先生、おねがい。

あん

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 「望月?」

 「せんせ……おねがい。おね、がい」


 何度も同じ言葉を繰り返す俺を心配した先生が、お茶碗を机に置いて、側に戻って来てくれる。

 手を俺の背中に添えて顔を覗き込んできた。すごく心配そうな顔。その顔を見ると、また胸がぎゅっとなって泣いちゃいそうになる。


 「一人?一人って、叔父さん帰って来るだろ?」

 「……」


 首をふるふると横に降る。


 「帰ってないのか?まさか……ずっと?」

 「……ん」


 今度はコクっとうなずいた。

 そうしたら、先生は俺の頭に手を置いた。

 きっと無意識なんだろうけど、すごく安心して、その後の質問には言葉で答えることが出来た。


 「……いつから?」

 「小学のときから、帰らない日が何度か続いて……中三になる頃には、まったく。たまにお金置きに帰ってたみたいだけど……それも今は、振込みだから……」

 「バイトは?充分な額じゃないのか?」

 「お金はいっぱい余ってる……けど、なるべく一人で家に居たくなくて……三つ掛け持ち」


 高校に入ってから二ヶ月。毎日バイトをして、今日ついに倒れてしまった。

 あまりに情けなくて呆れられるって思ったけど、先生は俺のことを抱きしめてくれた。優しいのに、力強く。全部を包み込んでくれるかのようにぎゅっと。


 (あったかい……)


 「……寂しかったな。もっと早く来てやれば良かった」


 そう言って、優しく、優しく撫でてくれる。

 頭から降りてきた手がするりと頬を撫で、瞳から溢れた雫を拭ってくれた。もう泣かなくて良いよって言うみたいに。


 「もう疲れたろ?今日は俺がいるから、安心して寝な」

 「いてくれる……?帰らない……?」

 「ああ。いるよ」


 (嬉しい)


 先生がいてくれることに安心した俺は、先生の大きな身体に体重を預けて目を瞑る。


 「おやすみ」


 しばらく馴染みのなかった懐かしい言葉を聞きながら、誰かと同じ家にいる幸せを噛み締めた。
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