から嬉しいことばかりだ。先生と一緒に暮らすようになったり、山田君みたいな人と仲良く出来たり。

 誰とも話さないで一日が終わることもあったのに、昨日と今日で一週間分くらいは会話した気分だ。


 「こんなに幸せで良いのかな……」


 慣れない幸福感に自然とそんな言葉が溢れた。

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