上 下
32 / 52
夏のお話

いい婿ムーブする誠慈君【視点混合】

しおりを挟む
「じゃあ、今日はこのまま泊まる?」

 サラッと提案する萌乃に、俺は「えっ!?」と驚いて

「い、いいの? そんなこと」
「親が居る時はエッチなことはできないけど、ただ泊るだけなら。うちの親は2人とも誠慈君が好きだし、大丈夫だと思う」

 いつも彼女の両親の留守に遊びに来ていたので盲点だったけど、確かに変なことをしなければ人目を気にする必要は無いのかもしれない。

「あの、じゃあ、本当に泊まってもいい? ご両親は迷惑じゃないかな?」

 萌乃はいいと言ってくれたけど、ご両親に図々しい男だと思われたら困る。

「心配なら、お父さんたちに聞いてみる?」

 海水浴ゴッコの後片付けをして普通の服に着替えてから、萌乃はスマホでご両親に尋ねてくれた。

 しばらくすると返信が来て

「2人ともいいって。お母さんはこれから買いものだから、誠慈君に夕食は何を食べたいか聞いてって」
「あの、それだったら……」

 お義母さんはパートで疲れているだろうに、俺の分まで作っていただくんじゃ悪い。

 かえって迷惑かもしれないけど、これから食材を買うなら泊まらせてもらう代わりに、俺が夕食を作らせてもらうことにした。


 突然泊まることになったのに、彼女のご両親は少しも嫌な顔をせず

「誠慈君もいよいよ、うちの子になって来たね!」
「ね~。誠慈君が来てくれると、ご飯を作ってもらえるから、かえって助かるわ~」

 と、むしろ喜んでくださった。


 夕食が終わって風呂に入り、しばらくはリビングで団らんしていた。

 ご両親が先に寝室に引き上げた後。俺と萌乃は、まだリビングに残って

「こんなに快く泊めてくれるなんて、萌乃のご両親は本当にいい人だね」

 事前に約束していたならともかく、今日は突然だったのに。

 お世辞ではなく心から、俺が泊まることを歓迎してくれた。

 しかし感激する俺とは逆に、萌乃は少し心配そうな顔で

「例によってお婿さんとして狙われているけど、本当にいいの?」
「……だって俺は結婚したいくらい好きだから。お婿さん扱い、むしろ嬉しい」

 離れたくない。帰りたくないは今日に限った話じゃない。

 こうして泊まらせてもらって、一緒にご飯を食べたりテレビを見たり、何気ない時間を過ごしたら余計に、ああ、俺はもう会いたいを通り越して、この子と暮らしたいんだと自覚した。

 俺ばかり恋しさを募らせても、萌乃には迷惑かもしれない。

 それでも自分の気持ちを誤魔化せなくて、控えめに打ち明ける。

 すると萌乃は優しく目を細めて

「……じゃあ、これからはお泊りの日を増やしたら? いつでもお婿さんに来られるように」

 予想外すぎる返事に、俺は「えっ?」と目を丸くして

「あ、あの、萌乃。それって」

 ソワソワする俺をよそに、萌乃は手で隠しながら小さくあくびすると

「……そろそろ寝る。お休みなさい」
「あっ、うん。お休み……」

 萌乃が自分の部屋に戻った後。俺はリビングに敷いてもらった布団に横になった。

 真っ暗な部屋で天井を見上げながら、さっきの萌乃の発言を思い出して

(さっきのお婿さんに来ていいってことかなぁ!? 期待してもいいのかなぁ!?)

 思い返しては何度も悶絶してしまった。


【萌乃視点】


 私も人様の家にお泊りなんてことになったら絶対に眠れないタイプだが、誠慈君も昨日はよく寝られなかったらしい。

 誰よりも早く朝を迎えた彼が何をしたかと言うと

「すみません。かえって図々しいかと思ったんですけど、昨日ご飯を喜んでくれたので。早く起きたついでに、朝食を作ってしまいました……」

 テーブルには誠慈君が作ってくれた見事な朝食が並んでいる。

 嫁ならともかく、まだ大学生の彼氏としては異常とも呼べる献身。

 人によってはヤバさを感じるレベルかもしれないが

「誰よりも早く起きて朝ご飯を作ってくれるなんて、いい婿すぎないかい、誠慈君!? 今どきの彼氏って、皆こんなかい!?」
「主婦失格かもしれないけど、今日は誠慈君のおかげでゆっくりご飯を食べられて嬉しいわ。ありがとうね、誠慈君」

 お父さんもお母さんも、あんまり気にしないタイプで良かった。

 ちなみに誠慈君はそれから週1で、うちに泊まりに来るようになった。遠慮深い彼にしては、けっこうな頻度だ。

 本人も言っていたけど、よほど私と一緒に居たかったんだろう。気づかないうちに、我慢させていたのかもしれない。

 そんな彼は泊りに来るたびに、美味しい夕食と朝食を私たち家族に振る舞ってくれる。

 恐らく真っ当な親御さんなら

「あんまり気を遣われると、かえって気を遣うね」

 と気疲れするところだろうが、うちの両親は

「いや~、萌乃は本当にいいお婿さんを捕まえたな~」
「また誠慈君が泊りに来てくれる日が楽しみだわ~」

 と素直に喜び、これまで以上に誠慈君が大好きになった。やっぱり男女問わず、胃袋を掴むって大事なんだな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。 そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!? 貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

処理中です...