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オマケ・結婚式と結婚初夜
神様がくれた人
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ユエルを待っているつもりが、私はどうやら眠ってしまったらしい。
ドレス姿のまま椅子に腰かけて、寝室で眠り込んでいる私を見つけたユエルは
「……ん? ユエル?」
私を起こさないように静かに抱き上げると、ふわりと微笑んで
「今日は疲れたでしょう。ベッドに運びますから、そのまま休んでください」
温かい腕に抱かれて、優しい声に促されるまま再び目を閉じかけたが
「って、今日は初夜じゃなかったっけ?」
普段ならともかく特別な夜だ。ユエルにも待っているように頼まれていたことを思い出して、ベッドの上でガバッと身を起こした。
けれどユエルは待ちくたびれて眠っていた私を寛容に許したばかりか
「結婚式と慣れないパーティーで疲れましたよね。マスターのお身体のほうが大事ですから、今日はもう休んでください」
窓から青白い月明かりが差し込む薄暗い部屋の中。そのまま眠るように促した。
自分の欲求より私を大事にしようとする、ユエルの優しさだとは分かっていたが
「……やだ」
私は子どものように抱き着くと、「ま、マスター?」と戸惑うユエルに
「だって私だって、ずっと今日を楽しみにしていたのに。休んでいいなんて言わないで」
以前のユエルはまだ少年だったので、自分からして欲しいなんて口が裂けても言えなかった。だけど本当は、あの頃からユエルが大好きで、触れられたくて堪らなかった。
今ようやくユエルが大人になって、誰に恥じることなく求め合えるようになれた。それなのに簡単に「寝ていい」と譲ってしまわれるのは、私だけが待ち望んでいたようで、かえって寂しかった。
そんな気持ちからカッコつけの私には珍しく、自分から彼に抱き着いて拗ねてしまった。しかしユエルが「っ」と身を硬くするのを感じて、私はハッと体を離すと
「ご、ゴメン。我がままを言って。ユエルはもうその気が無いのに。女からこんなことを言って、ゴメンなさい」
ユエルの私への愛情は、敬愛が変化したものだ。普通の女のように強請ってはいけなかったのだと、慌てて撤回しようとしたが
「ゆ、ユエル?」
今度はユエルのほうが苦しいくらいに私を抱きしめて
「世界でいちばん愛している人から、求められて嬉しくないはずがありません。もう10年も待っていたんですから、僕だって本当は今すぐあなたが欲しい」
彼は少し掠れた声で言うと、私の返事も待たずに性急に唇を奪った。前は恥ずかしくて、いちいちたじろいでしまったが、ずっと触れたくて仕方なかったので
「ユエル、ユエル」
目に涙を浮かべながら、うわ言のように彼の名を呼んで、自分からも懸命に求める。しばらくは2人とも、夢中で唇を合わせて柔らかな舌を味わった。
ユエルはキスの合間に、存在を確かめるように私の髪や頬を撫でながら
「またあなたを抱きしめて、こうして唇を重ねたいと、ずっと望んでいました。二度と会えないと思っていたのに、本当に夢みたいです」
「私も」
同じ気持ちだと言いたかったのに最後までは言えず、とうとう涙が溢れた。ユエルは涙を拭うように目尻にキスすると、眩しそうに私を見つめて
「やっぱりマスターは神からの賜りものなんですね」
「えっ? どういう意味?」
いま神の恩恵を感じるようなことあった? 目を丸くする私に、ユエルは柔らかく微笑みながら
「だって同じ人間とは思えないくらいマスターは綺麗で尊いから」
婚礼衣装で泣く私の姿が、ユエルの目には驚くほど美しく見えたのだそうだ。
私は過分な褒め言葉に、喜びを通り越して羞恥に震えながら
「いや、絶対にそんな綺麗じゃないから……」
ユエルはいつも私を特別なもののように言うが、こちらからすれば綺麗なのも奇跡のように得難いのも
「……ユエルのほうがよっぽど綺麗でカッコよくて、神様がくれた人みたいだよ。君は子どもの頃から意志が強くて立派だったけど、今はもっと素敵になった」
ユエルと結婚できて幸せなのは、私のほうなのだと伝えたくて
「単に容姿が優れているからじゃなくて心が。当たり前のように人を思いやり、苦難の時でも折れずに進み続ける強さが、昔から好きなんだ」
見目が綺麗だからでも力があるからでもなく、人々を護る盾として立ち続ける強くて美しい心に、私は何より惹かれていた。
当時は伝えられなかった気持ちを素直に口にすると
「~っ、なんかもう」
「ど、どうしたの?」
急に片手で顔を覆ったユエルに、ビックリして問い返すと
ドレス姿のまま椅子に腰かけて、寝室で眠り込んでいる私を見つけたユエルは
「……ん? ユエル?」
私を起こさないように静かに抱き上げると、ふわりと微笑んで
「今日は疲れたでしょう。ベッドに運びますから、そのまま休んでください」
温かい腕に抱かれて、優しい声に促されるまま再び目を閉じかけたが
「って、今日は初夜じゃなかったっけ?」
普段ならともかく特別な夜だ。ユエルにも待っているように頼まれていたことを思い出して、ベッドの上でガバッと身を起こした。
けれどユエルは待ちくたびれて眠っていた私を寛容に許したばかりか
「結婚式と慣れないパーティーで疲れましたよね。マスターのお身体のほうが大事ですから、今日はもう休んでください」
窓から青白い月明かりが差し込む薄暗い部屋の中。そのまま眠るように促した。
自分の欲求より私を大事にしようとする、ユエルの優しさだとは分かっていたが
「……やだ」
私は子どものように抱き着くと、「ま、マスター?」と戸惑うユエルに
「だって私だって、ずっと今日を楽しみにしていたのに。休んでいいなんて言わないで」
以前のユエルはまだ少年だったので、自分からして欲しいなんて口が裂けても言えなかった。だけど本当は、あの頃からユエルが大好きで、触れられたくて堪らなかった。
今ようやくユエルが大人になって、誰に恥じることなく求め合えるようになれた。それなのに簡単に「寝ていい」と譲ってしまわれるのは、私だけが待ち望んでいたようで、かえって寂しかった。
そんな気持ちからカッコつけの私には珍しく、自分から彼に抱き着いて拗ねてしまった。しかしユエルが「っ」と身を硬くするのを感じて、私はハッと体を離すと
「ご、ゴメン。我がままを言って。ユエルはもうその気が無いのに。女からこんなことを言って、ゴメンなさい」
ユエルの私への愛情は、敬愛が変化したものだ。普通の女のように強請ってはいけなかったのだと、慌てて撤回しようとしたが
「ゆ、ユエル?」
今度はユエルのほうが苦しいくらいに私を抱きしめて
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彼は少し掠れた声で言うと、私の返事も待たずに性急に唇を奪った。前は恥ずかしくて、いちいちたじろいでしまったが、ずっと触れたくて仕方なかったので
「ユエル、ユエル」
目に涙を浮かべながら、うわ言のように彼の名を呼んで、自分からも懸命に求める。しばらくは2人とも、夢中で唇を合わせて柔らかな舌を味わった。
ユエルはキスの合間に、存在を確かめるように私の髪や頬を撫でながら
「またあなたを抱きしめて、こうして唇を重ねたいと、ずっと望んでいました。二度と会えないと思っていたのに、本当に夢みたいです」
「私も」
同じ気持ちだと言いたかったのに最後までは言えず、とうとう涙が溢れた。ユエルは涙を拭うように目尻にキスすると、眩しそうに私を見つめて
「やっぱりマスターは神からの賜りものなんですね」
「えっ? どういう意味?」
いま神の恩恵を感じるようなことあった? 目を丸くする私に、ユエルは柔らかく微笑みながら
「だって同じ人間とは思えないくらいマスターは綺麗で尊いから」
婚礼衣装で泣く私の姿が、ユエルの目には驚くほど美しく見えたのだそうだ。
私は過分な褒め言葉に、喜びを通り越して羞恥に震えながら
「いや、絶対にそんな綺麗じゃないから……」
ユエルはいつも私を特別なもののように言うが、こちらからすれば綺麗なのも奇跡のように得難いのも
「……ユエルのほうがよっぽど綺麗でカッコよくて、神様がくれた人みたいだよ。君は子どもの頃から意志が強くて立派だったけど、今はもっと素敵になった」
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「単に容姿が優れているからじゃなくて心が。当たり前のように人を思いやり、苦難の時でも折れずに進み続ける強さが、昔から好きなんだ」
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当時は伝えられなかった気持ちを素直に口にすると
「~っ、なんかもう」
「ど、どうしたの?」
急に片手で顔を覆ったユエルに、ビックリして問い返すと
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