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間の話・俺が思っていた初詣とちがう
全力神頼み(誠慈視点)
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それから電車とバスを乗り継いで、目的の神社に来た。もともと縁結びで有名なうえに、今は初詣シーズンなので、とんでもない人ごみだ。俺でも圧倒される人の多さなのに、萌乃は大丈夫かなと心配しつつ
「やっぱりまだ三が日だから人が多いね。はぐれないように手を繋いで行こうか」
コクンと頷いた萌乃と、手を繋いで境内を歩く。何気なく提案したけど、はじめての場所をこうして2人で手を繋いで歩けるなんて幸せすぎる。表向きは平静を装ったけど、心はまるで雲の上を歩くように、ずっとフワフワしていた。
お参りの列に並んでいる間に、俺はチラッと萌乃を見下ろして
「……あのさ。萌乃はどうしてこの神社を選んだの? 家からだいぶ遠いのに」
俺との縁結びのためなのか、やっぱり気になって真相を探ると
「ここ、縁結びで有名な神社なんだって」
それから萌乃は、いつもはしない初詣にわざわざ来た理由を話してくれた。でも、それは単なる縁結びじゃなくて
「クリスマスに、ちょっとずつ変わる約束をしたけど、やっぱり1人だと自信が無くて。神様にお願いしたかった。誠慈君を幸せにできる自分に、いつかちゃんとなれますようにって」
普通は縁結びの神社に行ったら自分の幸せか、よくても2人の幸せを願うだろう。それなのに萌乃は、俺を幸せにできる自分になりたいって。自分よりも俺の幸せを考えてくれたらしい。外出が苦手なのに、電車とバスを何時間も乗り継いで。
俺が見ていない時も、ずっと指輪をしてくれていたことといい、この子は天使なのかな?
俺は萌乃の類まれな優しさに心を打たれながら
「萌乃はもう十分、俺を幸せにしてくれているよ」
抱き締めたい気持ちを抑えて、彼女の手をギュッと繋ぎ直した。
やがて列は進み、俺たちがお参りする番になった。
「誠慈君、お賽銭入れないの?」
財布を出したまま待機する俺に、萌乃は首を傾げたが
「ちょっと小銭が見つからなくて。萌乃は先にお願いしていて」
萌乃は素直に目を閉じて、拝殿に向かって手を合わせた。その隙に俺は財布からサッと3万円を出して、賽銭箱に投じた。バイトはしているが、俺は決して金持ちじゃない。それにも関わらず、あえて痛い出費だと感じる額を投じたのは
(すみません、神様。俺は今隣に居る子があまりに好きすぎて、彼女だけの幸せは願えません。俺の人生に萌乃が居て欲しいし、萌乃の人生に俺が居たいです。他の男には絶対に取られたくありません! 一生誰よりも大事にして、必ず幸せにすると誓いますから、どうか彼女と結婚させてください! ずっと一緒に居させてください!!)
俺の幸せを願ってくれる萌乃の隣で、思いきり私欲にまみれた願いごとをした。
今日ここに来るまでは「お賽銭に3万円は、流石にヤバいかな」と自重していた。でも、さっきの話を聞いたら完全に迷いが消えた。萌乃には悪いけど、やっぱり何がなんでも結婚したい。そのための努力は神頼みを含めて、全て全力でしたかった。
目を閉じて静かに手を合わせる萌乃と違い、俺は何か念でも放っていたのかもしれない。賽銭箱に3万円を突っ込み眉間に皺を寄せてギリギリと拝殿に手を合わせる俺を見た他の参拝客が「しゅ、執念がすごい……」と、ちょっとざわついた。
しかし幸い萌乃は何も気づかなかったようで
「誠慈君は何をお願いしたの?」
無垢な目で問う彼女から、俺はやや視線を逸らしつつ
「……萌乃とずっと一緒に居られますようにって」
「そっか」
嘘は吐いてないけど、俺の神頼みは全力すぎて、願掛けというより呪いかもしれない。
萌乃は俺の幸せだけを願ってくれたのに……と罪悪感が胸を刺すけど、そんな萌乃だからこそ、やっぱり絶対になんとしても結婚したい。
萌乃と結婚したいという願望を捨てることは俺には無理なので、せめてその座に相応しい男になれるように、今年は学校もバイトも、もっとがんばろうと新年の抱負にした。
「やっぱりまだ三が日だから人が多いね。はぐれないように手を繋いで行こうか」
コクンと頷いた萌乃と、手を繋いで境内を歩く。何気なく提案したけど、はじめての場所をこうして2人で手を繋いで歩けるなんて幸せすぎる。表向きは平静を装ったけど、心はまるで雲の上を歩くように、ずっとフワフワしていた。
お参りの列に並んでいる間に、俺はチラッと萌乃を見下ろして
「……あのさ。萌乃はどうしてこの神社を選んだの? 家からだいぶ遠いのに」
俺との縁結びのためなのか、やっぱり気になって真相を探ると
「ここ、縁結びで有名な神社なんだって」
それから萌乃は、いつもはしない初詣にわざわざ来た理由を話してくれた。でも、それは単なる縁結びじゃなくて
「クリスマスに、ちょっとずつ変わる約束をしたけど、やっぱり1人だと自信が無くて。神様にお願いしたかった。誠慈君を幸せにできる自分に、いつかちゃんとなれますようにって」
普通は縁結びの神社に行ったら自分の幸せか、よくても2人の幸せを願うだろう。それなのに萌乃は、俺を幸せにできる自分になりたいって。自分よりも俺の幸せを考えてくれたらしい。外出が苦手なのに、電車とバスを何時間も乗り継いで。
俺が見ていない時も、ずっと指輪をしてくれていたことといい、この子は天使なのかな?
俺は萌乃の類まれな優しさに心を打たれながら
「萌乃はもう十分、俺を幸せにしてくれているよ」
抱き締めたい気持ちを抑えて、彼女の手をギュッと繋ぎ直した。
やがて列は進み、俺たちがお参りする番になった。
「誠慈君、お賽銭入れないの?」
財布を出したまま待機する俺に、萌乃は首を傾げたが
「ちょっと小銭が見つからなくて。萌乃は先にお願いしていて」
萌乃は素直に目を閉じて、拝殿に向かって手を合わせた。その隙に俺は財布からサッと3万円を出して、賽銭箱に投じた。バイトはしているが、俺は決して金持ちじゃない。それにも関わらず、あえて痛い出費だと感じる額を投じたのは
(すみません、神様。俺は今隣に居る子があまりに好きすぎて、彼女だけの幸せは願えません。俺の人生に萌乃が居て欲しいし、萌乃の人生に俺が居たいです。他の男には絶対に取られたくありません! 一生誰よりも大事にして、必ず幸せにすると誓いますから、どうか彼女と結婚させてください! ずっと一緒に居させてください!!)
俺の幸せを願ってくれる萌乃の隣で、思いきり私欲にまみれた願いごとをした。
今日ここに来るまでは「お賽銭に3万円は、流石にヤバいかな」と自重していた。でも、さっきの話を聞いたら完全に迷いが消えた。萌乃には悪いけど、やっぱり何がなんでも結婚したい。そのための努力は神頼みを含めて、全て全力でしたかった。
目を閉じて静かに手を合わせる萌乃と違い、俺は何か念でも放っていたのかもしれない。賽銭箱に3万円を突っ込み眉間に皺を寄せてギリギリと拝殿に手を合わせる俺を見た他の参拝客が「しゅ、執念がすごい……」と、ちょっとざわついた。
しかし幸い萌乃は何も気づかなかったようで
「誠慈君は何をお願いしたの?」
無垢な目で問う彼女から、俺はやや視線を逸らしつつ
「……萌乃とずっと一緒に居られますようにって」
「そっか」
嘘は吐いてないけど、俺の神頼みは全力すぎて、願掛けというより呪いかもしれない。
萌乃は俺の幸せだけを願ってくれたのに……と罪悪感が胸を刺すけど、そんな萌乃だからこそ、やっぱり絶対になんとしても結婚したい。
萌乃と結婚したいという願望を捨てることは俺には無理なので、せめてその座に相応しい男になれるように、今年は学校もバイトも、もっとがんばろうと新年の抱負にした。
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