幸せが訪れた日

Layla

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第五話 春人の思い

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菊代は家の前に着くと、春人にお辞儀をして家の中へ入っていった。春人は言いたいことが沢山あったが、解決策が浮かんでいない状態で何か言うのは無責任だと感じ、菊代の後ろ姿を見送った。

春人は自分の店に戻った。春人のカフェ―はいわゆる社交喫茶と呼ばれるタイプで、女給士は綺麗な着物や洋服に身を包み給士だけでなく、男性客の話し相手をするのが仕事であった。基本賃金はあまり良く無いがサービスに対して客からチップが貰えるのでこの時代の女性の平均給料よりも多く稼げるのが魅力であった。

春人は働いている女給士の話し声も上の空で菊代のことを考えた。菊代とは1時間ほど茶屋で会話しただけだが、菊代がただ美人な娘ということだけでなく、気立てが良く相手のことを考えて接する娘であり、菊代の魅力を以前にも増して感じ、菊代はこの店のナンバー1女給士になれると確信していた。

しかし春人のカフェ―では16歳から女給士として働くことが出来たのだが、菊代はまだ14歳。表で働かせ、男性客の相手をさせるのはまだ早すぎると春人は悩んでいた。
菊代の家の事情を知った今、春人の心には菊代を自分の店で働かせて少しでも菊代の力になりたいという気持ちも湧き始めていた。

悩んでいる春人の横に一人の女給士が座った。「店長どうかしたんですか?いつもなら店の娘たちの話に乗ったりジョークの一つも言うのに今日はだんまり悩み顔じゃないですか。」その女の名前は玲子といい、春人とは昔馴染みで人気も一番の女給士だった。春人は玲子には信頼を寄せているところもあるので、菊代の話を玲子にしてみた。

玲子は話をすべて聞いてから「そんな娘がいたのね。なんだか妬けちゃうわ。」と冗談交じりに言った後「春人さんはその子をどうしてもここで働かせたいのね?なら裏方仕事からさせたらどうかしら?」と提案した。

「裏方仕事?」と春人が言うと、玲子は「その娘料理とか裁縫とかは出来るんでしょ?」と聞いた。

春人のカフェ―では裏方は力仕事も多いが、衣装やカフェーで提供するお菓子や食事を作るのは裏方女性の仕事であった。
しかし、春人は菊代に何ができるのか、そこまでの情報は聞いていないので何とも言えずにいると、玲子が続けた「私達女給士は仕事の内容のわりに給料はよく無いけど、チップが貰えるからみんなこの仕事を好きでやってる。でも裏方はチップはないけどその分給料は私達より少しはましよね?今その子がどれだけ稼げているのかはわからないけど、流行っているカフェーの裏方の方が今の仕事よりは稼げるんじゃないのかしら?とりあえず話すだけ話してみたら?」
春人は玲子の提案を聞いて、明日菊代の家に行ってみることにした。
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